連載:マンション管理最前線

理事長として実践したプロが語る、外断熱改修の進め方とは?

2022.06.14
理事長として実践したプロが語る、外断熱改修の進め方とは?

省エネルギーで快適な温熱環境を実現でき、建物の長寿命化にも寄与すると考えられるマンションの外断熱改修。しかしメリットを知る人が少なく、通常の修繕工事と比べて施工費用もかさむため、居住者から希望があったとしても実施に踏み切れない管理組合も多いかと思います。そこで後編ではマンション管理士の坂田英督さんに、工事費の確保や協力企業の選定、補助金の活用などを行う上で意識するべきポイントを伺いました。

修繕積立金はできるだけ早期に適切な額に引き上げる

前編で紹介したとおり、坂田さんはマンション管理士であると同時に、自身が住む多摩ニュータウンの「ビスタセーレ向陽台団地」にて、理事長の立場から外断熱改修を立案・推進した経験をお持ちです。

「第1回大規模修繕を実施した2005年頃から次回は外断熱改修をしたいと思い、情報収集していました。そのころ同じ多摩ニュータウンで、先行して外断熱改修を行った団地が2箇所あったので、施工後の見学会に参加したのです。『冬に就寝中、トイレに行っても寒くない』『引っ越す気がなくなった』など、良い評判をたくさん聞き、大変うらやましく思いました。15年後に予定する第2回大規模修繕では、ぜひ外断熱工事を実施したいと決心しました」

ビスタセーレ向陽台団地の外断熱改修を推進した坂田さん(写真左)

改修にあたって、まず重要なのが改修の原資を準備することです。坂田さんは入居当初から「修繕積立金が安過ぎる」と判断し、将来行われる大規模修繕に備えて、理事会で修繕積立金の引き上げに取り組みました。その結果、入居当初となる1993年は月30円/㎡だった棟別修繕積立金を、1996年に月111〜152円と3倍以上に変更。第1回大規模修繕工事を終えた後の2006年には月111〜173円まで引き上げたのです。「この程度の額は一般的」と坂田さんは振り返ります。

修繕積立金はできるだけ早期に適切な額に引き上げる

「まずは将来の改修に備えて、できるだけ早期に修繕積立金を引き上げていくことが大事です。なぜなら、早期に資金を確保できる体制をつくっておけば、その後の改修計画が円滑に進むからです。それでも、後述する積立金の運用や補助金によって何とかできたというのが実態ですから、積立金が少ないと借入れをしてまでやるかという話になってしまうでしょう」

坂田さんは修繕積立金の運用にも尽力。2005年には理事会において、ペイオフ対策として預金が保護されるが利子がつかない決済用口座に預ける話があったため、元本が保証され当時はある程度利息も付く住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」に組合の資金ほぼ全額を投じるように働きかけました。その結果、改修で資金を使うまでに4500万円以上の税引き後利益を確保することもできました。なお、その後の改修の補助金と合わせると160戸で2億円を超える資金を得ることができました。

コンサルタント選びは難しいけれども重要

坂田さんの団地には外断熱に詳しい知識を持っていたり、工事の検討に熱心だったりする居住者はほとんどいませんでした。「外断熱のメリットを知ってもらって、ともに工事に取り組んでいきたい」と考えた坂田さんは、2019年2月に次年度の理事に立候補し、理事の互選により理事長に就任して、外断熱改修を推進しました。長年専門委員として理事会をサポートしてきた当時、外断熱のPRを欠かさず行っていたこともあり、9割近い賛成を得ることができました。

坂田さんは長年に渡って外断熱工事のメリットをPRしていた

坂田さんの働きかけのかいあって、まずは改修に向けた設計・監理や、補助金・減税手続きの支援などを行うコンサルタントを理事会で選定することが決定。ちょうど多摩ニュータウンを基盤とし、外断熱改修に熱心な団体があったため、一連の業務を約980万円で委託することになりました。

コンサルタントには、まず具体的な改修案やコストがどれくらいになるのかなどを検討してもらいました。その後詳細な設計、⾒積り、施工担当企業の候補の提出も依頼して、内容を理事会にて精査したのです。

