長寿命化にも役立つ「マンションの断熱化工事」のメリットとは? 建築士でもあるマンション管理士が解説!
マンションの住み心地を大きく左右する室内の温熱環境。エアコンの適切な利用はもちろん大切ですが、小さいエネルギーでも冬は保温されて暖かく、夏は外の熱気を断ち切って涼しく保つ建物であることが望ましいです。
エネルギー効率を高めるため、マンションの外側を断熱材ですっぽりと覆う「外断熱」をはじめとした、断熱化工事を行う選択肢があるのはご存じでしょうか。鉄筋コンクリートの経年劣化も防ぎ、マンションの長寿命化にも寄与すると言われています。
そんな断熱化を強く推奨するマンション管理士が坂田英督(さかたえいすけ)さんです。一級建築士などの資格も持ち、自身が居住するマンションでも深い知見を活かして、断熱化工事を推進した経験を持っています。今回は坂田さんに、断熱化の具体的な工法やメリットについてお伺いしました。
快適さを求めるなら「内断熱」より「外断熱」
坂田さんは、かつてマンションの建設・管理、再開発事業に携わるなど多彩な実務経験を持ち、現在は、多摩市の住宅アドバイザーや、「マンションコミュニティ研究会」に所属し、マンションの課題について数多くの情報を発信しています。
また、自身が住む多摩ニュータウンの「ビスタセーレ向陽台団地」で理事長として連続3年間マンションの断熱化工事を主導し、屋外環境のリニューアルを行い、コミュニティ活性化のための集会所改修、光ファイバー導入、宅配ボックス導入、書類の電子化とITによる管理、エレベーター閉込め救出訓練の実施、防災備蓄品の見える化、EV充電設備設置など様々な課題を解決しています。
坂田さんはまず、断熱化工事は建物の大部分を占める壁面に対して、次の2通りがあると話します。
・内断熱:建物の内側に断熱材を設ける方法(殆どの建物がこの方法。北海道でも!)
・外断熱:建物の外壁に断熱材を設ける方法(日本以外ではこの方法が主流)
「マンションの外側をすっぽりと覆う外断熱のほうが、外気の影響が少なく断熱性に優れています。しかし、国内のほとんどのマンションでは低コストで施工の手間がかからない内断熱が導入されています。内断熱だからと言って一概に断熱性能が低いとは言えませんが、建物に熱を溜めない外断熱と、熱を溜めてから室内に熱が伝わるのを必死に防ぐ内断熱では、外断熱の方が合理的と考えます。特に既存の建物では内断熱の性能が低いため、現在の温熱環境に不満を感じて快適な住環境を追求するならば、外断熱は大変良い選択肢です。」
坂田さんが住む団地は一般的な内断熱の建物でしたが、築27年経った2020年に、外断熱改修を含む大規模修繕を実施しました。
工事では断熱材を外壁のコンクリートに密着・接着したうえで、地震で躯体が変形しても十分に追随するよう、支持金具(ピン)の設置も行われました。
「断熱材を、ピンで留めるか否か、タイル貼り部分はどうするかなど、外断熱にも色々種類があります。しかし断熱材でマンションの外側を覆うという基本的な方法は同じなので、どれを選んでも断熱性能に大きな差が生じることはないでしょう。要はやるか、やらないかです。」
施工後、団地の住民の方々からは『暖かくなった』と好評を得ているそうで、「今後は居住者アンケートを行い、より詳しい意見を聞いてみようと考えています。
また、マンションの複数箇所に温湿度計を設置して、定性的な傾向も調べているところです」とのことです。
窓や屋根も断熱化の余地がある
ビスタセーレ向陽台団地では外断熱の工事に先だって、窓の断熱化も行われました。窓については、主に3つの手法があるといいます。
・内窓設置:住戸の内側に新たな樹脂製の窓(ガラスは断熱性あり)を加える
・ガラスのみ交換:既存サッシのガラスを真空ガラスに入れ替える
・カバー工法:サッシを更新し、併せてガラスも断熱性のあるものにする
内窓の設置は、コストが抑えられるメリットがありますが、施工後に開閉の手間がよけいにかかってしまうことなどから採用されませんでした。ガラスのみ真空ガラスに交換する工法については、サッシが古くなって交換が必要になったときに高価な真空ガラスも道連れで廃棄処分となるため選択しなかったそうです。
