連載:となりの管理組合

理事経験者が就く”オブザーバー”ってどんな役職?(前編)

2021.08.18
理事経験者が就く”オブザーバー”ってどんな役職?(前編)

マンション管理組合の執行機関である理事会。しかし一般的に構成員の理事は家庭の用事や仕事に追われ、活動に時間が割けなかったり、管理状況の把握や見直しがおろそかになったりする方も多いのではないでしょうか。そのため、実務は管理会社へ全面的に任せっきりで、サービスに不備があっても適切に交渉できる役員がいないという問題があるかもしれません。

そんなとき経験や知見を生かして管理会社と対等にわたり合い、ときには業務を委託せずに自ら処理する「オブザーバー」をご存じでしょうか?今回はそんなオブザーバー制度を採用している、千葉県千葉市中央区のブラウシア管理組合法人に、制度を導入した背景やどんな役割を果たしているかお伺いしました。

ブラウシアがオブザーバー制度を導入した背景は?

ブラウシアは千葉駅・千葉みなと駅から徒歩圏に位置する、20階建て、総戸数438世帯の大規模マンション。2005年に竣工し、管理組合の運営は2021年現在、第16期目を迎えました。

ブラウシアの外観

「はじめてオブザーバーを制度として導入したのは2013年の第8期からです。始まりは私ともう一人が、理事を退任した後も理事会活動に積極的に関わってきたことにあります」

そう話すのは、過去に理事会役員を経験し、退任後である現在も広報やIT関連の委員会でオブザーバーとして理事会活動に関わる高田豪さん。高田さんが組合活動に本格的にかかわり始めたのは、第6期の理事就任時からです。

「理事になった当時、管理会社をリプレイス(変更)しようという動きがありました。詳しくは申し上げられないのですが、管理会社から上がってきた報告が事実と違っていたり、お願いをしている仕事をちゃんとやらないということが多々あり、管理会社に対して不信感が大きくなったためです」

そこで高田さんは、理事に就任して2年目に管理会社のリプレイスを実施。しかし、新しい会社にも問題が多く、その改善は長期にわたりました。高田さんは理事を退任した翌年も、この案件をリードしてきた経緯から、管理会社の是正をすべく理事会活動を継続されたのです。

高田さんは理事会役員を退任した後もオブザーバーとして理事会の活動に携わっている

「もう一人、理事を辞めた後に、小中学校の統廃合計画について市に意見するため、マンションを一単位とする自治会を作ろうと尽力した方がいました。統廃合が実現したら、マンションの子供たちが普段通っていた2倍の距離にある学校に転校しなければならなかったからです」

二人はそれぞれが抱えている案件について、理事会に出席して活発に意見や企画提案を行いました。しかし立場としては、理事経験者ではありますが一組合員のまま。理事会での立ち位置は曖昧なものでした。

そこで立場を明確にするため、マンション管理組合総会へ「オブザーバー」について議案上程し、正式に制度として導入することになりました。つまり、特殊な案件を受け持つ人員として、オブザーバーという役職を便宜上創設したことが始まりとなったのです。

オブザーバーは理事会でどのように位置づけられている?

ブラウシアのマンション管理規約には、オブザーバーについて以下のように記載されています。

『オブザーバーの設置』

理事会は、その責任と権限の範囲内において、理事会活動の継続性を高めかつ理事会運営の円滑化ならびに活性化を目的として、オブザーバーを選任することができる。

1 オブザーバーの資格は役員経験者とする。

2 オブザーバーは理事会に出席して、意見を述べることができる。

3 オブザーバーの任期は1年とし、再任を妨げない。

4 その他、オブザーバーの設置については別に細則を定めることができるものとする。

これにより理事の任期が終わると、理事としてそのまま留任するか、退任して普通の組合員に戻るかのほかに、「オブザーバーとして理事会に残る」という選択肢が正式に生まれました。

オブザーバー立候補者については、その期の初回理事会で、就任可否について現役理事で議論・議決を行ったうえで、正式に就任します。

オブザーバーは理事同様、理事会のセキュリティーポリシーに署名することで、同会やその諮問機関である各委員会の活動情報へ自由にアクセスできます。

「例えばブラウシアにはフレンドリークラブ委員会という、夏祭りやクリスマスイベントの企画・運営など、住民コミュニティ焙煎を目的とした組織があります。オブザーバーは過去の経験・知見から、『過去こういう問題が発生したから、このようにしたほうがトラブルが少ないイベントになるのではないか』『他マンションではこのようなイベントを開催し、住民に好評なので我々でも企画してみてはどうか』など、フレンドリークラブ担当理事に対して委員会・理事会で直接アドバイスしています」

