連載:マンション管理最前線

税理士が解説! 管理計画認定制度と連動した『マンション長寿命化促進税制』とは?

2023.05.12
税理士が解説! 管理計画認定制度と連動した『マンション長寿命化促進税制』とは?

2022年度から、各地方自治体で順次施行されている「マンション管理計画認定制度」。これは一定基準を満たす管理計画を整備したマンションに対して、地方自治体が適切な管理を行っているとのお墨付き(認定)を与える制度です。

同制度に関連して、さまざまなインセンティブの仕組みがあります。その一つが、令和5年度税制改正で導入された「マンション長寿命化促進税制」です。一体どのような税制なのか、今回は税理士・マンション管理士としてマンション管理組合の税務を支援している、深谷高史さんにお伺いします。

大規模修繕工事の合意形成を後押しする税制

深谷高史さんは「陽だまりマンション税務事務所」の代表を務め、 愛知県名古屋市・高浜市を拠点に活動しています。マンション管理に強い税理士として、これまで管理組合向けに収益事業の税務申告や会計帳簿・予算書・決算書の作成など、さまざまな支援を行ってきました。

また、自身が所有する分譲賃貸マンションの理事会にて、理事長や副理事長を長年勤め上げてきた経歴もお持ちです。専門家・実務家両方の視点から、まずは「マンション長寿命化促進税制」の概要について聞きました。

陽だまりマンション税務事務所代表を務める深谷高史さん

「マンション長寿命化促進税制は一定の大規模修繕工事(長寿命化工事)を実施した場合に各区分所有者が翌年支払う固定資産税を減額する制度です。減額割合は、市町村の条例により1/6~1/2の範囲内と定められ、1/3が標準となります」

この減税制度には区分所有者による大規模修繕工事の合意形成や、そのための資金確保を後押しをする狙いがあります。深谷さんは背景として「一般的に2回目以降の大規模工事で合意形成が行われにくい」問題を指摘。その理由を2つ挙げました。

「1つ目の理由は修繕積立金の残高不足に陥るマンションが多いこと。新築時に分譲会社が販売しやすいように修繕積立金の額を低く設定することが多く、築年数がある程度経ってから、こうした問題が顕在化しやすいのです。修繕積立金の額の引き上げが望ましいのですが、値上げは区分所有者にとって家計支出の増加につながるので、総会の多数決で賛成を得ることは難しくなります」

2つ目は、修繕積立金における支出面の理由だといいます。

「1回目の工事と比べて、2回目以降の大規模修繕工事は工事費用が多額となります。1回目はだいたい築15年程度で実施し、屋根・床の防水、外壁塗装の塗替えが主な修繕項目です。2回目以降はおおよそ築30年以降に行われますが、1回目の修繕項目に加えて給排水設備・エレベーター・消防用設備の取り替えも行います。つまり生身の人間と同じく歳を取れば不具合箇所が多くなり、適切な状態を保つための費用がより多くかかるのです」

こうしたことから本税制は、高経年のマンションほど活用を検討すべき仕組みといえそうです。

施行期間は2年間だが延長の可能性も

マンション長寿命化促進税制には、活用にあたってさまざまなハードルがあります。主な要件をチェックし、深谷さんに本税制を利用する余地がどれくらいあるかを聞きました。

まず本税制の対象となるための主な前提が「マンション管理計画認定制度」の認定を受けていることです。2023年4月30日までの認定総数は49件なので、この要件だけでも本税制を活用できるマンションは相当数に絞られます。そのほか、管理組合に求められる条件は例えば次のとおりです。

① 築後20年以上が経過している10戸以上のマンション
② 長寿命化工事を過去に1回以上実施
③ 令和3年9月1日以降に修繕積立金の額を引き上げている

①と②ではマンションの築年数・戸数や長寿命化工事の実施回数が具体的に示され、要件を満たせるマンションは比較的多そうです。一方で、③は「令和3年9月1日以降に修繕積立金の額を引き上げている」と、やや具体性に欠けた記載です。どのように考えればよいのでしょうか。

