管理会社から突然の値上げ打診……どんな対応が必要?
近年話題となっているインフレの波は、マンション管理の現場にも影響を及ぼしています。マンション管理組合も、決して無縁ではいられない状態に。なかにはマンション管理会社から管理費委託費の値上げを打診され、対応しきれずに管理委託契約を打ち切られてしまうケースもあるといいます。
今回は、こうした悩みを抱える管理組合からの相談を受け付けている、公益財団法人マンション管理センターに、管理委託契約にまつわるトラブルへの対応策をお伺いしました。
人件費、工事の材料費の高騰なども背景に
マンション管理センターはマンション管理組合や管理関係者への情報提供、指導、助言、支援などを行っている公益財団法人。良好なマンションライフの実現のため、日々尽力しています。
そんなマンション管理センターでは、管理組合の役員などからの相談を電話などで受け付けています。相談のなかには管理組合と管理会社とで締結する、管理委託契約に関する案件も。マンション管理センターの相談業務担当者は次のように話します。
「管理委託契約に関する相談のなかには、契約更新時期が近づき、突然管理会社から管理委託費の値上げを打診される事例があります。このような事例のなかには、契約条件について協議が整わず契約更新が行われないケースもあるようです」
いったい、管理委託費の値上げを打診される背景には何があるのでしょうか。
「一般的に、人件費や維持修繕工事費などの増嵩(ぞうすう)により管理委託費の値上げを打診せざるをえないと言われていますが、その他さまざまな要因も考えられ一概には言えないのではないでしょうか」
一方で、管理組合の事情も関係して、契約更新ができない事例も。値上げ理由に納得できない、値上げを受け入れられる収支状況ではない、合意形成が困難など管理組合それぞれの事情があるそうです。
委託範囲を見直すなどの価格交渉の余地も
管理委託費の値上げを打診された場合、管理組合がまず取り組むべき対策とは何なのでしょうか。
「はじめに、管理会社から値上げの根拠を、しっかりと説明してもらう必要があるでしょう。例えば『20%上げたいです』と持ちかけられているとして、管理にかかるコストのうち、どの項目がどれだけ上がったから20%という数字なのか、できるだけ明確にしてもらうことです。なぜなら値上げの理由に妥当性かあるかを判断するため、または値上げ率の見直し交渉などについて検討を行う際の参考とするためです。一方で、値上げ率や値上げ時期の見直しなどについて、交渉の余地があるかどうかを確認することも必要です。交渉の余地がないと考えられる場合には、総会を開催し組合員への報告を行うとともに管理会社の変更などについて決議し、管理組合としての方針を決定します。交渉の余地があると考えられる場合には、値上げ率や値上げ時期、契約内容の見直しなどについて協議し、総会招集までに契約条件について合意に達した場合は契約更新について総会に提案します」
それでは、管理委託契約の内容はどのように見直すことが可能なのでしょうか。
「管理組合の事情によりますが、例えば管理会社から派遣される管理員の勤務形態。現在住み込み勤務としているところを週2〜3回の巡回勤務に変更するなど委託業務の内容を見直しすることにより、管理委託費を減額する方法が考えられます。また、例えば清掃業務の管理会社への委託を止めて、管理組合が事業者と直接契約を結ぶなど、さまざまな方法が考えられます」
管理会社との日々のコミュニケーションも重要
一方で、管理会社と契約条件について協議が整わず、契約が更新できない場合の対応策も聞きました。
「新たな管理会社を選定して管理委託契約を結ぶ方法が考えられます。ここで気をつけなければいけないのが、国土交通省が公表している『マンション標準管理委託契約書』と同様の規定を設けている場合には、現管理会社との契約は約3ヶ月後に終了することになりますので、管理会社不在の期間をなくすためには、この期間に新たな管理会社を探し、委託契約締結まで漕ぎ着ける必要があるということです。新たな管理会社を探す作業をはじめ、契約内容の検討、複数社を対象とした相見積もりの取得、1社への絞り込み、契約に関わる住民説明会や総会の開催、新たに契約する管理会社と現管理会社との引き継ぎなど、さまざまな手続きが必要となりますので、これらの手続きを契約終了までに完了させるのは難しいのではないかと思います」
そこで、円滑な契約更新のために、次のような方法があるといいます。
「そこで、新たな管理会社との契約締結の手続きが完了するまでの期間を確保するために、契約終了後は現管理会社との間で暫定契約を締結する方法が考えられます。契約終了前に管理会社に申入れ、管理組合の事情を説明し理解が得られるよう協議することが必要です。暫定契約締結について合意を得られた場合には、管理組合は、新たな管理会社への業務引継ぎが完了するまでのスケジュールを立て計画的に変更手続きを進めて行く必要があります」
さらに、管理委託以外の選択肢も考えられるといいます。
「管理会社に委託するのではなく、自主管理に切り替える選択肢もあります。ただし、これまで自主管理を行ってこなかったマンションが、急に自主管理に移行して自ら管理業務を行うのは簡単ではありません。理事会内にリーダーシップのある組合員の存在が欠かせないでしょう。また、マンション管理士などの専門家を活用する方法も考えられます。会計業務や設備点検などの専門的な知識が必要な業務は、外部委託する方式が現実的でしょう」
最後に、円滑に管理委託契約を更新していくため、日頃から取り組める対策についてお伺いしました。
「それぞれのマンションの事情や管理会社側の事情もあり一概には言えませんが、まずは、管理会社の担当者と、こまめにコミュニケーションをとり、信頼関係を築いておくことが大切ではないでしょうか」
社会情勢とともに、年々変化しているマンション管理の現場。それに対応すべく、日ごろから管理会社と良好な関係を築き、管理委託契約のトラブルを防いでおきたいところです。
【公益財団法人マンション管理センター】
この連載について
【連載】マンション管理最前線
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