マンションは『修繕』から『改修』へ
大規模修繕を控えた皆さんに向け、修繕工事までの道のりを説明していくこの連載。今回は、修繕を通じた原状回復だけでなく、さらに資産価値を向上させることを目的とした工事について解説していきます!
大規模修繕は資産価値の「維持」だけでなく「向上」も目的
大規模修繕はその言葉のとおり、劣化の修復など「修繕」を行うイメージがあるかもしれません。一方で、修繕ではなく「改修」によって、グレードアップを図ることもあります。この2つが大規模修繕の大きな目的となるわけですが、それぞれの工事内容の違いについて改めて整理してみました。
劣化や不具合を元に戻す「修繕」
築年数の経過や、紫外線などの外的要因によって建物に劣化や不具合が生じた場合、外壁塗装工事などによって建設当初の水準にまで直すことを「修繕」といいます。大規模修繕と聞くと、一般的にはこの「修繕」をイメージする方が多いでしょう。
修繕には、長期修繕計画をもとに計画的に行う「計画修繕」と、そのほか劣化や不具合が発生したときにその都度行う「経常修繕(=補修・小修繕)」とに分かれます。計画修繕は修繕積立金が使用されるのに対し、経常修繕は管理費を利用するのが一般的。ただ、明確に何を計画修繕とし、経常修繕とするかの詳細は各マンションの管理規約によって異なります。
マンションの機能を向上させる「改修」
マンションに求められる機能は、時代の変化や設備機器の進化などによって変わっていくものです。現在はマンションに住む人の高齢化も進んでおり、修繕によって建物の水準を元に戻すだけでなく、より暮らしやすさを追求するためにバリアフリー化を進めるなど、機能を向上させる工事も必要といえるでしょう。
こうした新たな機能を付加し、資産価値を向上させるような工事を「改修」と呼びます。前回の連載までは「修繕」がテーマでしたが、今回の記事ではこの「改修」をメインに、話を進めていきます。
建物の機能をUPする「改修」はなぜ必要?
前述したようにマンションの機能も、本来であれば暮らしの変化や設備機器の進歩などにあわせて向上させていく必要があります。しかし改修を実施せずに、最新の機能を有する新築マンションと比較してあまりにも差が出てくるようであれば、横並びで比較されるマンション市場において、相対的に資産価値が低下してしまうかもしれません。
そのため時代の変化に取り残されずに、将来にわたって資産価値を維持、また向上させていくためにも修繕だけでなく改修工事も必要といえるわけです。
以下では、参考までに国土交通省が発表している建物の陳腐化の例を紹介しますので、もし当てはまる場合は改修を検討する必要があるかもしれません。
改修って例えばどんなことをやるの?
では、改修工事では具体的にどのようなことを実施するのか。以降で、具体例を3つ紹介していきます。
【事例1】バリアフリーで高齢者のニーズに応える
たびたび文中でも触れている通り、改修工事の代表例としては、バリアフリーがあげられます。住民の高齢化にともない、例えばエントランスホールを拡幅したり、段差を解消したりといった工事で利便性の向上が期待できるでしょう。
またバリアフリーだけでなく、非常時の備蓄倉庫を設けるなど防災を意識した改修も実施できると、資産価値の向上に貢献できるかもしれません。
【事例2】タイル張りをアルミ張りに仕様変更する
老朽化したマンションが引き起こす問題としては、劣化したタイルなどの落下があげられます。万が一、落下したタイルが住民や通行人に当たれば人身事故となり、高額の補償問題がついて回るリスクもあるでしょう。
タイル張りは見た目に立体感が出ることから高級感が出やすいといった特徴がありますが、経年劣化による落下事故を引き起こす可能性もあるわけです。
そのためタイル張りの外壁塗装を、最新のアルミ張りに仕様変更するなどの改修工事があります。
とはいえアルミ張りへの仕様変更で安全性の向上が期待できるものの、色のバリエーションが少なかったり、外観を大きく変更することになったりするなど、メリット・デメリットを伝えたうえで住民からの理解を得る必要があります。
【事例3】駐車場を平置きに変更する
機械式立体駐車場は狭い面積であって駐車場台数を確保できるメリットはありますが、毎年のメンテナンス費が高額になったり、経年劣化による交換時にも多額の費用がかかったりしています。
そのため機械式の駐車場を廃止して平置きに仕様変更すると、将来のメンテナンス費用や交換費用を削減でき、なおかつ車の出し入れが行いやすいなどの利便性アップにもつながるでしょう。
共用部分を大きく変更する場合「4分の3以上」の賛成が必要!
改修工事の実施に関する最終的な決定は、大規模修繕実施時と同様に、マンションの購入者が参加する総会で決議を行う必要があります。
ただ、共用部分の大きな変更をともなうこともある改修工事は、決議のルールが異なる点は事前に知っておきましょう。
総会決議に関するルールは、国土交通省が2004年に改訂した「マンション標準管理規約」に記載されています。以前は、共用部分の変更があるケースもないケースも「4分の3以上の多数による決議」が必要でした。しかし、改正によって共用部分の変更がない、通常の大規模修繕は「過半数」に緩和。一方で、共用部分を変更するであろう改修工事については「4分の3以上の多数による決議」が必要になります。
以上、今回紹介したように古くなった設備を入れ替えたり、壊れた箇所を修復したりといった「修繕」だけでなく、資産価値を高める「改修」も含めて大規模修繕であることを知っておきましょう。
次回は、20年、30年を超えても資産価値を保つマンションの秘訣について紹介していきます。
イラスト:平松 慶
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この連載について
【連載】ついにやって来た!大規模修繕
約12年に一度の周期で訪れるマンションの大規模修繕。住まう人々が安心して暮らすため、また、建物としての価値を維持するために、とても大切なイベントです。とはいえ、修繕工事などと言われてもピンとこない方がほとんどでしょう。この連載では、そのような方に向けて、修繕工事に向けた準備の進め方の一例を順を追ってレクチャー!みんなが納得できる工事となるように、しっかりと準備を整えましょう!