ブラウシア管理組合理事会の様子

しかしオブザーバーには議決権自体はないので、意見や提案は理事会で議決されない限り、実行されることはありません。これが、理事とオブザーバーの最も大きな違いと言えるでしょう。

現在は現役理事25人(監事1人含む)に対し、オブザーバーが14人。理事会に出席できる人数の3分の1以上を占めます。しかし新規でオブザーバーになる方は、そう多くないようです。

「一回の改選で、理事の9割くらいは通常の組合員に戻ります。オブザーバーとして残る人は一人いるかいないか程度」と高田さんは語ります。その理由には、現役オブザーバー達の精力的な活動にあるようです。

「現役理事の主な業務は、月一回の理事会(3~4時間)と、同様の頻度で開かれる所属グループの会合(2~5時間)への参加です。しかし、私も含めてオブザーバーは、複数のグループに参加しており、現役理事よりもかなりハードです」

高田さんは2つのグループ(理事会運営・広報)と2つの委員会(ブランディング・IT)に携わり、月4日程度理事会活動に時間を割いています。しかも、そこで提案する資料作りのため、毎週1日を費やすとのこと。

また、ブラウシアならではの活動にも積極的に関わります。

「例えば毎月、20ページ超の住民向け広報誌を制作しています。もともと8ページ程度の広報誌でしたが、コロナ禍で住民向けイベントが開催できず、住民と理事会との接触機会が減ったので、これまでお知らせしていなかった理事会における活動の詳細を住民の皆さんに知ってもらい、理事会を身近に感じてもらうために発案されたものです。理事会内で各記事の担当を決め、執筆を行います。執筆を引き受けるのはあくまでも任意ですが、これもオブザーバーが担当することが多いですね。毎回締め切りに追われるので『連載に追われる漫画家の気持ちがわかった』なんていうメンバーもいます」

ただ、積極的で活発な活動であることが、かえって理事を務める人によっては「私にはオブザーバーは荷が重いかも……」と腰が引ける原因になることもあります。そのため実態として、理事の方々にオブザーバーとして残るかどうかを尋ねると、「忙しそうだし、結構です」と残らない人が多いそうです。
逆の視点からみると、オブザーバーとなる人は、それだけ活動に意欲的な方々が多いということです。

「会社勤めだとなかなか自分の頑張りが会社の業績に反映される実感が得にくいと思います。しかしマンションは植栽や設備整備を行ったら、住民の満足度があがり、すぐにリアクションをしてくれる。また、自分が所有するマンションの資産価値も上がっていきます。それが達成感につながってますね。オブザーバーになる人は、そういった感情を共有している方が多いように感じています」

オブザーバーは誰が、どんな働きをしている?

ブラウシアのオブザーバーは、本業のスキルを活かして活躍されている方々が多いようです。

高田さんは例として、自身ともう一人、IT理事を1年間・理事長を3年間勤めたベテランオブザーバーの事例を紹介してくれました。その方は70代半ばと高齢ながら、IT関連企業に勤めていた経歴の持ち主。情報通信技術に精通しています。高田さんも大手通信企業に、現在も勤務中です。二人はかつて、理事として理事会電子化、マンション内のインターネット環境改善を共に実現した間柄です。

二人は理事退任後、オブザーバーとして11期目(2015年)から現在に至るまで、マンションにおけるインターネット回線の低コスト・大容量化に尽力しています。

次の資料はインターネット環境改善に着手した当時、高田さんが製作した理事会への提案資料です。そこには提案事項の概要やプロバイダの比較検討、交渉コンセプト、交渉結果などが細かく記されており、企業の打合せ資料顔負けの緻密さを誇っています。

高田さんが作成したインターネット環境改善についての資料

プロバイダ選定の提案事項が理事会で可決された後、企業との交渉は二人で協力して行いました。そのかいもあってか、ブラウシアにおけるインターネット環境のコストパフォーマンスは、目覚ましい向上を見せました。

コストを抑えつつ、回線速度が飛躍的に上昇

そのほかにも、オブザーバーには税理士や企業経営者など財務に精通した方や電機メーカーのエンジニア、システムエンジニア、ファイナンシャルプランナーなど各分野のプロフェッショナルが在籍しています。

理事会での決定権を持たないとはいえ、理事以上の働きを見せるオブザーバーは相当な発言力を持っていそうです。理事たちと、意見のすれ違いなどはないのでしょうか。

次回【後編】では、「オブザーバーのメリットとデメリット!どのように制度を運用すべき?」をお届けします。

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この連載について

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