連載:マンション管理最前線

災害リスクにどうやって備える?マンション防災のすすめ

2021.07.15
災害リスクにどうやって備える?マンション防災のすすめ

津波被害の映像が全国に大きな衝撃を与えた東日本大震災や、多くの建物が倒壊した2016年の熊本地震。また、2019年に発生した台風19号では神奈川県での大規模な浸水被害の様子が大きく報じられ、地震以外についても災害対策の重要性が広く知れ渡ることとなりました。
突然起きては日々の暮らしに甚大な被害を与えるこれらの災害に対して、マンション居住者はどのようにして備えることが必要になるのでしょうか。防災のプロフェッショナルとしてテレビなどのメディア出演も多い、株式会社危機管理教育研究所の国崎信江さんにお話を聞きました。

防災は「先行投資」という意識で取り組む!

いつかやってくる震災に備えることが必要

国崎さんが代表を務める危機管理教育研究所では、日々の生活で起こりうる事故や災害などのリスクとどう向き合うか、防災・防犯知識の周知活動に取り組んでいます。国崎さんによると、「管理費を払ってマンションに住む人は、建物の管理保全とあわせて安全も買っているという誤った認識があり、かえって防災意識が低い傾向にある」と指摘します。

「日本では南海トラフや首都直下型など、いつ起きてもおかしくないと予測されている大規模地震がありますが、多くの人がそのことを知っているはずなのに、なぜかほとんどの人は実際に対策を行わないでいます。とくに共用部の防災設備などを管理会社に一任しているマンションの住人は、防災活動を仕方なく行うものだと捉えている傾向があるようです。しかし、防災対策を何かあったときに被害を最小限に抑えるための先行投資として考えるようになれば、大きく意識が変わると思います。」

防災活動に意識的に取り組むためには、具体的なイメージを持つことが重要だといいます。

「実際に被災を体験した人の話を聞くことは、災害の脅威を知るために効果的です。しかし、体験者の苦労話を聞いても、残念ながら同情するだけで終わってしまう人もいます。このような話を聞くときには、どのように質問をするのかが重要です。例えば、被災経験者に対して『もしも被災する3日前に戻ることができたなら何をしますか?』といったことを聞くと、具体的にどのようなことを準備するべきなのかが見えてくる。『自分ならどうするか』を考えることが防災意識を高めることにつながります」

被災するとこんなにも大変

実際に被災を体験した人にしか分からないことが多い

防災の重要性を知るためには、実際に被災した状況の具体的なイメージが重要。例えば被災した場合の経済的損失について知ることも、防災の自分ごと化に役立つといいます。

「例えば地震が起きて、家電製品から靴下一足に至るまで家財がすべて損壊したと仮定しましょう。すべての家財を買い戻す場合に、必要となる金額は3、4人の家族構成で、800〜1000万円とされています。こういったリスクを知っておくと、普段から防災に取り組んでおくことの重要性を感じられるのではないでしょうか」

被災者のための支援金制度もありますが、まずは自身で貯蓄をしておくことが重要だと国崎さんは指摘します。

「生活者再建支援金といった国の制度がありますが、そこに頼った考えではいけません。支援金は首都直下地震のように被害規模が非常に大きくなることが予測される大災害では、ひとりひとりへの配当額が低くなることが考えられます。義援金や保険も同様に、限りある資金を被災者全員で分けることで思いの外少額になることも。自宅が倒壊したのに小額の支援では心許ないですよね。ですから、私は災害を見越して普段からしっかり貯蓄しておくことをお勧めしています」

住民が知っておくべきマンションと災害のこと

マンションの共有部分は、住民全員での管理が原則です。そのため、被災した場合には、建物自体の被害状況によっては思いがけない費用が発生することもあります。

「よくあるパターンを例にしてお話しましょう。A棟とB棟があるマンションが地震で被災したとします。この時に、A棟が半壊したけれど、B棟が無傷の場合でも、A棟共有部分の修繕費用は管理組合の負担となりますのでA棟とB棟の区分所有者全員で折半します」

駐輪場や駐車場も同様に、利用していない人もマンションの区分所有者であれば等しく修繕費用を支払うことが原則です。こういったことが住民同士のトラブルに発展する場合もあるので注意が必要です。

「この様なケースが起こるのは、住民の方々がマンションの規約を十分に理解していないことが大きな原因です。トラブルにならないためにも、マンション管理規約をしっかりとチェックしておきましょう。また、専有部分だけでなく、共有部分の保険に加入しておくことも重要です。未加入なら、管理組合へ提案するといいでしょう」

住民との関係作りも災害対策に!マンションだからこそできる助け合い

いざとなったら住民同士で助け合えることがマンションの強み

戸建てにはない、マンションならではのトラブルがある一方で、災害時にはマンションだからこそのメリットもあると国崎さんはいいます。

「マンションで暮らしていると、いざというときに住民同士で助け合えることが強みです。例えばマンションが浸水被害に遭った場合に低層階に住んでいる方が一時避難先として上層階の住民を頼ることができたら心強いですよね。逆に地震で上層階の揺れが激しいときには低層階に住む人が受け入れてあげることもできます」

