管理組合が運営のビジョンを明確化する狙いとは?
快適な住まい環境の維持と資産価値の向上を目的に、マンションの管理・運営を行っている管理組合は多いといえます。とはいえ、両方の目的を達成するのはなかなか簡単なことではありません。
そんななか今回取材したブリリアマーレ有明では、快適な住環境と高級マンションとしての資産価値を保ち続けるために、管理組合として1つのビジョンを作成しました。
ビジョンを明文化することは、マンションの管理・運営にどのような影響を与えているのか。理事長・藤田裕之さんに聞きました。
ブリリアマーレ有明が明確化するビジョンとは?
ブリリアマーレ有明は元々、ホテルのような高級感を売りとして販売されたマンションです。住み心地はもちろん「資産価値も落ちにくいのではないか」という理由で購入した人が多く、新築当初から入居している方が住民の半分ほどを占めるそうです。
「ブリリアマーレ有明には、高級感溢れるホテルライクな生活と、資産価値の下がりにくさに魅力を感じて入居した方が多いようです。とくに新築時から入居している方の多くは、旅先で泊まるホテルのような非日常感を保ち続けて欲しいと、思っているでしょうね。ですが、後から入居された方のなかには、管理費などが高額になるぐらいだったら当初使用していた備品にこだわり続ける必要はなく、コスパが良いものを買えば良いと考える方もいます。このように住民のなかで判断が分かれたときに、ビジョンがあれば、そこに立ち返って選択できるようになります」
ブリリアマーレ有明では「非日常が日常であるために」というビジョンと、それを実現するために「豊かな心を育てる場所」「自然と寄りそって暮らせる場所」「デザインと快適な空間の維持」という3つのコンセプトを掲げています。
資産価値だけでなく「無形資産価値」も両立するために考えられた、ビジョンとコンセプトだそうです。
「マンションを売却し、現金というほかの価値に返還する場合は『資産価値』と言えますよね。一方でマンションには日々の生活を送る住まいとしての機能もある。つまり、住まいとして見たときに快適に暮らせる住環境かどうかは『無形資産価値』ですよね。そのためビジョンやコンセプトを守ることで、資産価値だけではなく無形資産価値の維持・向上も両立したいと考えているんです」
そのため理事会での話し合いなどで意見が分かれた際には、必ずビジョンやコンセプトに立ち返り、考える時間を設けるようです。
「理事会で何かを決めるとき、決してすぐにはまとまりません。理事会自体は20代〜70代と幅広い年齢層で構成されており、それぞれ経験してきた仕事や時代背景の違いなどから、全員が異なった価値感を持っているためです。意見が分かれるのは前提として、このときにビジョンやコンセプトといった明確な方向性があると、どういう選択が一番理想的かを考えやすくなるんです」
ビジョンを共有する役割を「クレド」が担う
住民だけではなく、管理業務などを委託している業者なども含めると、ブリリアマーレ有明に関わる人は決して少なくありません。そこで、立場の異なる全員が同じ認識を共有するために「クレド」というカードも作成しています。
※マンションの管理・運営に関わる人に配られる「クレド」
「細かなルールで縛るのではなく『どういうマンションにしていくか』というビジョンを『クレド』として共有されることで、意見がまとまらずに『目的は何だっけ?』となったときにすぐ手元にあるカードを見返すことができます。住民だけでなく、マンションの管理・運営に関わってくる外部のパートナーさんにもクレドをお渡しすることで、全員が同じ方向を向くことができるんです」
例えば共有部の椅子が壊れた際、どこで購入するのか、議論されたことがありました。壊れたら交換する物だからと大手家具チェーン店の製品を挙げる方がいる一方で、海外の高級家具ブランドの椅子が良いのではないか、という意見もある。そこで、クレドを軸に「非日常を実現できるのは、どちらか?」という話し合いが行われたようです。
このケースではビジョンに照らせば高級家具ブランドの椅子でしょう、と思うかもしれませんが、管理費収入などから購入に充てられる資金が限られている分、すべての備品を高級仕様にするわけにはいきません。ビジョンに立ち返りつつも、お金を「かけるべき」「そうでない」部分を区別する必要があるのです。
結果として椅子に関しては、普段人が目にし、触れるものであるとの理由から高級家具ブランドの商品を購入することで意見が一致したといいます。
ビジョンがあるから管理組合の運営も円滑に進む
さらにブリリアマーレ有明では、注意書きを貼り紙として掲示することを避け、ピクトグラムで共有部分の使用マナーを提示しています。
「『ここは走ってはいけません』や『夜10時以降は未就学児は使用禁止』などと、共有部のルールやマナーを文章で書くと直感的に把握できませんし、何より共用部の非日常感が薄れてしまいます。ルールを表示するにもしても雰囲気を壊さないことを重視し、お子さんも見ただけで分かるピクトグラムを採用しました」
※コロナ禍によって手洗いや消毒を促すピクトグラムを、エレベーター内に掲示
「共用部におけるルールも、ビジョンにもとづいて、マンションの雰囲気を壊さないかどうかを重視しています。一つ一つ細かいルールを定めるわけではなく、必ずビジョンに立ち返って、そのルールが本当に必要かどうかから考える。そして必要となったら、ピクトグラムのようにビジョンに沿った表現方法をどうやって実現できるのかまで、話し合っていきます。1つのビジョンがあるからこそ、意見がまとまりやすくなり、マンションの管理もスムーズにいくと感じていますね」
価値観の異なるさまざまな人が入居するマンションだからこそ、全員の意見をまとめながら、管理組合の運営を行っていくのは簡単なことではありません。
しかし、ブリリアマーレ有明のようにビジョンを明確化することで、全員が同じ方向を向くことができる。それによって管理組合の運営も円滑に進むのかもしれません。
この連載について
【連載】となりの管理組合
大規模修繕は、準備から完了までに2〜3年ほどの時間を要する一大イベント。なかでも管理組合から選出される修繕委員会は、このイベントにおいて必要不可欠な存在です。とはいえ、最初は誰もが初心者。「選出されたはいいけど、どうすれば?」と、疑問がたくさん浮かんでくることでしょう。本連載では、そんな疑問を解決すべく、実際に大規模修繕を経験したマンションに足を運び、編集部が修繕委員会の方に突撃!リアルな声をお届けします!
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