鉄筋が腐食する原因にも! コンクリートの中性化試験を実施しよう
大規模修繕を控えた皆さんに向けて、修繕工事のいろはを説明していくこの連載。今回はコンクリートの中性化について。中性化したままの状態で放置すると、コンクリート内部の鉄筋が腐食し、建物の耐久性低下を招くかもしれないので要注意です。
そもそもコンクリートの中性化とは?
コンクリートの中性化とは、大気の影響を受けてコンクリートに発生する劣化です。本来コンクリートは強アルカリ性ですが、二酸化炭素がコンクリート内部に入り込むと炭酸化反応が起こり、アルカリ性が低下していきます。この時のアルカリ性から中性に近づいていく現象がコンクリートの中性化です。
冒頭で「建物の耐久性低下を招く」と紹介しましたが、中性化してもコンクリート自体の強度が低下するわけではありません。しかし、中性化がコンクリートの内側まで浸透していき、内部の鉄筋に到達すると、鉄筋の表面に形成されて腐食から守る役割を担う「不動態皮膜」が破壊されてしまいます。これこそが中性化による鉄筋の腐食の原因です。
この状態のまま放置してしまうと、鉄筋の腐食がどんどん進行するでしょう。コンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張すると、コンクリートのひび割れや剥離、剥落などが発生します。
新築マンションなら中性化の心配はまだまだ不要
大多数のマンションは鉄筋コンクリート造なので、どの管理組合でも中性化には十分注意したいもの。ただし、中性化は非常に長い期間をかけて進行します。
鉄筋コンクリート造の一般的なコンクリートの厚みは3cmです。その一方、中性化は年間0.5mmずつ進むといわれます。つまり、中性化がコンクリート内部の鉄筋に到達するまでは、60年かかる計算です。
そのため、新築や1度目の大規模修繕を終えたばかりのマンションであれば、そこまで中性化の心配をする必要はないでしょう。
中性化しているかどうかを調べるために中性化試験を受けよう
お住まいのマンションが竣工から長い年月経過しており、コンクリートの中性化が心配な場合、業者に依頼すれば中性化状況の調査が可能です。
よく実施されている調査方法では、対象となるコンクリートの一部をドリルなどの機械で破壊し、サンプルを取得して行います。サンプルに試験薬を噴霧して、色が変わるかどうかで現在のコンクリートがアルカリ性を示すかを判断します。
多くの場合、コンクリートの中性化試験は大規模修繕工事に向けて行われる、建物調査の一環として実施されます。ただし、建物調査にはさまざまな検査項目があるなかで、専門の機材や薬剤を使用する中性化試験は、追加オプションメニューに位置付けられているケースがほとんどです。
その場合は、通常料金と別途で追加料金を支払えば試験を受けられます。コンクリートの中性化試験の追加オプション費用は、1箇所につき2〜5万円程度が目安となります。
試験の適切な実施時期を検討してみよう
放置すれば、建物に甚大な被害を及ぼしかねないコンクリートの中性化ですが、前述したとおり、実際に問題化するまでは長い年月を要します。
ただし、お住まいのマンションのコンクリートが、一般的な鉄筋コンクリートと比べて厚みが小さい場合は、その分鉄筋の腐食が始まるのが早くなります。適切な試験の実施時期は、マンションによって異なるので注意しましょう。
数十年先のことを忘れずに対処するためには、適切な長期修繕計画の立案や、これまで実施した修繕の管理が重要です。まだ実施できていない場合は、管理組合で発議して対応を進めていきましょう。
イラスト:平松 慶