災害時の避難手段! 避難ハッチの交換は、欠かさず実施しよう
大規模修繕を控えた皆さんに向けて、修繕工事のいろはを説明していくこの連載。今回はベランダの避難ハッチの交換について。いざという時に人命の安全に関わる役割を持つ設備なので、しっかりと対応しておきましょう。
あらためて「避難ハッチ」とはどんな設備?
避難ハッチとは、火災などの災害が発生した際に、建物の上の階にいる人が階下に避難するために利用する避難器具です。反対に、水害で浸水が発生した際には、下の階から上の階に避難する利用方法も考えられます。
ハッチとは「蓋付きの昇降口」といった意味を持つ英単語です。避難ハッチには別の階に移動するための避難はしごが収納されており、災害時にはハッチの蓋を開けて、はしごを下の階へ降ろしてから、はしごを下りて避難します。
共同住宅の場合、消防法施行令第25条によって2階以上の住戸には避難機具の設置が義務づけられているため、ベランダやバルコニーの床面に、避難ハッチが設置されている住戸は多いでしょう。
なお、設置基準は建物の条件によって異なります。11階以上の住戸の場合は、スプリンクラーなどの設備の設置が義務づけられているため、ベランダやバルコニーに避難ハッチは設置されません。
避難ハッチは「ハッチ式避難はしご」と呼ばれる場合もあります。
使用しなくても劣化は進行してしまう
非常事態に使用する設備であるため、住戸のベランダやバルコニーに避難ハッチがあっても、1度も使用したことがない人がほとんどでしょう。
一般的な製品は、未使用であれば新品同様に使用できるイメージがありますが、春夏秋冬、屋外で紫外線や雨風に晒される避難ハッチの場合そうはいきません。
避難ハッチに起きる劣化は、錆びや錆びが進行して発生する金属部分の腐食が考えられます。避難ハッチに錆びが発生していると、いざという時にハッチが開かなかったり、はしごを正常に下ろせなかったりするかもしれません。また、腐食が進んでいると、重みに耐えきれずはしごが階下に崩落してしまう可能性も考えられます。もし、はしごが崩落した時に、階下に人がいると、重大な事故になりかねないので十分に注意が必要です。
避難ハッチは法定耐用年数が8年とされています。あくまで税法上の考え方での年数なので、8年経過した避難ハッチが必ず使用できなくなるわけではありません。一方で、劣化の目安となる物理的耐用年数では25年〜30年使用可能とされているので、交換時期の参考として覚えておきましょう。
劣化が進行し、使用に耐えられない状態となった避難ハッチは交換が必要です。交換を大規模修繕工事の一環として実施する管理組合もあれば、まったく別の時期に交換を進めるところもあり、タイミングの選択は管理組合の判断に大きく委ねられます。
いずれにせよ、避難ハッチは消防法による定めにより、年2回の機器点検と年1回の総合点検が義務付けられているので、点検結果からタイミングを見極めて検討するのがよいでしょう。
ちなみに、機器点検は共用部分の設備がチェック対象であるため、立ち会いは不要ですが、総合点検は住戸の設備が対象となるので区分所有者の立ち会いが必要です。
一昔前の避難ハッチは鉄製が主流であったため、腐食が発生しやすい設備でした。しかし、1992年の消防法の改正によって、避難ハッチは錆びに強いステンレス製に限定されたため、現在は以前よりも長期に亘る使用が可能となっています。
避難ハッチの交換費用は13万円〜30万円が目安
避難ハッチは、いつ起こるか予想できない災害への備えとなる、住民の安全のために必要な設備です。費用や手間を惜しまずにしっかり管理しましょう。
古くなった避難ハッチを新品に交換する際の交換・更新工事の費用相場は、13万円〜30万円当たりが目安です。
工事のおおまかな流れは、まず現場調査で設置箇所の採寸をします。続いて、計測したサイズに合う避難ハッチを発注します。この時、設置箇所のサイズがメーカーの製品と合わなければ、サイズに合うようにオーダーメイドが必要な場合も。
新しい避難ハッチの用意ができたら、古いハッチをとり外し、新品と交換します。この時の取り付け工事の所要時間は1時間〜2時間程度です。
不安に思ったら、管理組合で交換について話し合ってみよう
今回は災害時に重要となる避難ハッチの交換について解説しました。
災害が発生して避難が必要な時に、ハッチが劣化して使用できない状態にあれば人命に関わります。
もう何年も避難ハッチを交換していないマンションや、住戸のハッチの蓋が目に見えて劣化して心配に思う区分所有者は、管理組合で避難ハッチの交換について話し合ってみましょう。
イラスト:平松 慶
この連載について
【連載】ついにやって来た!大規模修繕
約12年に一度の周期で訪れるマンションの大規模修繕。住まう人々が安心して暮らすため、また、建物としての価値を維持するために、とても大切なイベントです。とはいえ、修繕工事などと言われてもピンとこない方がほとんどでしょう。この連載では、そのような方に向けて、修繕工事に向けた準備の進め方の一例を順を追ってレクチャー!みんなが納得できる工事となるように、しっかりと準備を整えましょう!