連載:となりの管理組合

理事会のベテランから学ぶ「できる理事長」がしていること

2022.03.08
理事会のベテランから学ぶ「できる理事長」がしていること

総戸数438戸を誇る大規模マンションブラウシア管理組合法人は、オブザーバー制度導入や組合法人化を始めとする管理組合の先進的な試みで、メディアでも度々注目されてきました。そんなブラウシアの躍進の背景には、過去に3期にわたって理事長を務めたOB、八柳博さんの存在があります。

今回は、現在もオブザーバーとして意見を求められる機会が多い八柳さんに「理事長はどうあるべきなのか」を聞くインタビューを実施。同時に、ともに理事会で活動してきた同マンションのオブザーバー高田豪さんにも八柳さんのエピソードを伺いました。

理事長として組合の方向性を指し示す

八柳さんがブラウシアの理事会活動に加わったのは、組合設立から7期目を迎えた2010年のこと。理事となったきっかけを、八柳さんは次のように語ります。

「理事会への参加は自ら進んでしたわけではありません、ただ単に輪番で回ってきたので、理事となっただけです。当初は『これがやりたい』といった目的も特にありませんでした。ただ、理事として住民のために何ができるかを考えていました」

ブラウシア管理組合で過去3期にわたって理事長を務めた八柳さん

八柳さんは当時IT関連企業に勤めていた経験もあり、理事会ではIT担当理事に名乗りをあげました。1年先んじてIT担当理事として活動していた高田さんが、後任として加わった八柳さんの印象を話してくれました。

「八柳さんは私の父親よりも年上で、当時すでに60歳を超えていらっしゃったと思います。IT担当理事は、マンションのインターネット環境の維持・向上を担当し、ITに関する最新かつ幅広い知識が必要になります。私がIT担当理事だった1年間でマンションのインターネット環境を大きく向上させたという自負があり、このスピード感で業務を継続して頂けるか、正直不安に感じていましたが、その懸念はまったくの杞憂に終わりましたね。八柳さんは長年IT関連企業にお勤めで、私以上にITに精通されていました。八柳さんがIT担当理事だった1年間で、理事会電子化を推進するためにネットワークストレージを導入したり、プロバイダーと協力して住民向けのインターネット講座を開催したり、プロバイダー、ケーブルテレビ会社との契約を見直したりと、強力なリーダーシップと実行力で管理組合の運営コスト削減とマンション全体のIT環境向上を同時に実現されました。また、すごい方なのに偉ぶることもなく、年下の私に対しても理事仲間として敬意を払ってお付き合いしてくれる人間性にも惹かれましたね」

当時IT担当理事として活動していた高田さん

そんな八柳さんの人柄を信頼し、高田さんは次期の理事長職に八柳さんを推薦。八柳さんの活躍をみていた周囲の理事達にも異論はなく、就任することになりました。八柳さんは理事会活動をたった1年しか経験していなかったにもかかわらず、トップを務めることに不安はなかったと話します。

「理事会の雰囲気や仕組みは理事として働いてある程度わかっていましたし、職務については企業勤めで培ってきた管理職のノウハウを生かしていけば問題ないと考えました。あらゆる組織には目標があって、個々のプロジェクトと課題が存在します。企業だろうが管理組合だろうが、課題解決のためには何を達成しなければならないかを考えることに変わりはないのです」

ただし八柳さんは、管理組合と企業の類似性だけではなく、両者の違いについても意識していたと付け加えます。

ブラウシア管理組合が考える企業と管理組合の違い

例えば企業の主たる目標は、決算の数字などで目に見えてわかりやすい利益の追求です。しかし管理組合は住民の満足度・幸福という抽象的なものであり、組合が目標に向かって活動できているかどうかを確認することは容易ではありません。

そのため八柳さんは、理事長在任中に理事達と協力してブラウシアの活動理念・ビジョン、行動指針の策定に着手。組合が向かうべき目標を共有することに務めました。

八柳さんは、管理組合活動が円滑かつ、正しく運営されるための方向性を指し示すことを「見えない軌道敷設を行うこと」と表現し、理事長の重要な使命だと強調します。

抽象的な項目を定義づけて明確化する
ブラウシア管理組合の理念

理事達の活躍を全面的にバックアップ

八柳さんは理事長の職務において大切なこととして、理事会の意思決定に対して「全面的に責任をとること」も挙げ、次のように語ります。

「以前、私がオブザーバーとして参加した理事会で、当時の理事長が『あくまでも個人的な意見だが』と前置きして発言したことがありました。その際に私はオブザーバーとして『理事長に個人的な意見はいらない。理事長としての意見をいうべきではないか』とはっきり指摘しました。個人的な考えを述べても保険にならず、責任をとるという理事長の職務から逃げていると感じたからです」

ブラウシア理事会の様子

八柳さんの活動を長年見てきた高田さんは、責任をとることに関する象徴的なエピソードとして、理事長在任中に実施した大規模修繕工事のときのことを話しました。

「大型マンションの大規模修繕工事では、実際に工事を行う施工会社と、調査・改修計画・施工会社の選定などを受け持つ設計監理会社の2社に分離発注する、『設計監理方式』を採用するのが一般的です。設計監理会社は技術力や実績などから集めた数社を比較して選んだのですが、当時の修繕委員会は『日々のマンション管理業務を任せている、ブラウシアの管理会社に設計監理を委託したい』と、通常ではない異例の提案をしてきたのです」