「最終的に、カバー工法による更新が採用されました。断熱性能が向上したほか、耐風圧・気密・水密・遮音など、断熱化以外でも数多くのメリットがありました」
なお、勝手な印象ですが、窓だけを断熱化しても、温熱環境は「やや良くなった」というレベルに留まります。
窓では後述するように、国からの補助金を戴きました。
一方で屋根についても、工事によって断熱性能を高められる余地があるそうです。坂田さんの団地ではもともと、アスファルトを敷設した上に厚さ50mmの断熱材を設置し、その上部にコンクリートで押さえる工法でした。
しかし近年、屋上から漏水が生じた可能性があり(後日別の箇所からの漏水であったことが判明)、断熱性能にも劣化が感じられたため再断熱化を行うことになりました。
「工事では既存の押さえコンクリートの上に、更に50mmの断熱材を敷き、その上に塩ビの防水シートを施工しました。「漏水の可能性」ということで工事を急ぐことになり、外壁の外断熱工事に先行しましたが、一緒に行えば屋根防水部分も補助対象となり、より効果的だったとと思います」(屋根は補助金なしで施工)。
屋上の再断熱化によって、最上階の部屋の温熱環境は大幅に改善されました。その後、外壁の断熱工事施工直後に本格的な夏を迎えましたが、例えばリビングでエアコンを効かせておけば、住戸全室が涼しいと言うように、快適に生活できるようになりました。
新耐震基準でバリアフリーのマンションは断熱化を検討すべき
外断熱をはじめとした断熱化工事は、マンションの長寿命化にも寄与するといわれています。建物の躯体に熱が直接作用しなくなり、躯体が伸び縮みしにくく、ひび割れを抑制できると考えられるためです。
但し、実際に長寿命化を検証するには数十年、数百年単位の時間を要します。鉄筋コンクリートの歴史でさえ百年そこそこです。そのため、あくまでも論理的な推定ではあります。
「ただ、マンションを人間に当てはめてみたとき、寒いときに『ダウンジャケットに包まる』のと『裸』と、どちらが体にとって健全かを考えると、建物であっても同じだと思います。鉄筋コンクリート造の建物の寿命は、正しく造り正しく管理すれば、最近では100年は持つと言われるようになりました。個人的には、外断熱化されていればその倍くらいは楽に持つのではないかと考えています。」
「『自分が死んだ先のことはどうでもよい』と言う人も居ますが、一定の耐震性能があり、高齢になっても住み続けることができるバリアフリーのマンションであれば、外断熱化して次世代に優良な社会資産として繋いで行くことが今を生きる者の務めではないでしょうか。」
温熱環境が改善されて、生活の質の向上が図られるのが断熱化のメリットですが、その分コストは高く付きます。坂田さんが居住するビスタセーレ向陽台団地における、戸当たりの工事費は次のとおりです。住戸面積が広めなので費用も多いと思います。
以下は、窓で約21万円/戸、外断熱改修で約85万円/戸の補助金を受けた後の額です。
窓更新 約76万円/戸
屋根再断熱 約55万円/戸
外断熱改修 約205万円/戸 (住戸面積は登記面積(内法)で、平均約94㎡/戸)
なお、工事完了後に、補助金以外のご褒美もありました。所得税の税額控除が1戸当り最大約20~25万円、固定資産税の家屋分が1/3減免(約3万円/戸)です。所得税は確定申告が必要なので個人によって控除額が違いますが、固定資産税は市と協議して減額した納税通知書が送られて来ることになりました。1回限りのご褒美ですが、合わせて約25~30万円と、少なくない額であり、皆さん喜ばれていました(所得税控除は、自身が居住する物件であることなどの条件あり)。
それでは、具体的にどのように断熱化を検討していくべきなのでしょうか。続く後編では、坂田さんの実体験をもとに、断熱化工事を進めるうえで気をつけておきたいポイントをお伺いしていきます。
この連載について
【連載】マンション管理最前線
「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。
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