マンションは管理を買う時代へ! 評価サイトが認める「管理良好マンション」とは?
『管理良好マンション』を目指すには!? アクションプランをプロが語る!
マンション管理の推進状況について独自の基準を設け、それを満たした選りすぐりの中古マンションを紹介している情報サイト『BORDER5』。前回はサイトの運営企業である、さくら事務所代表取締役社長の大西倫加さんと、さくら事務所マンション管理コンサルタント兼らくだ不動産エージェントである山本直彌さんに、サービスの概要について伺いました。
この『BORDER5』の掲載基準となる「組合運営力」「メンテナンス&資金力」「コミュニティ&住み心地力」「防災力」という4つの管理項目は、その一つを達成するだけでも優れた管理手腕が必要となる高いハードル。そのため「こんな難しい項目、うちのマンションじゃ達成できないのではないか」と考える方もいるかもしれません。
そこで続く後編では、引き続きお二人に、『BORDER5』に掲載されるような管理良好なマンションを目指すにあたってはいったい何から着手していけばいいのか、ということをお伺いしました。
マンション管理のモチベーション向上が鍵
一見するとマンションの評価・紹介サイトに見える『BORDER5』ですが、しかし大西さんが、プラットフォームを構想するに当たって大切にしたのは、マンション管理者を「讃える」「賞賛する」スタンスであったと言います。その背景には、マンション管理が上手くいっていない多くの組合が抱える、モチベーション不足を解決する必要があったからです。
「多くの組合が『マンションの将来のために良いことをしている』ということを認識しないまま、マンション管理を行っているのが現状だと思います。その原因には2つのものが考えられます。一つは『マンション管理をがんばる』ことで得られる、具体的なメリットがわからないこと。もう一つは多くの住民の方々が『サービスを買う』と言うことに慣れすぎていて、マンション管理を管理会社任せにし、自分たちで自分たちの住環境を整えるという当事者意識が希薄だということです」
そのため『BORDER5』には、掲載マンションが賞賛されることを通して「管理良好なマンションとは何か」ということの認知を広め、中古マンション取引市場において「管理良好である」という点が、購入者からの評価対象となるようにするという狙いがあります。これにより、マンション管理に取り組む理事の方々に、具体的な目標を指し示し、そのモチベーションがさらに喚起されることを期待しているのだそうです。一方で、高いモチベーションを持つに至っていない方々に対しても、マンション管理に努めることが住み心地や防災力向上につながるのだということを、伝える効果があるのです。
また山本さんも、多くのマンションが抱えているモチベーション不足について指摘しました。
「マンションには2つの『年を負う』という問題があるんです。ひとつは建物が古くなっていくことですが、もう一つが住人の方々が、年を取っていくということです。長く住んでいる方ほど、入居時の新鮮な感覚でモチベーションを高くしてマンション管理に邁進することはなかなか難しくなります。そのため望ましいのは、新しい人が入居して新しいマインドで管理運営に取り組むことですが、管理が上手くいっていなければ、買い手がなかなかつかず、新しい入居者もなかなか現れません。こういった負のサイクルに陥っているマンションは多いと思います」
ではこうした悪循環を抜け出し、『BORDER5』に掲載されるようなマンションを目指すためには、何を行えば良いのでしょうか。具体的なアクションプランをお伺いしました。
目指すは組合内で協力し合える仲間づくり!
