連載:マンション管理最前線

団地再生のプロから学ぶ、古い物件の魅力を引き出す方法!

2022.04.19
団地再生のプロから学ぶ、古い物件の魅力を引き出す方法!

少子高齢化を背景に人口減少時代へと突入している日本。戸建て住宅のみならずマンションでは入居者不足が進み、特に築30年以上の老朽化した物件では空室問題が深刻化しています。国土交通省の調査では空室が生じているマンション割合について、2000年以降に建築された建物が2割程度だったのに対して、1989年以前のものは約5割と2倍以上にのぼっています。

しかし、そんな古いマンションでも手直しやブランディング次第で新たな魅力を生み出すことができるかもしれません。今回は郊外に建てられた「団地」に注目し、リノベーションや賃貸事業を営む合同会社団地生活デザイン代表の山本誠さんに所有物件の魅力を引き出す秘訣をお伺いしました。

リノベーションは物件の個性を引き立たせる手段

団地生活デザインは、埼玉県狭山市内にある全770世帯の団地「新狭山ハイツ」を主な事業拠点とする不動産会社です。山本誠さんは社の代表として、同団地における空室のリノベーション・賃貸やプロモーションなどに取り組んでいます。

合同会社団地生活デザイン代表を務める山本誠さん
山本さんが部屋を所有する埼玉県狭山市内の団地「新狭山ハイツ」

「ひとつの敷地にたくさんのマンションがあるのが団地です。建物としてはマンションと同じカテゴリーですが、団地と呼ぶと昭和の懐かしさや地縁が感じられて好きなんです」

山本さんが団地の魅力に気づいたのは11年前のこと。居住用として、なるべく低価格で購入できる物件がないか探していたところ、不動産会社から埼玉県内のとある団地を紹介されたことがきっかけでした。

「最初は物件にまったく期待してなかったんですが、団地に着いたときは驚きました。敷地はきれいに整っていて、生活に必要な施設も周囲に立地しており利便性も申し分なかったんです。建物や室内は老朽化している部分もありましたが、3DKで300〜400万円程度の金額であれば、お買い得だと思い購入しました」

しかし建築から30年以上が経っていた建物ということもあり、目立っていたのが空室状況。こうした傾向はほかの団地でも見られ、山本さんは魅力的な住まいが使われていない状況を心苦しく感じていました。そこで団地の空室を買い取り、リノベーションを経て賃貸物件とする事業を思いついたのです。

改装途中の様子
改装途中の様子

「埋もれたダイヤの原石を探すような思いで団地の物件を探してきた」と語る山本さんは、自室をはじめとしてこれまでに計9室を購入してリノベーションしてきたそうです。部屋に手を入れる際は、周囲の環境との調和を意識していると話します。

「部屋の内装は、突き詰めて言えばどのようにでもできるんです。例えば田舎にある物件でも、室内だけ湾岸タワーマンションのような都会風に仕上げることも可能です。しかし個人的には、それで物件の本当の良さを引き出しているとは思いません」

山本さんが部屋を所有する新狭山ハイツを例にすると、団地の住民たちが周辺で使用している畑が大きな魅力のひとつ。里芋、白菜、豆類など四季折々の作物が栽培されています。山本さんはその一部を借受けて賃借人に無料で貸し出しており、入居者は周囲の自然環境と一体となったライフスタイルを楽しむことができます。

団地住民へ向けて無料で貸し出している畑

そのため、リノベーションする際にはヒノキやスギといった木材を使ったり、天井・壁を珪藻土で仕上げたりして、ナチュラルなイメージを創出するよう心掛けているそうです。また、間取りについても押し入れや間仕切りを撤去するなどして、開放感のある空間作りを意識。こうした取り組みにより、自然豊かな暮らしという個性が際立つのだといいます。

「専有部をリノベーションする際には、マンションの管理規約をよく読んだほうがいいですね。ほとんどの場合、修繕の細則があるので従わなければなりません。躯体には原則として穴をあけてはいけないし、床材の遮音の等級を守る必要があります。一方で共用部は、一個人の判断で手を入れていいものではありません。共用部のつくりを根本的に改善したい場合は管理組合の理事となって、理事会の合意形成を経て実行するようにしましょう」

情報発信を通じて居住物件の魅力に気づく

山本さんは所有物件の居住価値を高めるうえで、住民と協力してプロモーションにも力を入れています。

「物件を探す過程で、ほとんどの団地でPRのすべてを不動産会社に丸投げしている現状を目の当たりにしました。これは非常にもったいないことです。本当に効果的なプロモーションは、物件の魅力を一番よく体現している住民たちが情報発信をしていくことなのです」