2020年2月には施工者の候補として建設会社4社に対して見積り・ヒアリングを依頼し、最低金額となる約4.5億円(契約額ベース)を提示した1社を選出しました。その後、広報・工事説明会を経て、臨時総会にて外断熱をメインとした大規模修繕工事の実施を議案として上程。無事に可決され、改修計画が本格始動しました。

施工業者選びでは4社に見積もりの提出を依頼

協力企業の選定にあたり、坂田さんが重要視した点は何だったのでしょうか。

「施工者の選定も大事ですが、不適切なコンサルタントが加わらないよう努めました。当時は特に、施工会社からバックマージンを受け取る、いわゆる「不適切コンサル」が問題になっていたからです。また、実際に現場を担当する人の理念、能力、経験などは見極める必要があります」

坂田さんは、コンサルタントは信用第一であり、会社の規模や、委託料の額、爽やかな弁舌に惑わされて依頼すべきではないと強調します。

「たとえコンサルタント費用を切り詰めたとしても、不適切なコンサルタントに依頼したら、気付かない内に工事費が高くついたり、不適切な施工がなされたりする恐れがあります。そうは言っても、適切なコンサルタントをどうやって選んだらよいのか難しいので、公募して委託費で選べば理事会等の説明責任が果たせると考えることもあるかと思います。私が住む団地においては、地域密着型で人柄も分かっているコンサルタントと随意契約しました。なお、随意契約の理由について理事会で説明するのは難しさもあります。ともあれ、適切なコンサルタント選びも積極的な情報収集が不可欠です」

補助事業は大変効果的だが時間に追われる

坂田さんは施工に当たって、補助金活用の重要性も強調しました。国土交通省では、既存住宅の性能向上などに資する住宅リフォームを支援するため「長期優良住宅化リフォーム推進事業」という取り組みを推進しています。外断熱改修は同事業における補助金の交付対象となっているのです。

「補助金の目安は、工事費全体の1/3程度と考えておけばいいでしょう。私の団地では約4.6億円の契約額のうち、約1.35億円の補助金が交付されました」

補助を受けるために重要なポイントは主に2つあるそうです。1つ目は申請主体が管理組合ではなく、施工者となる点。補助⾦も当然、施⼯者に対して交付されることになります。そのため、坂田さんは契約に当たって(⽀払額=契約額-補助⾦)とする覚書を締結し、補助金が負担額に対して適切に反映されるように対応しました。

2つ目は、申請手続きをできるだけ早く進める必要があることです。なぜなら工期が原則単年度なので、4月早々に申請を行い、いち早く着工し、翌年2月頃には完成させなければならないからです。着工できる日は審査の結果告げられ、勝手に着工することはできません。また、事前に総会決議が必要であったり、改修によってどの程度の性能向上が見込めるかなど、提出する資料がいくつもあります。前年度の秋頃から準備していないと、当年度になってからでは進めるのは困難です。

「補助金の申請手続きは、外断熱の申請について専門的な知識が要るので、得意とするコンサルタントに支援業務を委託しましょう。ただ、そうしたコンサルタントが少ないので、情報収集が不可欠な理由です。日本外断熱協会というNPO法人があるので、問い合わせてみるのも良いかも知れません」

「ビスタセーレ向陽台団地」では管理組合の取り組みや、コンサルタントの熱心なサポートのかいあって、補助金の手続きは円滑に進みました。2020年6月に着工、その後長雨はあったものの、台風もなく、無事に工事は進められて2021年2月に完工したのです。

「工事中は多摩ニュータウンや、他地域の組合の方々も対象に現場見学会を開催しました。自分達も他の組合の見学会に参加して情報を得られたからです。また、外断熱がマンションの常識となってほしい思いもあります(内断熱が常識なのは日本だけかも知れません)。ひいては、長寿命化のメリットも理解されて『古い住まいでも、永く快適に住める』のだという考えも浸透していけばいいなと思います」

外部のマンション管理組合を対象に実施した現場見学会の様子

これから日本では低炭素社会に向けた取り組みがさらに加速し、外断熱に対する補助事業がますます拡充されていく可能性があります。長い時間をかけてでも、外断熱改修を検討していく価値は十分にありそうですね。

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【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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