マンション管理の業務執行は理事会役員が担います。山本さんがまず提案したのは、この理事会役員の選出方法の刷新です。具体的には、現在多くの管理組合が1年で理事会メンバー全員を改選しているところ、2年任期で理事の半数ずつが改選するように変更するというものです。
「これまで数多くのマンションを見てきましたが、傾向として、同じ人たちが役員を十数年やりつづけるというパターンと、常にメンバーが変わり続けるパターンに2極化しているように思います。前者は新しい取り組みがしにくくなってしまうという問題があり得ますが、後者は組合運営のノウハウが継続されづらくなるという弊害があります。そのどちらもカバーする手法として、半数ずつ改選という手法があるのです」
これにより既存の組合員のなかから、高いモチベーションや新たな発想を持ち合わせた方が理事会に参加できると同時に、マンション管理の経験がある既存の役員との交流が可能となるのです。山本さんは次のように述べます。
「マンション居住者のなかでは、管理とは誰が行うものなのかという主体が見えていない方々が大半だと思います。管理会社が管理してくれるものという認識では、その時点で管理良好マンションを目指すことはとても難しい。組合の継続性を担保しつつ『我々管理組合が管理の主体だ』と思える仲間を増やすという点において、この選出方法は非常に有効だと思います」
その次のステップとして大西さんは、管理規約の改定や長期修繕計画の見直しといった、新たな取り組みについて合意形成がしやすい環境をつくるために、住民同士のふれあいをもっと活発化させるべきだと語ります。
「まずは『こんなマンションがいいよね』というビジョンを他の組合員に話して『そうだよね』といってもらえる仲間を3人くらいつくることがいいと思います。すると孤軍奮闘ではなく、他の人たちの協力を得て合意形成に臨むことができます。そのやる気は、より多くの方々にも伝播していくことでしょう。これは中規模マンションで、組合で関わる人数が50人〜100人程度の規模である場合、特に効果的だと思います」
しかしマンション管理には「ライフサイクルコスト(構造物がつくられてから、その役割を終えるまでにかかる費用)が最小限となるように、費用対効果の高い修繕工事をしていく」「修繕工事によって建物の劣化を食い止め、資産価値を維持する」といった、日常生活ではメリットが想像しにくいことを目的としているものが数多くあります。そんななかで、住民同士でビジョンを共有するというのは、なかなか難しいかもしれません。
そこで大西さんが住民同士の共通認識として提示したものが「組合の活動を通して、充実したマンションライフを送る」という、普遍的な価値観でした。
「みんなで楽しんで」マンション管理を行う大切さ
大西さんはマンション管理に向けて仲間と取り組むことのメリットについて、さらに言及します。
「マンション管理を一緒にがんばる仲間ができたら、勉強会を開いてみるのもいいかもしれません。『他の組合ではこんな新しい取り組みをしているのか』『うちの修繕費、相場より高いんじゃないか』といった新たな気づきも得られ、それが仲間と共有し合える新たなビジョンにもつながります。そしてなにより、組合の活動もより楽しんで行う事ができるんです」
今は新型コロナウイルスの影響で人との接触がはばかられる時代。そのため、人間関係も仕事に関するものだけになりがちです。しかし管理組合の活動で仲良くなれるような人たちがいれば、生活がさらに充実するかもしれません。
「考えてみれば、コロナ禍においても比較的安全に、同じ空間・時間を共有しやすい存在というものは、マンションのご近所さんなんですね。そのためマンションに求める価値は、居住というサービスが提供されるただの箱としてではなく、その空間や時間でどれほどあたたかく濃い時間を過ごしたか、優しく濃い関係を築けたか、という考え方にシフトしてきていると考えています。地域コミュニティの活動が昔より停滞している現在においても、マンションは近所の人や幼なじみとの思い出作りの場となり、故郷となり得るのです」
最後に大西さんは、こうした地域コミュニティの一体感の象徴として、昔の自治会で数多く見られた夏祭りの盆踊り大会を例に挙げました。
「マンションの住民が協力してひとつのものをつくり上げ継承するという、夏祭りの盆踊りで得られる一体感は想像に難くないでしょう。地域コミュニティにおける、ひとつの型だと思います。これはマンション管理にも通じるところがあります。みんなで協力して、管理良好なマンションを目指す。その過程の難しさも含め、同じマンションの住民同士で協力し合う素晴らしさを住民同士でいかに共有できるかということが、マンション管理が活性化するための鍵になると考えています」
マンション管理に対して「面倒くさい」という負の側面ではなく、「活動を通して、マンション住民同士でともに豊かな時間をつくっていける」というメリットに目を向ける。それが結果的に、『BORDER5』に掲載されるというような、確かな実績に結びついていくのかもしれません。
(プロフィール)
さくら事務所代表取締役社長・大西倫加さん
広告・マーケティング会社などを経て、2004年さくら事務所参画。 広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を行う。2013年1月に代表取締役就任。2018年、らくだ不動産株式会社設立。代表取締役社長就任。不動産・建築業界を専門とするPRコンサルティング、書籍企画・ライティングなども行っており、執筆協力・出版や講演多数。
らくだ不動産・山本直彌さん
さくら事務所マンション管理コンサルタント・らくだ不動産エージェント。これまでに、不動産仲介会社、大手マンション管理会社を経て、2020年にらくだ不動産へ参画。既存の手法に捉われない提案をモットーに活動中。
この連載について
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