理事経験者が就く”オブザーバー”ってどんな役職?(前編)
オブザーバーのメリットとデメリット! どのように制度を運用すべき?(後編)
理事経験者が議決権を持たないサポート役として、精力的に理事会活動へ携わるブラウシア管理組合法人のオブザーバー制度。続く後編では制度を導入して感じたメリットやデメリット、どのような運用をすべきなのかを、引き続き同組合の現役オブザーバーである高田豪さんに伺いました。
オブザーバー制度を導入したメリット・デメリットは?
高田さんはオブザーバー制度の最大のメリットとして「知識・経験が豊富なオブザーバーと、新任理事が持つ知見を融合・協力して組合運営に生かせること」を挙げました。
理事の任期は大半のマンション管理組合が1年、長い組合でも2年です。しかし高田さんは「2年間の任期だけでは、後任に引き継げるだけのノウハウを得るのは難しい」と話します。
「私も理事となった当時、管理会社のリプレースに奔走しましたが、周囲が同じ新任理事ばかりだったため、何から着手すればいいのか聞く相手がおらず苦労しました」
また、仮に理事の任期を長くした場合、今度は今までに無いスキルや知見を持った新任理事の就任機会が少なくなってしまうという弊害が起きます。議決権を持つ多くの理事達が長期間理事会に居座り、共謀して管理組合を私物化してしまう恐れもあるでしょう。
そんな弊害が生じないように、理事の任期を制限しつつ、議決権を持たないオブザーバーが運営に携わることで、理事会における知識やノウハウの継続性が担保されています。
しかし議決権を持たないと言っても、知識経験が豊富で、管理会社など協力会社とも付き合いが長いオブザーバーの理事会へ与える影響力は非常に大きいものがあります。高田さんはそれに関連して、オブザーバー制度導入によって起こる可能性があるデメリットを2点挙げました。
「1つ目は意思決定において主導的な役割を果たす理事と、助言・提案に務めるオブザーバーの立場が、実質的に逆転してしまうことです。理事は管理組合総会で住民から選ばれ就任していますが、オブザーバーは管理規約上立場が規定されているとはいえ、理事会で承認された立場でしかありません。管理組合は理事が意思決定すべきで、オブザーバーが行うべきではありません。」
幸いなことに、ブラウシアではそのような本末転倒な事態は起きていないようです。しかし高田さんは「理事会において、理事よりもオブザーバーの意見が多くなることがあります。議論を進めるうえで意見が多いこと自体悪いことではありませんが、理事の意見もしっかり拾って、最終的な判断ができるよう、会議のファシリテーションが重要です」と続けました。
「2つ目は理事会の仕事をオブザーバーが何でもこなしてしまい、理事の活躍する機会を奪ってしまうことです。これにより、仕事を通して成功体験を積み重ねることでやりがいにつながり、モチベーションを開花させることを妨げてしまう恐れがあります」
理事のなかには最初は乗り気ではなくても、様々な課題を仲間と一緒に解決し、実際にマンションが良くなっていくことを実感することで理事会活動に前向きになっていく方も多いそうです。その可能性が少なくなることは、長期的に見て理事会にとってマイナスといえます。
オブザーバー制度はどんな運用が望ましいか
高田さんは前述したデメリットを踏まえたうえで、次のように話しました。
「オブザーバー制度が上手く機能する鍵の一つは、実力確かな人物が理事長に就任することだと思います。ブラウシアでは、オブザーバーと理事とで意見が分かれた場合、理事長がうまく会議を仕切り、参加者全員が納得する結論まで持っていきます。理事の主体性を保ち、オブザーバーの存在をうまく生かすためには、人望が厚く、理事会活動の隅々にまで配慮が行き届いた人物を理事長にすることが重要となります。私が理事会に参加してから理事長に就任された6名の方々は、判断力、マネジメント力に長け、メンバーの意見をよく聞いてくださる人ばかりでした」
前編で取り上げた、高田さんとともにインターネット回線の低コスト・大容量化に務めた理事長経験者の方がその一人です。
「その方は私の父ぐらいの年齢です。普通であれば、若輩者の私なんかに業務を教えてもらうのはとても嫌だと思うんですが、あくまで新任理事として『何をすべきなのか学ばせてほしい』という謙虚な姿勢で接してこられました。理事会で一緒に活動をしていくうちに、現役時代IT企業で役員をされ、組織マネジメントに関しても確かなスキルをお持ちの方だとわかりました。そして何より、『管理会社は「業者」ではなく、ともにマンションをよりより良くしていく「協力企業」と呼ぶようにしよう』と理事だけでなく、関係会社にも細かい配慮ができる人物なんです。今もオブザーバーとして、一緒に理事会活動をしているなかで、社会人として、企業人として様々なことを教えていただいていますね。とても尊敬しています。またその様な人物は他に何人も理事経験者の中に存在しています」
