連載:マンション管理最前線

マンションの資産性を評価する4つの要素とは?

2022.10.27
マンションの資産性を評価する4つの要素とは?

近年は都市部におけるマンション価格の高騰などにより、将来売却する可能性を考えてマンションの「資産性」がいっそう評価されてきています。資産性というと多くの場合、マンションの査定価格が高いかどうかを指すだけの言葉に思われがちです。しかし実際には、経済的な管理運営ができているのかなど、様々な要素が複合的に関係しています。

今回はマンションの資産性を評価・レポートする「FACTORS4」というサービスを立ち上げたさくら事務所に、マンションの資産性とはそもそも何か、どのような構成要素があるのか取材。同事務所の代表取締役社長である大西倫加さんと、マンション管理コンサルタント(マンション管理士)でグループ会社・らくだ不動産のエージェントとしてもご活躍中の山本直彌さんにお話をお伺いしました。

あいまいな「資産性」という言葉を4つの要素に分解

さくら事務所が立ち上げたFACTORS4はマンションの資産性を分析・数値化して顧客に情報提供するレポーティングサービスです。同サービスを立ち上げた背景を、山本さんは次のように話します。

「これまでマンションの資産性は、立地や建物の仕様などハード的な部分にだけ着目して語られてきました。しかし我々は管理組合向けのコンサルティング業務などを通じて、かねてから資産性を決める要素はそれだけでないと考えていました。多くの人にとってわかりやすいかたちで『資産性』を定義する必要があると考え、このサービスを立ち上げました」

桜事務所の新サービス「FACTORS4」

続けて、大西さんは次のように指摘しました。

「近年はインスペクション(建物状況調査)の告知義務化や管理計画認定制度など、不動産評価を可視化しようという動きが急速に進んできました。しかし評価付けされただけでは、その後どう改善につなげていくかわからないというケースも考えられます。私たちはマンションの資産性を可視化するだけでなく、評価を踏まえてどのような対策が可能か検討することも、重視すべきと考えたのです」

こうした背景から、FACTORS4ではマンションの資産性を「相場価格」「持続可能性」「居住快適性」「流通可能性」という4つの要素(FACTOR)に定義。顧客に対して各要素の評価を数値化して報告するとともに、資産性を上げるための具体的なアクションプランを、電話にてアドバイスするサービスとしたのです。

資産性を評価するには様々な分野の知見が必要

FACTORS4にて定義する資産性の構成要素を、山本さんに詳しく説明してもらいました。

1.相場価格

高い査定額がつきやすいかどうかを表す要素です。主に「利便性の高い駅に近いか」などの立地や、専有面積が広いかといった建物の仕様を評価していきます。不動産のプロではない、一般消費者でも評価が高いかどうか判断しやすい要素といえます。

2.持続可能性

資産性を維持し続けていくポテンシャルを測る要素で、建物の仕様とその管理方法を複合的に判断していきます。

建物についていえば耐久性が大きな評価材料です。ただしそれだけではなく、建物を修繕するのに適正な修繕積立金が設定されているかもチェックします。つまり建物というハードだけではなく、ランニングコストを考慮して、長期修繕計画などのソフト面からも評価していくのです。

3.居住快適性

居住空間として快適に過ごしやすい建物仕様なのかを判断する要素となります。居室からの眺めが良いか、利便性のある間取りかどうかも判断材料の一つ。しかし個人の主観は排除し、過去の取引事例を参考に、汎用性がある居住環境なのかを判断するのです。

過去の事例から快適さを判断

マンションの共用施設やサービスについても、生活するうえで本当に便利なのかどうか調査します。例えばコンシェルジュをサービスの目玉とするマンションがありますが、住民の多くが実は利用したことがないという事例も珍しくはありません。サービスが充実しているから居住快適性が高いというわけではなく、そのコストパフォーマンスまで評価するのです。

4.流通可能性

どのような価格推移を辿っているかを近隣マンションと比較調査するなどして、マンションの売却しやすさを検証する要素です。

仮に同じ査定額がついた2つのマンションがあったとして、一方が1年以上かけないと売れない物件、もう片方が1ヵ月程度で売れてしまう物件だった場合、後者のほうが資産性が高いと判断します。