「国土交通省が公表している『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』ではマンションの規模等によって修繕積立金の額の目安が示されています。本税制の適用を受けるためには、原則としてこのガイドラインに示す修繕積立金の額の目安の水準の下限値を下回る金額から、上回る金額に引き上げられたことが必要となります」

深谷さんは会社経営もマンション管理も「先立つものは金」であるといいます。何をするにしても最初に必要となるものはお金であるし、お金が無ければ何もできません。マンションの規模にもよりますが1度の大規模修繕工事の予算は数千万円から数億円と巨額であり、区分所有者全員が一時金を出し合うのは非現実的です。

「だからこそ長期的な視点に立ってマンションを管理していくことが重要です。将来の大規模修繕工事のために毎月の修繕積立金の額を適正な水準に設定する必要があります」

マンション長寿命化促進税制を受けるにはマンション管理計画認定制度の認定が必要条件となる

一方で、期間の要件についてもお伺いしました。本税制では、 制度の適用対象となる大規模修繕工事の完了期間を、令和5年4月1日から令和7年3月31日としています。

「対象期間は2年間。管理計画認定の要件と合わせると、本税制のメリットを受けられるマンションはさらに限られてくるでしょう。こうした実情も踏まえ、わたしは本税制が2年限りでは終わらず、延長されると考えています。公共施設のみならず、マンションを含む住宅も持続可能なかたちで維持していくのが現在の国民的課題。適切に管理していくためにも、本税制を含め、行政によるさまざまな制度が拡充されていくだろうと予想しています」

そのため深谷さんは「現状はマンション長寿命化促進税制を活用できないマンションであっても、将来の活用を見据えた管理組合の体制づくりが重要だ」と強調しました。

税制活用のポイントは、ほかのメリットとの「合わせ技」

それでは本税制の活用も視野に入れて、管理組合は大規模修繕や修繕積立金についてどのように合意形成していくべきなのでしょうか。

「減税されるのは固定資産税のうち建物にかかる1年分のみ。そのため本税制の活用に、あまり魅力を感じない区分所有者もいるかもしれません。しかし要件である『マンション管理計画認定制度』の認定を受けることによって、ほかのさまざまな優遇制度と併用することが可能です。減税以外のメリットも管理組合内でアピールしていくことが、合意形成を上手くまとめるポイントとなります」

マンション管理計画認定制度の認定を受ければほかの優遇制度との併用が可能になる

地方自治体による「マンション管理計画認定制度」の認定を受けたマンションは、主に以下のインセンティブを受けられます。

 ①修繕積立金を運用するための債券「マンションすまい・る債」の受け取り金利上乗せ
 ②マンション共用部分のリフォーム融資における支払い金利の引き下げ
 ③住宅ローンの支払い金利の引き下げ

「とくにマンション長寿命化促進税制は、①のマンションすまい・る債と相性がよいでしょう。修繕積立金は『貯める』と『工事で支払う』のワンセット。貯める際に受け取り金利の上乗せを受けて、大規模修繕工事の支払いの後、固定資産税の減税を受けるという『合わせ技』で充分に活用していきたいところです」

また合意形成にあたって、大規模修繕の実施時期を柔軟に見直すのも一つの手だと話します。

「あらかじめ長期修繕計画が総会承認されていたとしても、本税制の適用対象期間に合わせ、施工時期を調整してもよいのです。そもそも長期修繕計画は修繕項目も時期もおおよその目安。したがって、建物・設備の劣化状況なども考慮して、適切と思われる時期に変更する分には何も問題ありません」

このように、管理組合の取り組み次第で活用の余地が広がるマンション長寿命化促進税制。本税制が拡充される可能性も考え、今後も行政による運用状況を注視していきたいところです。

(プロフィール)

陽だまりマンション税務事務所 代表・深谷高史さん

税理士、マンション管理士。2021年5月に愛知県マンション管理士会の理事就任。マンション管理組合の税務申告代理、会計業務・監事監査支援に特化した事務所を2019年1月に設立。地方公共団体のマンション政策への支援も積極的に行っている。

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【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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