Brillia City横浜磯子自治会に学ぶ、これからの時代の自治会のあり方とは?
マンションには共用部の維持管理を主に行う管理組合のほかに、住民や地域との交流促進を図る自治会が存在する場合があります。自治会にはマンション全体の一体感を醸成する役割のほか、自主防災組織や国・地方自治体との窓口としての機能もあり、設立を検討している組合も多いのではないでしょうか。
ところが近年では、こうした地域の活動への参加が煩わしいという声も多くあります。ソーシャルメディアの普及により、地縁によらないコミュニティへの参加が簡単にできる時代になりました。管理組合と違い自治会は任意加入であることも相まって、若い世代の参加がまったくなくなってしまう自治会も見られます。
そんななかで「自治会レボリューション」という独自のマネジメント手法で夏祭りやオンラインイベントを大いに盛り上げ、住民同士の一体感を育むことで自治会の規模を徐々に拡大している「Brillia City横浜磯子自治会」という組織があります。今回はその会長を務める田形勇輔さんに、自治会の輪を広げていくコツをお伺いしました。
独自のタウンマネジメント「自治会レボリューション」
神奈川県横浜市の「Brillia(ブリリア) City 横浜磯子」は、全13棟からなる総住戸数1230戸の大規模マンション。自治会は2017年に設立され、現在5期目を迎えました。
2代目の自治会長である田形さんは、もともと上級バーベキュー(BBQ)インストラクターとして、横浜市内のBBQイベントで出店したり、セミナーを行ったりして地域を盛り上げていました。
「少なからず地域のコミュニティ活動に関わっていた経緯があってか2017年に、発足したての自治会から役員にならないかと勧誘を受けたんです。ちょうど長女が誕生した時期なので、『娘の故郷になる街』をさらに盛り上げていきたい」という思いがあり、役員に立候補して就任しました」
役員に就いた当時の自治会メンバーは、各棟から最低でも役員を1人は立てたいという自治会の方針により12人程度。自ら進んで立候補する方はほとんどいない状態でした。特にメンバーの中心はシニア世代だったので、田形さんは「若い世代が加入しづらく、さらに立候補者がいなくなってしまう」ことを懸念していました。
「そんななか、役員に加えて30人ほどのボランティアスタッフが参加した夏祭りで、バーベーキューのお店をプロデュースすることがあったんです。そこで印象的な出来事を目にしました。お店を手伝ってくださったボランティアの方々は暑い中、炭火のグリルを前にして、汗まみれ、煙まみれ、油まみれで作業していたのですが、それにも関わらず、みなさんは非常に清々しい表情をしていたのです。お客さんとなる住民への貢献を、心から楽しんでいる様子だということが、見て取れました」
このことをきっかけに義務感からではなく、自治会メンバーが自らが楽しんで自治会活動に参加できる環境をつくることが大切だという考えに至った田形さん。そこから着想したものが「自治会レボリューション」と銘打ったタウンマネジメントです。
役員就任2年目に自治会長に抜擢された田形さんは、早速このマネジメント手法を実行に移していきます。
「自治会レボリューションは自治会の活動を通して、住民の方々の『コスト』『報酬』『愛着アップ』という3つのステップを循環させていくもの」と田形さんは説明します。
「コストというのは、住民の皆さんがボランティアとして、自分の町のために費やす時間、汗、苦労のこと。バーベーキューの例で言えば、労力を費やしてお客さんにおいしいお肉をふるまうことにあたります。それに対して、報酬とは住民の皆さんからお礼の言葉がもらえたり、子供たちの笑顔をたくさん見られたりするという、お金以外で充足感を得ることです。そして、報酬をもらえると自分が住んでいるブリリアがもっと好きになり、愛着アップにつながります。愛着がアップすると『また来年も街に貢献してみよう』という思いが湧いてきて、『コスト』『報酬』『愛着アップ』のサイクルが循環するようになるのです」
それでは、3つのステップを循環させていくために、具体的にどのような運用を行っているのでしょうか。
