連載:マンション管理最前線

『正直不動産』原案者に聞く、信頼のおける不動産事業者とは?

2022.12.13
『正直不動産』原案者に聞く、信頼のおける不動産事業者とは?

マンションの購入・売却や賃貸、そして管理など、管理組合や区分所有者が不動産企業の手を借りる機会は数多くあります。 しかし、こうした不動産サービスの利用で取り沙汰されるのが、消費者と事業者の間における「情報の非対称性」。さまざまな情報を握る不動産企業に対して、消費者の立場から見ると、サービスの価格が適正かどうかなどはなかなか判断がつきません。

こうした現状に一石を投じたのが、2022年春にNHK総合で連続テレビドラマ化された漫画『正直不動産』。一般消費者に対して、数多くの嘘がまかり通っている不動産業界の問題に切り込む、異色のエンターテインメント作品です。この記事では同作品の原案者、夏原武さんに信頼の置ける不動産事業者をどう見極めるかなどをお伺いしました。

「不」正直な営業が珍しくない不動産業界

『正直不動産』はビックコミック(小学館)で連載中の漫画です。ある出来事をきっかけに突然嘘がつけない体質になった不動産営業マンが主人公。嘘がつけなくなったことで、それまで得意としていた口八丁手八丁で顧客を丸め込む営業スタイルを見直し、消費者第一の「正直営業」を行おうとする奮闘を描いています。

ビックコミックで好評連載中の大人気漫画

2022年12月時点で累計発行部数は270万部を突破。一般消費者のみならずプロである不動産事業者からも数多くの支持を集めています。

原案者の夏原武さんは作家・ルポライターとしての活動のほか、詐欺を題材とした大ヒット漫画『クロサギ』(小学館)など様々な漫画原案を手掛けられてきました。

『正直不動産』の原案を手掛ける夏原武さん

「『正直不動産』はエンターテイメントを第一としながらも、描いているのはタイトルとは正反対にある不動産業界の現状です。不動産企業は消費者保護などのために、宅建業法や借地借家法などの法令を守らなければなりません。しかし『業界の慣習』として、違法とはいえないまでも、何も知らない消費者から仲介手数料を不当に多くとったり、問題のある物件を販売してしまったりするなどのグレーなケースが数多くあるわけです」

作品内では賃貸の敷金・礼金トラブルといった身近な話題から、住宅ローン「フラット35」を悪用した収益物件の勧誘、土地の所有者になりすます「地面師」などセンセーショナルな題材まで幅広いテーマが扱われています。

マンション管理もその一つ。過去には入居者の意思に反して、管理費が不当に釣り上げられていく「搾取マンション」というエピソードが掲載されました。

同作品は漫画家や脚本家、編集者、監修者など、多くの方が協力して制作しています。夏原さんが担当しているのは、不動産業界に関わる題材を探すこと。不動産の仲介企業といったプロや、弁護士などの法曹関係、場合によってはマンション住民など一般消費者の方々へも取材を行い、取り扱う「話のネタ」を見つけていくのです。

「どのようなエピソードでも、基本的には取材を通して聞いた実話がもとになっています。マンション管理組合のトラブルについて話を聞いていると多くの場合、住民や居住検討者の管理に対する無関心が原因だったりしますね」

夏原さんは消費者の不動産に対するリテラシーの重要性を強調する一方、それをフォローしていくのが仲介事業者などプロの役割だと指摘します。今回は管理良好なマンション選びをすると仮定し、消費者はどのような行動を取ればいいか教えてもらいました。

物件の妥協点を聞いてくる営業社員は信頼できる

物件の妥協点を聞いてくる営業社員は信頼できる

「『マンションは管理を買え』という言葉が定着しつつあるように、近年はマンション選びにおいて、立地・部屋の広さ以外の要素も重要視されてきています。その一方で、販売・賃貸の仲介事業者が居住検討者に提供する管理の情報は非常に少ない。消費者自らが聞いてみないと答えてくれないことはたくさんあります」

夏原さんはマンション選びを行ううえで、仲介事業者にしつこいと思われるほど質問してみる必要があるといいます。

「なにより聞いておきたいのが生活に大きく関わる水回りに問題がないかどうか。老朽化したマンションでは特に、水漏れなど排水設備のトラブルが珍しくありません。取材でよく聞くのですが、こうしたマンションでは設備改修をしようと思っても、少数の反対者がいるなどの理由で管理組合が上手く機能していない場合があります」

そのほかに「共用部の清掃頻度はどれくらいか」といったクリーンネス(清潔度)や、防犯設備や警備員の配置などのセキュリティも聞いておきたいポイント。また、マンション住人からのクレームに対して、管理組合や管理会社がどのような対応をしているかも知っておくべき情報だと語ります。