新狭山ハイツでは、前述した「農ある暮らし」といった特徴のほかにも、住民達が団地の暮らしをともにつくりあげていく気風が、物件の個性となっています。例えば集会所として敷地内に丸太小屋をつくったり、協力して近隣の竹を調達して流しそうめんを催したりと、わきあいあいとした雰囲気が日々醸成されているのです。こうした個性を住民たちが気づき、団地暮らしの魅力として情報発信していくことが重要なのだそうです。

集会所の丸太小屋と流しそうめんイベントの様子

「私がプロモーション事業で主に使っているのはブログやホームページで、特別なサービスを利用しているわけではありません。発信内容に悩んでしまうかもしれませんが、とにかく始めてみて、継続していくことが大事です。発信していくなかで自分たちの物件の魅力がどこなのかに思いを巡らせ、気づいていくきっかけになるからです」

一方で、山本さんは物件のPRを行う際には、ネガティブな情報もできるだけ正直に伝えることが重要だと付け加えました。例えば新狭山ハイツは最寄り駅まで徒歩20分。近隣を運行するバスも一時間に一本と、おせじにも交通アクセスが良いとはいえません。

「都内に通勤している方が自然豊かな暮らしにあこがれて入居を希望することがありますが『しんどい暮らしになるよ』としっかり伝えます。新たな入居者が幸せに暮らしていけた実績あってはじめて、物件の価値につながっていくのです」

苦楽をともにした物件に、最後は笑って別れを告げたい

最後に、人口減少時代を迎えつつある日本において、築年数を重ねた古いマンションをどのように運営していけばいいか意見をお伺いしました。

「個人的には、物件を所有していながら居住していない『外部所有者』が積極的に運営に参画していくことが重要だと考えています。団地に限らず築30、40年と古い物件の住民は高齢者が多く、これから相続によって非居住者である子孫に受け継がれていくからです」

山本さんは、居住者に代わり責任をもって物件の運営を行っていく存在として、管理会社などのプロよりも外部所有者が適任なのではないかと語ります。なぜなら、団地のこれからを自分ごととして捉えて運営することができ、物件が悪い方に傾けば経済的にも心理的にも痛みを感じる存在だからだそうです。

「もちろん、経営者だけでは会社が立ち行かないように、外部所有者だけではマンション運営は成り立ちません。長年居住してきた高齢者は、これまで管理組合で培ってきた運営のスキルを外部所有者に限らず、新たな入居者に引き継いで行く必要があるでしょう。マンション管理士といったスペシャリストの手も必要に応じて借りていく場面はあると思います」

また山本さんは、最終的には無理をして運営を続けず「物件を終う」ことも選択肢の一つにあげました。これは具体的に、どのような行動を指すのでしょうか。

「経年劣化したマンションの選択肢として『建て替え』と『大規模修繕』があるかと思いますが、第3の道として『建物を更地にして引っ越す』ことを検討するのです。なぜなら長期で見れば、よほど立地に恵まれたマンションじゃない限り新たな入居者は見込みづらくなり、無理に建物を存続させたとしても経済的に行き詰まってしまう恐れがあるからです」

現在の日本は空き家が全国的な問題になるほど住宅余りが続いている状態。そんななかで、老朽化した所有物件にピリオドをつけてほかの空室に住むという道は、限りある資源を有効活用した社会的意義のある行動ともいえます。

「もちろん、建物を取り壊すというのは、いささか後ろ向きで抵抗感を覚える方もいるでしょう。ここで大事なのは『どんな建物にも終わりは必ず来る』という考え方です。コンクリート構造物は、長く持ちこたえても100年程度が限度。古い物件は、その先をどうするか考える時期に来ているのではないでしょうか。私は愛着を持った団地とどれだけ充実した時間を過ごして、最期に笑って『さようなら』が言えるかに、日々思いを巡らしています」

「『物件を終う』ことも選択肢の一つ」と語る山本さん

山本さんと新狭山ハイツは、誕生から数えると同年代なのだそうです。山本さんは「今は団地に人を呼び込んで団地を使い倒し、建物と一緒に幸せに年を重ねていきたい」としみじみと語りました。物件の居住価値を高めて入居者を増やしていくことはもちろんのこと、その先の未来を見据えてマンションの『終活』にも取り組んでいくことは、これからの時代性にあった面白いテーマかもしれません。

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【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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