「コストはイベントが始まってしまえば、自治会のメンバーは必然的に費やすことになりますので、行われるがままにしています。自治会として意識しているのは報酬をスタッフに還元することです。イベントが終わったあとに、住民からのアンケートに書かれたスタッフへの膨大な感謝の言葉を、冊子、総会の議案資料、マンションの掲示板、管理組合公式ホームページなどあらゆる媒体に掲載して『見える化』しているのです」
こうした取り組みは催しの成果を知らせるために、広く一般的に行われているものではありますが、Brillia City 横浜磯子自治会が掲載する感謝を述べたメッセージのボリュームは自治会としては段違い。その数は実に数百、千にものぼります。
「こうした感謝の言葉を目にした役員やボランティアスタッフから『役員になったことを誇りに思う』『もっと自治会の活動に参加したい』といった、愛着アップの声を多く聞くようになりました。それは嬉しいことですが何より、自治会の活動を行うメンバーが実際に増えていっていることが、マネジメントの成果を実感するところです」
夏祭りのボランティアスタッフは当初の30人から直近では140人に増加。その中から「もっと本格的に自治会活動に取り組みたい」と役員に立候補する方も増えていき、4年間の累計で16人が進んで役員に立候補しました。そのうえ、任期が満了した役員の中にも、退任後も引き続き自治会をサポートしてくれる人が出てきています。こうしたメンバーも含めると常時の自治会スタッフは約30人の規模に拡大しました。
しかし、自治会の活動が盛り上がりを見せていた矢先、今度は新型コロナウイルスの感染拡大という新たな問題に直面します。
コロナ禍でもマンションの一体感を醸成させた「Jichikai TV」とは?
コロナ禍により2020年に予定されていた夏祭りは中止。それでもBrillia City 横浜磯子自治会は活動の歩みを止めませんでした。
「新型コロナウイルスというものは、人とのつながりが断たれる災害でもあります。しかしそんなときだからこそ、地域のつながりと街の防災を担う自治会の真価を発揮するときなのではないかという考えがありました」
こだわりぬいたのは3密回避と街の一体感の醸成という、相反する2つのものを両立させること。そしてたどりついたものが「Jichikai TV」と呼ばれるオンラインイベントです。TVと銘打ってはありますが、運営者・参加者の双方からコミュニケーションできる催しで、冒頭はみんなで挨拶をし合い、その後は自治会で制作した番組を一緒に見て感想を話し合ったり、チャットで送り合ったりします。
放送されるTVプログラムは、地上波テレビ番組で見たことのあるような、馴染みの深いものになっています。「Youは何しにブリリアへ?」はオンライン社会科見学。マンション清掃員の方に取材して、仕事の様子を見学したり、近隣のスーパーマーケットで店長を務める方に、店のバックヤードなどを見させてもらったりします。「ブリリアの果てまでイッテQ」では、Brillia City 横浜磯子における、住民があまり目にすることのない様々な防災設備をバラエティ風に紹介。
それ以外にも、近隣の飲食店を紹介して応援する「出没!アド街ックブリリア」、音楽を発表する機会がない地域住民のための場を提供しようとする「丘の上ミュージックステーション」なども製作・放送しました。
「自治会内では住民に何を伝えたいのか、住民に向けてはどんな番組が楽しめるかということを確認しつつ、番組を製作しました。放送後、チャットやアンケートで感想を募ったら、全部で千件以上のメッセージが集まったんです。他のイベントと同様、冊子として自治会内で配ったり、HPに全文公開しており、なかには『ここに引っ越してきてよかった』『愛着がわいた』という声がありました。これほど嬉しい報酬はありません」
そのほかにも自治会では、カブトムシ図鑑の著者を招いて飼い方講座をオンラインで実施。コロナ禍以前に対面方式で開催したときには、役員が必死に声をかけてチラシ配っても20人集まるかどうかだったところが、一気に170人参加者の申込みがありました。また、同様にして開催した和菓子講座も告知したら即日満席に。
「オンラインの方が住民の参加率が格段に高いんですよ。特にアンケートで寄せられるのが『子どもが泣いたときに行き場がなくなることが無い。ミュートとカメラオフで対応できる』『マスクをいやがる子どもでも、着けずに楽しめる』といった、子育て世代の声です」