通常、管理会社は大規模修繕工事の組合予算を知る立場にあるため、その気になれば工事費の水増しや特定の施工会社に有利な入札をしたりして、不当に利益を得ることが容易にできてしまうというリスクがあることから、一般的には管理会社を敬遠して外部の設計事務所に設計監理を委託するケースがほとんどです。また、住民に不信感をもたれて強く反発されると計画がとん挫しかねません。

しかし、「八柳さんはリスクを知りつつも、理事長として責任を負って修繕委員会にすべてを一任した」と高田さんは話します。

「リスクがある反面、管理会社はブラウシアの建物や人を良く理解しています。マンションの問題個所を確実に工事計画に盛り込むことができるし、工事中の住民トラブルなども管理会社内で連携して対応することが可能です。アフターフォローにも期待ができ、メリットも多くあるのです」

高田さんは次のようにも話します。

「修繕委員会は日常の小修繕工事を通して管理会社のスキルや対応力をよく把握していたので、自分達がうまく主導することでリスクは排除でき、適正な価格と品質で工事を進めることができる確信を持っていました。この提案について意見を聞かれた八柳さんは、リスクがあるにも関わらず二つ返事で『私がすべて責任を取るから、修繕委員会を信頼してすべて任せる』と了承したのです。結果的に工事中のトラブルもうまく対応することができ、予算よりも低コストで全く問題が生じることなく大成功を収めたのです」

大規模修繕工事実施期間中のブラウシア

修繕委員の方々は自分達の考えを信頼してもらい、プロジェクトを全面的に任されたことでモチベーションを高くして修繕計画に携わることができました。このように八柳さんは理事会内の前向きな提案にネガティブな意見をいうことはほとんどなく「理事達がやる気を出して、活動できる環境づくりが非常に上手い」と組合で評判だったそうです。八柳さんは当時の考えを次のように語ります。

「一人のカリスマ理事長が組合を牽引するマンションもありますが、理事長だった当時の私が意識していたことはまったく違います。理事長は理事の活躍をバックアップできれば、それで十分だと考えていたのです」

仲間と徹底的にコミュニケーションを尽くす

理事長自らが理事会を牽引するのではなく、あくまでも理事達のサポート役に徹する八柳さんの考えは、理事会内での人との接し方にも現れています。

「理事会内での人間関係で大事なことは、何よりも同じ目標をともにする仲間意識を持つことです。たとえ自分の管轄外の課題でも、一緒に議論を尽くして解決しようという雰囲気を大切にしました」

このような姿勢は理事会内だけにとどまらず、管理会社のような外部の方々に対しても及ぶと、高田さんが話してくれました。

「八柳さんは、管理会社と突き詰めたい検討事項があれば担当者と夜遅くまで熱心に打ち合わせをすることも珍しくありませんでした。ときにはその後に『飲みに行きませんか』と担当者を気さくに誘うことも。さらに理事会で懇親会を行う際にも、八柳さんは管理会社の担当者を呼ぶこともありました。マンションの部外者であろうが、活動に協力してくれる方々に対して、ともにマンション管理に尽力する仲間だと言う意識が非常に強いのです」

管理組合のメンバーで飲み会を開催することもあった

ただし八柳さん自身は「仲間だからといって常に甘い顔を見せるわけではない」と語ります。

「管理会社が組合の目指す方向性と違うことをしたり、契約内容を守っていなかったりするとき、私ははっきりともの申します。ときには担当者を通り越して、管理会社の上司をマンションに呼び出すこともありました。身内である理事に対しても同じで、目的がよくわからないプロジェクトにお金を使おうとしたり、見積もりの内容に確認事項があったりすれば、納得がいくまで説明を求めます。このようにマンション管理に携わる仲間と、仕事でも親睦の場でも徹底的に『コミュニケーションを尽くすこと』が、理事長職においてもとりわけ大切なのです」

「できる理事長」と言えば、革新的なアイデアを発案・実行したり、強いリーダーシップを発揮してプロジェクトを推し進めていったりするカリスマ性を持った人物を想像するかもしれません。しかし八柳さんのように仲間と腹を割って接して連帯を深め、各人の持てる力を最大限に発揮できる環境をつくることで、管理活動を盛り立てていくスタイルもあるのです。

八柳さんは最後に、次のように語りました。
「ブラウシアの成功要因は、次の3つに集約されると思います。一つは能力と情熱のある理事とオブザーバーが結集し、円滑なコミュニケーションで改革を推進し継続出来ていること。2つ目に理念、ビジョン、行動指針が示す将来に向けた活動が住民にも認知され、それがマンションブランディング価値創造に繋がっていること。最期に、管理組合と管理会社との明確な役割と責任分担で良好な関係が構築されており、双方の成長の原動力になっていることです」

八柳さんが理事長だった頃から現在まで、理事会では八柳さんを見習って活発にコミュニケーションがとられています。充実したコミュニケーションが、多くの理事・オブザーバーのモチベーションアップにつながり、組合法人化や植栽の大幅リニューアル、バス停の誘致など革新的な取り組みを続ける原動力となりました。そして結果的に、多くのメディアに注目される管理組合へと生まれ変わったのです。管理組合が長期的に進化していくための鍵は、八柳さんが理事長時代に行った組織マネジメントにあるのかもしれません。

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この連載について

【連載】となりの管理組合

大規模修繕は、準備から完了までに2〜3年ほどの時間を要する一大イベント。なかでも管理組合から選出される修繕委員会は、このイベントにおいて必要不可欠な存在です。とはいえ、最初は誰もが初心者。「選出されたはいいけど、どうすれば?」と、疑問がたくさん浮かんでくることでしょう。本連載では、そんな疑問を解決すべく、実際に大規模修繕を経験したマンションに足を運び、編集部が修繕委員会の方に突撃!リアルな声をお届けします!

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