「例えばペットの鳴き声がうるさいので『飼い主を注意してもらいたい』と住民が要望しても、『善処します』とだけ答えてあとは何もしない場合があります。また、張り紙一枚の警告で済ませるケースも。このような管理者はそもそも誰がペットを飼っているか把握できておらず、マンション全体に警告するしかない状況であるかもしれません」

こうした情報について、マンションの仲介事業者は把握しているものなのでしょうか。夏原さんは次のように語ります。

「仲介事業者が1つのマンションについて、現在仲介中の物件だけしか担当してこなかったというケースは考えにくいです。同じマンションで過去にいくつかの部屋を紹介してきている可能性が高く、ほかの住戸はどうなっているのか、どんなクレームが過去にあったかなどを知っていることは十分にあります」

また、このようにプロの事業者を「質問攻め」にすることが、信頼できる事業者を見極める試金石になるといいます。

「仲介企業の営業社員がどのような反応をするか要チェックです。さまざまな質問をぶつけても、面倒くさがらず丁寧に回答してくれるかが重要でしょう。例えわからない質問であっても、マンションまできちんと確認してきてくれるような営業社員が望ましいです。一方でやる気があるように見えても、一方的に営業トークをして成約を急かしてくる人には要注意ですね」

加えて夏原さんは、質問を受けて「希望するマンションの条件のうち、何を妥協できるか」を聞いてくる営業社員も信頼できると話しました。

「十全な物件などほとんど見つからないので『共用部の設備が充実しているから、管理費は高めでも我慢しよう』といった妥協点を見つけ出さないといけないわけです。そのための代替案をきちんと出してくれるかどうかもプロの役割。そうした柔軟性のある対応をしてくれる営業社員かどうか明らかにするためにも、質問を通して会話を繰り返していく必要があります」

中小企業からボトムアップでの業界改善に期待

夏原さんは信頼できる事業者か判断するうえで、企業のネームバリューはあまり重要ではないと話します。

「大手の不動産企業だからこそ営業方針をすぐに変えられず、始めに説明した悪しき『慣習』にとらわれているというケースもあります。『正直不動産』では数多くの事業者に監修などをお願いしているのですが、協力的なのは主人公と同じく正直営業で取引に臨む、中小企業である場合が多いです。彼らは消費者第一で仕事をしていても、事業がうまくいくということを知っている。こうした事業者が増えて、ボトムアップで不動産業界を変えていってくれればいいと思います」

また良い事業者かどうかは、口コミでの評価も目安になると強調します。

「ここでいう口コミとは、決してレビューサイトなどに書かれた評価ではありません。実際に不動産サービスを利用した人の感想を直接聞いてみることです。友人や仕事の同僚で家を売買したり、マンション管理組合の活動に携わっていたりする人がいたら、『あの不動産会社はどうなの?』『どんな人が担当者だった?』と声をかけていくべきです」

不動産業界でも口コミ評価は参考になる

さらに夏原さんは物件の調査・コンサルタント企業など、仲介企業とは利害関係のない第3者の事業者もある程度信頼できると指摘します。

「マンションを管理状況も含めて格付けする評価サービスや、インスペクション(建物状況調査)などは良いと思います。数万円の委託費で、その後長期的に住む物件の価値がわかるなら安いものです。大事なのは区分された部屋を買うのではなく、マンションの建物全体や管理・修繕計画そのものを購入するという意識。よい買い物にするためにも、想定する予算はゆとりをもって見積もっておくことも大事ですね」

目当てのマンションに入居した後でも、大規模修繕や建て替え、相続、売却など様々なイベントがあり得ます。後悔のないマンションライフを送るためにも、信頼のおける「正直」な事業者をパートナーに選んでいきたいところです。

(プロフィール)

夏原武さん

1959年生まれ。作家、ルポライター。
裏社会や詐欺などをテーマにノンフィクションを多数執筆。
著書に『バブル』、『現代詐欺師シノギの手口』など。
連続TVドラマ化された『正直不動産』(「ビッグコミック」連載中)の原案者。
他の漫画原作担当作品に、3度映像化(連続TVドラマ・映画化)された『クロサギ』、
連続TVドラマ化された『逃亡弁護士成田誠』、『任侠転生-異世界のヤクザ姫-』、
『カモのネギには毒がある-加茂教授の〝人間〟経済学講義-』など多数。

『正直不動産』は2022年12月28日に最新単行本第16集が発売予定。

中小企業からボトムアップでの業界改善に期待

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「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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