高田さんが挙げた人物は「この人になら任せても大丈夫だ」という理事会の総意で、理事長に就任されました。その後もブラウシアでは当番制やくじ引きなどで理事長を決めることがなく、人柄や理事会での実績を総合的に判断して、話し合いながら選出しているそうです。
高田さんは「オブザーバーが理事の仕事を奪ってしまうという懸念に関しては、メリットとのトレードオフだと割り切ってます」と続けました。
「例えばブラウシアでは、ある一人のオブザーバーが主導して、5年もの期間をかけてマンションの植栽改善を成し遂げました。マンション内外からの評価が高く、千葉市主催の「千葉市都市文化賞2018」【景観まちづくり部門】で優秀賞を受賞し、植栽改善に取り組む様子はテレビのドキュメンタリー番組にも取り上げて頂きました。仮にこの案件を輪番で就任した理事が担当していたらどうでしょうか。理事は2年任期ですので、5年間という長期計画立案はあり得なったでしょう。また、仮に5年計画を立てたとしても、2年後に引き継ぐ理事の能力、モチベーションによりその後の成果が大きく左右されます。一緒に計画を進める植栽業者側も理事会側の担当者が変わらない方が業務を進めやすいと思います。そもそも、意欲的に日々マンションの住みごこちを改善したいと考えているオブザーバーだからこそ、5年間にも及ぶ長期植栽改善計画を立案、遂行し、完成できたと思います。オブザーバーは、マンションの日常業務よりは、長期的視点に立って、マンションの資産価値及び住みごこち向上に寄与する活動を主体に活動したほうが良いかもしれませんね」
デメリットはあるものの、総合的に判断すればモチベーションが高いオブザーバーが多くの仕事をこなした方がマンション全体の利益が大きいため、意図してオブザーバーの仕事を減らし、その分を理事に担当してもらう必要はなさそうです。
高田さんはオブザーバー制度を上手く運用するコツとして「オブザーバーのモチベーションをどうやって高めるか」を強調します。
「今回のように外部メディアに掲載されることについては、理事会にしっかりフィードバックしています。『皆さんの活動が、このような形で世の中に紹介され、マンションの資産価値向上につながっていますよ』と成果を感じてもらうために」
オブザーバー制度に関する今後の展望は
オブザーバー制度を今まで活用してきた経験を踏まえて、ブラウシアでは次のような構想を進めています。
「2年間の理事任期終了後は、理事を継続、オブザーバー就任、各委員会の委員就任、理事会から完全引退の4つの選択肢がありますが、ほとんどの理事は完全引退されますね。理事会活動を継続される方は、毎年数人しかいません。特殊技能をお持ちの方が引退されてしまうと、理事会としては大きな損失です。そういう方々が残りやすくなる仕組みを検討中です」
前編でも述べたとおり、オブザーバーの仕事量は、ときに現役理事を大きく超えるものがあります。そのため、勧誘されてもオブザーバーになることを躊躇してしまう理事もいます。
「例えば、先日、マンション内のサーバーが故障し、保存していた理事会関係の電子ファイルにアクセスできなくなったのですが、SEが本業の理事が専門業者に依頼することなく、自前で復旧してくれました。専門業者に依頼したら数十万円の費用がかかったと思います。その方も今年で理事任期満了となり退任される予定ですが、どのような形にしたらかかわりを続けてもらえるか、交渉しています。多くの住民が理事任期以外の期間においても、個人のノウハウや知恵を出し合い協力する事で管理組合の土台が強固なものになるのだと思います」
長年の理事会活動で培った知見やコネクションを活用して組合に貢献する、ブラウシアのオブザーバー制度。協力企業任せにせず主体的なマンション管理を行いたいならば、オブザーバー制度導入を検討する価値は十分にありそうです。
この連載について
【連載】となりの管理組合
大規模修繕は、準備から完了までに2〜3年ほどの時間を要する一大イベント。なかでも管理組合から選出される修繕委員会は、このイベントにおいて必要不可欠な存在です。とはいえ、最初は誰もが初心者。「選出されたはいいけど、どうすれば?」と、疑問がたくさん浮かんでくることでしょう。本連載では、そんな疑問を解決すべく、実際に大規模修繕を経験したマンションに足を運び、編集部が修繕委員会の方に突撃!リアルな声をお届けします!
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