こうして子育て世代のイベント参加率が参加率が格段に上がり、その中から役員になる人も出始めました。直近の役員立候補者の半分が子育て世代の父親。田形さんが自治会に参加した当初はシニア世代中心の運営体制だった状態から、確実に役員の若返りが起きているのです。
総会資料もキャッチーに! 関心を持ってもらう取り組み
Brillia City 横浜磯子自治会の活動がこれほどまでに盛り上がりを見せている背景には、活動への関心を持ってもらうための取り組みの成果でもあります。
「現在、全国的な傾向として自治会への若い人の参加が減っていると思いますが、それを若者の無関心と決めつける向きが見受けられます。しかし実際は関心を引けるだけの活動ができていないという側面が強いと思うんです。そこでBrillia City 横浜磯子自治会では、活動を報告する総会資料ひとつとっても工夫を凝らすようにしています」
一般的に総会資料というと、白黒印刷で味気なく、議事内容が文章で羅列されているだけというイメージが強いですが、田形さんに見せていただいた資料は外部に向けるパンフレットさながら。約50ページ以上にのぼりますが、カラー印刷でわかりやすく、読むのが楽しくなるデザインにしています。
そして総会の形式も特徴的です。何と前述の「Jichikai TV」の形式で、オンラインで実施してしまうのです。
「『Jichikai TV総会特番』として、活動報告と並行して、1年間にわたるこれまでの活動を振り返る内容にしたんです。できるだけ事務的な内容を避け、子どもも参加しやすくて楽しめるイベントに仕上げました」
今までは事務的な内容に終始していたので、若い世代の参加者が特に少ない傾向でした。しかし今回の試みでは親子で参加する人が増え、「こんな総会面白い、次も参加しよう」という感想が増えた言います。
「自治会レボリューション」「Jichikai TV」などの取り組みも、どのようなものか知る機会がなければ、その効果は限られたものになってしまいます。その観点からも、Brillia City 横浜磯子自治会は「伝える」という点に気が配られています。
最後に田形さんは、こうした取り組みを総括して「『愛着』と『共感』を基盤にして活動してきたことが功を奏した」のだと強調しました。
共感とは活動の労力、コストをどのようにつかうかというときに意識するところ。例えば「Jichikai TV」では、「地域を盛り上げていきたい」という思いを持つ人々をとりあげることで、視聴者もその思いに共感を覚えると同時に、それをさらに喚起させることにつながっています。
それに対して愛着は地域に対するもので、「自治会レボリューション」のサイクルが最終的に目指すところ。地域への愛着がアップすることで、自治会への参加者が増えるほかにも、マンション生活の幸福度が格段に上がります。
これらはいずれも災害対策や行政との折衝といった、自治体の機能的な側面を直接追求していくものではありません。しかしこれによって田形さんは「地域が盛り上がれば暮らしの幸福につながると同時に、結果的に住民の間の絆が生まれ、災害時など共助の基盤にもなる」と熱を込めて語りました。
地域を盛り上げたいという理由のほかにも、地域の情報共有、学校とのやりとりなどを円滑に行うために自治会を新しく設立したいと考えている方は多いでしょう。いずれの場合においても、「地域に愛着を持ってもらう」という、自治会活動の普遍的な考えに立ち返って運営をしたほうが、上手くいくのかもしれません。
この連載について
【連載】となりの管理組合
大規模修繕は、準備から完了までに2〜3年ほどの時間を要する一大イベント。なかでも管理組合から選出される修繕委員会は、このイベントにおいて必要不可欠な存在です。とはいえ、最初は誰もが初心者。「選出されたはいいけど、どうすれば?」と、疑問がたくさん浮かんでくることでしょう。本連載では、そんな疑問を解決すべく、実際に大規模修繕を経験したマンションに足を運び、編集部が修繕委員会の方に突撃!リアルな声をお届けします!
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