災害時は知っている人同士の助け合いが大きな救いとなることも。マンションにおいては人間関係をつくることも防災対策になります。

「特に日本では高齢者の一人暮らしが増えていますよね。そういう人達こそ住民同士の助け合いが必要だといえます。多くの高齢者の方は地震で物が倒れてきたときに持ち上げる体力がありません。だからこそ、災害時に自分のことを思い出して心配してくれる人が近くにいることが重要になります」

都会は人間関係が希薄だといわれます。いざというときに助け合える様な関係はどのように作ることができるのでしょうか。

「マンションに長く住んでいれば自然とそのような関係ができることが多いです。居住歴が浅い人は、マンション管理組合で行われるイベントへ積極的に参加して知り合いを作るといったことも大事です」

防災対策として管理組合が行っておくべき活動もあるといいます。

「避難訓練は当然やっておきたいですね。あとは、被災時のマニュアルやFMBOX作成も効果的です。 管理組合で被災した時の担当を決めていても、災害時には連絡がつかないことが考えられます。ですので、誰でも素早く対応ができるような災害対応マニュアルを作成しておくと効果的です。また私が開発したFMBOX(First Mission Box)の導入もマンションで進んでいます。これは災害発生直後に管理組合の人がいなかったとしても、その場にいる人で初動行動ができるカードを作成しまとめておくものです。こういったツールがあるといざという時に安心です」

国土地理院地理院地図を活用して土地の特徴を知る

各地域ごとに内容が異なるハザードマップ。あまり見慣れない人も多くいると思いますが、どのように活用すれば良いのでしょう。

「ハザードマップも良いですが、私がおすすめするのは国土地理院が公開している地理院地図です。この地図は住所を入力すると、その土地の利用情報を明治時代まで遡って見ることができます。自然災害伝承碑のある地域であれば、以前そこでどのような災害が起きたのかがみえるので、地域ごとの災害リスクがわかります。これからマンション購入を検討されている人は参考材料として、活用できるのではないでしょうか。すでにマンションにお住まいの人でも、自分の住む土地の災害リスクを知ることで対策も立てやすくなります。過去の情報を知った上でハザードマップと併用すると、災害の危険度合いが理解できるのです」

住んでいる地域の災害リスクはしっかり把握しておきたいですね。この地理院地図はどのような方法でみることができるのでしょうか?

「地理院地図はインターネットで閲覧できます。ただ、検索する時の注意点として『国土地理院 地理院地図』というワードでの検索は避けましょう。上位検索結果に出たページへリンクすると、いきなり地図が開いてしまい、使い方が分からず困惑する人も珍しくないようです。『防災 地理院地図』というワードで検索すると『災害に備える!|地理院地図の使い方 - 国土地理院』というページが上位検索結果に出てきます。このページには地理院地図の特徴や地図の見方の説明があるので、一度目を通しておくとわかりやすいです」

「好き」を活かして楽しく防災しよう!

個人レベルでできる防災対策にはどんなことがあるのでしょう。国崎さんがご自宅で行っている防災対策について伺いました。

「私は家で使う生活用品について素材の安全性を意識して選んでいます。照明器具は布製や和紙を使った製品を使用していますし、壁掛け時計も紙製です。地震が起きて物が床に落ちても部屋の中にガラスが飛散することがありません。このような観点で生活用品を選ぶことで、安全性を保ちながら部屋を飾る楽しみを両立させることができます。そうなると防災活動はあまり苦にならないです」

被災した時のための備蓄品も、楽しくなるような選び方をしているといいます。

「災害時は栄養の摂取も重要ですが、そればかりだと気分が塞ぎがちになってしまいます。被災したときこそ、自分の好きな食べ物や飲み物があったら少しは気が紛れるのではないでしょうか。お菓子が好きな方なら菓子類を買い置きしておくのでも良いと思いますよ」

買い置きをしようしようと考えていても、なかなか実際の行動に移せない人も多いのではないでしょうか。そんな方は国崎さんの勧める買い置き方法を試してみると良いかもしれません。

「マンションにお住まいの人から、部屋にスペースがなく、備蓄用の水を置く場所がないという話をよく聞きます。しかし、部屋に大量の水を置くのが嫌だということが本音なのではないでしょうか。我が家では家族が好きな飲み物を箱買いして備蓄しています。夫はトマトジュース、子供はジンジャーエールやゼリー飲料、私は豆乳といったものですね。家族の好きな物だからこそ、箱買いしていても邪魔だという気持ちになりません。好きな物がたくさんあることで子供達もテンションが上がります。備蓄をやらなければいけないものとして行うのではなく、これだったら嬉しいという気持ちで取り組むことを目指していきましょう」

防災はそれぞれの危機意識を高めることはもちろん、どう行動に移すかも重要です。本来ネガティブな印象の強い防災を少し楽しみを取り入れるスタンスで取り組む人が増えていけば、社会的な防災レベルの向上につながるかも知れませんね。

(プロフィール)
国崎信江さん

防災・防犯から身を守るための研究を行う危機管理教育研究所の代表を務める。
危機管理のスペシャリストとして、テレビなどのメディア出演や、講演、執筆、リスクマネジメントコンサルティングなど幅広く活動している。

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この連載について

【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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