こうした売却の流動性は当然、『このマンションが買いたい』と思う人がいればいるほど高まり、資産性も上がっていくことになります。反対にいつ売れるかわからない物件は資産性が低い、いわば資産価値が不安定な状況となっているといえるでしょう。
以上4つがFACTORS4で定義した要素です。大西さんはこれらを定義するにあたって、さまざまな専門分野の知識が必要と判断。マンション管理士や宅建士、一級建築士といったスペシャリストと長時間にわたって議論して決めたと語りました。

「例えば『持続可能性』を検証するために、躯体のコンクリートがほかのマンションよりも厚いかどうかを見て、将来中性化で劣化するリスクを判断する場合が考えられます。これは建築士の知識が必要でしょう。一方でエレベーターや給排水周りなど、建築士ではカバーできない設備分野はマンション維持修繕技術者というライセンス保有者の領域です。そのほかに、金融関連の知識が必要な場合があります。ローンを組みやすいマンションかを判断するために、ファイナンシャルプランナーの意見が参考となる場合もあるのです」

以上のように、複合的な観点で資産性を評価するためには、プロの手を借りることが重要となってくるのです。

資産性を高めるには広報力も必要

FACTORS4では前述した4つの要素を数値化し、資産性をA〜Eまでの5段階で総合評価します。山本さんはこうした資産性のランクについて、決してマンションの良し悪し自体を表す指標ではないと説明します。

「査定額が高いマンションほど総合評価は高くなるわけですが、そもそも立地するエリアによって価格の相場は異なり、資産性も違うのは当たり前です。総合評価はあくまでも現状の立ち位置であり、その後の資産性アップにつなげていくための参考指標に過ぎないのです」

山本さんはあくまでも立地・建物の仕様が同程度のマンションと比較した場合において、優れた資産性であることを目指すべきと強調し、次のように述べました。

「どのマンションでもすぐにできる取り組みは、長期修繕計画が現状に促しているか確認することでしょう。加えて新築分譲マンションであれば、分譲会社や施工会社が用意しているアフターサービスを活用して、建物の定期点検や補修を行うという手もあります。中古マンションならば、中古物件の購入検討者向けに発行される重要事項調査報告書に、自分のマンションの優位性をより詳細に記述することで、ほかのマンションと差別化できるでしょう」

続けて大西さんが、広報・マーケティングの観点からアドバイスをくださいました。

「一つの目標として、立地するエリアのフラッグシップ的なマンションを目指すという方針があります。あえて我々の顧客ではない物件を上げさせていただきますが、好例といえるのが東京都渋谷区にある広尾ガーデンヒルズというマンションです」

広尾ガーデンヒルズは竣工から30年経って尚、資産価値が向上している

広尾ガーデンヒルズは竣工から30年以上が経過しているにも関わらず、物件価格が上がり続けているマンションです。驚くべき点は、同規模で立地が似ている新築マンションよりも、価格が高水準であること。山本さんは広尾ガーデンヒルズと近隣マンションの違いに、より優れた資産性を目指すうえでのポイントがあると話します。

「広尾ガーデンヒルズは管理組合が適切に運営されている点もさることながら、特に優れているのが情報の発信力。ホームページやSNSでマンションの良さを継続的に配信し、何となくにせよ『いいマンションだよね』ということが世間に知られているのです。こうした、ほかのマンションとの差別化を図るための広報力が、資産性を高めるうえで重要な取り組みになってくるでしょう」

たとえ資金的な余裕がなくても、アイデアや労力次第で劇的に改善できるかもしれないマンションの資産性。人口減少時代に突入し、マンションの需要の見通しが不透明な日本において、見直していく必要性はさらに高まってくるかもしれません。

(プロフィール)

さくら事務所代表取締役社長・大西倫加さん

広告・マーケティング会社などを経て、2004年さくら事務所参画。 広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を行う。2013年1月に代表取締役就任。2018年、らくだ不動産株式会社設立。代表取締役社長就任。不動産・建築業界を専門とするPRコンサルティング、書籍企画・ライティングなども行っており、執筆協力・出版や講演多数。

さくら事務所・らくだ不動産 山本直彌さん

マンション・ビル管理、不動産仲介の経験を経て、マンション管理コンサルタントの業務に従事。これまでに50棟を超えるマンション管理フロント業務、500件以上の不動産仲介を経験。2020年4月に株式会社さくら事務所へ参画し、現在、コンサルティング事業部長、また、グループ会社である、らくだ不動産株式会社の執行役員・不動産エージェントとしても活動している。

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この連載について

【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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