デジタル技術で自主管理も手軽に? さくら事務所に聞くマンション管理DX最新事情!
データやデジタル技術を活用し、組織業務などを改善していくDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。近年では新型コロナウイルスの感染拡大により、人との接触を避ける行動様式が広く浸透。関連してビデオコミュニケーションツールやクラウドによるデータ管理の普及なども、DXの追い風となりました。
「DXの波はマンション管理の現場にも、急速に押し寄せている」。そう語るのは個人向け不動産コンサルティングを手掛ける、さくら事務所の土屋輝之さん。今回は土屋さんに、マンション管理におけるDXの検討事例や、管理組合業務で導入する際の注意点などをお伺いしました。
1.インフレによる管理費高騰も遠因に
近年、マンション管理のさまざまな業務において、DXが推進されていると話す土屋さん。まずは、その背景についてお話を聞きました。
「前提として、DXにはマンション住民による『管理組合業務のDX』と、管理組合から業務を受託した『管理会社業務のDX』の2種類があります。そのうちコロナ禍をきっかけとして、管理組合のほうが、管理会社よりも先行して取り組んできたように思います」
これまで管理組合の運営は「集まる」のが大原則だったと語る土屋さん。しかし新型コロナウイルスのパンデミックで、理事会をビデオコミュニケーションツールで行ったり、組合内の連絡をチャットで行ったりと、従来の業務にデジタルを取り入れる組合が顕著に現れてきたのだといいます。
「一方で管理会社、とくに大手においては、セキュリティ面での制約により、こうしたデジタルツールの導入が遅れてしまう事例が見られました。後に自社のソフトウェアを開発したり、ツールの提供企業と独自に契約したりと、管理組合に追いつくかたちで対応を進めてきたのが現状です」
加えて土屋さんは、ここ数年における物価の上昇、いわゆるインフレもDXと無関係ではないと語ります。
「マンション管理に関わる建設資材や人件費の上昇で、管理費の値上げを管理会社が管理組合に打診する話もよく聞きます。値上げに変わる代替案として、管理員や警備員などの人員削減などの話も出てくるでしょう。すると必然的に、これまで人を雇って行ってきた業務をデジタルツールに置き換えていく流れが生まれるのです」
それでは具体的にどのような分野で、DXが検討・推進されているのでしょうか。主な事例をお伺いしました。
管理会社のDX
・管理員やコンシェルジュ業務
→マンション入居者の問い合わせに対し、タブレット端末などを通じてAI(人工知能)により回答するサービスの導入
・日常清掃、定期清掃業務
→AIカメラやセンサーを通じて周囲の環境を把握し、自律移動する清掃ロボットの導入
・建築、設備点検業務
→これまでにもエレベーターの異常を自動で検知して整備員が駆けつけるなどの遠隔監視サービスなどは常識的に行われていたが、ポンプやモーターなどの設備にセンサーを取り付け運転状況を常時遠隔監視することにより得られたデータをAIで解析、故障などのトラブルを事前察知することができるようになる
管理組合のDX
・管理組合員同士の情報交換や、理事会、総会、説明会などの会合
→ビデオコミュニケーションツールやグループチャットなどを用いたオンライン化
・共用施設の運営
→オンライン予約可能なシステムへの変更や、キャッシュレス決済の導入
・管理組合帳簿の記帳や管理などの会計業務
→入出金の入力で記帳していき、最終的には決算書を自動作成するデジタルツールの導入。加えて管理組合内でのオンラインによる帳簿の共有
2.「自主管理支援アプリ」も登場、 第三者管理方式へ応用も
このようにマンション管理にもさまざまなDXがあるなか、近年ではこれらを一元提供したり相互連携できたりする「自主管理支援アプリ」も登場してきています。チャットなどのコミュニケーションや共用施設の予約、会計など多岐にわたる活動を一つのアプリで完結。マンション住民がパソコンやタブレットなどの電子デバイスを通じて利用できます。
「利用料金はマンションの戸数にもよりますが、大手などでは月額1万円台〜5万円台程度で利用できるサービスもあります。管理委託費などにあまりお金をかけられない、小規模マンションなどには大いに活用メリットがあるでしょう。こうしたアプリは大手不動産企業の系列の管理会社が積極的に開発・提供。これは将来、建物の老朽化や住民の高齢化などにより、経済的に管理委託が難しくなるマンションが増えるのを予見しているからだと思います」
土屋さんは、自主管理支援アプリの主な活用パターンとして、以下の4つをあげました。
「今後、わたしが活用可能性を感じているのが④の第三者管理方式。将来は『第三者管理方式の支援アプリ』として、独自ジャンルを確立していくかもしれません。第三者管理方式は管理会社が多大な権限を持ちますので、住民は『管理会社が適切にマンションを運営しているか』を監視するのがとても重要となります。そこで住民がアプリを経由して、管理組合の予算の使い方や意思決定プロセスなどを、いつでも見られるようにしていくのです」
例えば「自動ドアが故障したので、3社から見積もりをとって1社を選び、10万円で修理した」といった情報をアプリを経由して、管理組合帳簿などから確認。疑問点があれば、部屋番号を公開したうえで、だれでも管理会社にチャットで使途について質問できる仕組みなどが考えられるといいます。
「こうしたアプリは、マンション管理規約の細則を少し変更する程度の手続きで、導入できるでしょう。将来は国土交通省の標準管理規約も、アプリの使用に即した記載が加えられるかもしれませんね」
3.DX推進は「経済的メリット」の説明がカギ
このようにマンション管理におけるDXは、省力化・低コストなど多大なメリットを得られる可能性があります。ただし土屋さんは、管理組合での導入に当たっては以下のような点がネックとなりやすいと指摘しました。
・パソコンやスマートフォン・タブレットなどの電子デバイスの保有率
・DX対応アプリの操作スキル
・変化を嫌う管理組合の体質
・維持管理に対する無関心
「デバイスの保有率やアプリの操作スキルに関しては、手始めにIoT(様々なモノがインターネットに繋がる仕組み)化された、身近なデバイスを導入するのがいいかもしれません。代表的なのがインターホンです」
インターホンにおいては大手開発企業が、DXに対応してビデオ通話などが可能な機器を開発、壁から取り外ししてテーブルの上などに置けるなど、利便性の高い製品が今後提供されることが期待されます。
土屋さんは「GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)にも優れ、感覚的に操作できる製品が早期に開発、商品化されデジタルデバイスに慣れない高齢者でも比較的使いやすい機器の普及が急がれる」と強調。設備の更新時期、例えばインターホンなら15年程度の周期をめどに、導入検討するとよいとアドバイスしました。
「一方で、変化を嫌う管理組合員や無関心層に関しては、DXによる経済的メリットを強調していくとよいでしょう。『最初はこれだけの初期費用や手間がかかりますが、数年間のランニングコストでみると、これだけお得になるんですよ』と具体的な費用感を伝えていけると説得しやすいですね」
最後に土屋さんは、DXに取り組むに当たって、アドバイザーの重要性も強調しました。
「仮に自主管理支援アプリを導入するとしましょう。その場合、少なくとも最初の3カ月はマンション管理士のようなコンサルタントを雇ったり、管理会社の手を少し借りたりして、必要最小限のアプリの使い方をいつでも聞けるようにしたいです。いわば、DXという『離陸』ができるまでの助走期間。ただしコンサルタント料として月に2〜3万円くらいからから、高くて20万円前後の費用がかかることは覚えておきましょう」
これまで述べてきたように、DXには「どんな業務を対象とするか」といった多様なアプローチがあるうえ、「全面的に導入する」「一部導入する」といった活用の程度もさまざま。自身の管理組合で本当に必要なDXは何かを見極めるためにも、まずは信頼できるアドバイザー探しから始めてみてはいかがでしょうか。
(プロフィール)
さくら事務所 マンション管理コンサルタント・土屋輝之さん
不動産仲介営業から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く 長年にわたって経験後、(株)さくら事務所参画。
不動産関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで 支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。
マンション管理サービス部門責任者。
この連載について
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