大規模修繕前にホームインスペクションで建物のチェックをしよう!
大規模修繕を控えた皆さんに向け、修繕工事のいろはを説明していくこの連載。今回は住宅の不具合や劣化状況を診断するホームインスペクションについて。マンションの修繕計画を立てる際や大規模修繕の前に行うことで、修繕工事の内容を吟味するのに役立つので、管理組合で実施を検討してみましょう。
物件の購入や修繕の前には建物検査の実施が効果的
建物に不具合や劣化がないかを診断する建物検査。なかでも、住宅への診断は「ホームインスペクション」と呼ばれています。
ホームインスペクションは、契約前の中古住宅の状態確認のために行われるというイメージを持たれがちですが、マンションの修繕計画を立てる際や大規模修繕の前に実施しておくと、診断結果が修繕工事の内容を検討するための参考情報として役立ちます。
ホームインスペクションは大きく2種類に分類される
ホームインスペクションは、宅地建物取引業法に基づく「建物状況調査」と「その他の検査」の2つに分類されます。
建物状況調査は、建物の基礎や外壁など建物の耐久に関わる部分や、屋根などの雨水の浸入を防止する部分及び給排水管路にひび割れや雨漏りなどの不具合がないかを把握するために実施されます。調査を行うのは、国土交通省の定める講習を修了した建築士です。
調査によって、一定の条件を満たす物件だと認められれば、既存住宅売買瑕疵保険への加入資格を得られます。
調査の実施は義務付けられているわけではありませんが、建物に欠陥があった場合のトラブル予防のため、中古住宅の取引前に行われることが多い傾向です。
一方、その他の検査は、建物の各部位に劣化などによる不具合が発生していないかや、修繕が必要な時期を把握するために行われます。一般的に、建物状況調査よりも広範囲を対象に、より細かく診断を行います。
実施する検査メニューは、新築住宅の内覧会で住宅に欠陥がないかの確認や、マンションの修繕計画の参考調査など、状況に応じて幅広く選べます。
マンションの修繕前によく行われる検査
大規模修繕前に実施される診断の対象範囲は、外壁のタイルや塗装、屋上防水などの屋外部分から、屋内の各設備や配管、建物の構造部までと、マンションの状況に応じて多岐にわたります。実際にどのような診断が行われるのか、代表的な項目を見ていきましょう。
【1】目視・打診による調査
建物検査で最初に行われるのは、目視による異常の確認です。ひび割れなどが発見された場合は、クラックスケールと呼ばれる専用の定規で幅を測り、大きさに応じて補修が必要かを判断します。
また、タイル張りの外壁に対しては目視とあわせて打診調査も実施。打診調査とは、タイルやモルタルの表面を専用のハンマーや棒で叩き、反響音を聞いて内部の状態や剥離の危険性がないかを判断する調査です。音を聞き分けて異常の有無を判断するため、調査員の経験値が重要になります。
【2】機器や薬品による検査
より詳細に異常の確認や修繕作業内容の検討を行いたい場合は、特殊な機械や薬品を使用した検査を行います。なかでも、実施頻度が高い検査は以下の3つです。
・仕上材付着力試験
・シーリング劣化調査
・コンクリート中性化試験
仕上材付着力試験は、タイルや塗装などの付着力を調べる検査です。外壁に取り付けた機器がどの程度の強さで剥がれるかを測定します。タイル剥落のリスクがどのくらいあるのかを測定するために役立つ検査です。
シーリング劣化調査では、コンクリートの継ぎ目や窓回りに使われているシーリング材の固さや品質を測定します。この検査では、実際に使用されているシーリング材から少量をサンプルとして採取して、厚みを測定したり、成分の調査を行います。外壁の塗膜やシーリング材が十分な強度で下地に密着しているかを確認できるため、雨水浸入リスクがある箇所を見つけるために役立つ検査といえるでしょう。
コンクリート中性化試験は、塗装の下にあるコンクリートの下地箇所(躯体)の検査です。採取したサンプルにフェノールフタレイン液を塗布し、どの程度中性化が進んでいるかを測定します。中性化とは、コンクリートが空気中の二酸化炭素で酸化して腐食耐性が低下する現象です。躯体が中性化すると内部の鉄筋が錆びてしまうため、検査による状況把握が重要といえます。
ホームインスペクションは価格だけでなく公正さも重要
ホームインスペクションの依頼をする際には、見積りを比較して、より安い業者を探すことが当然重要です。しかし、費用が安過ぎる場合には逆に注意しましょう。なぜなら、価格帯が相場よりも安過ぎる業者は、工事や別のサービスで利益を得ることを意図しているかもしれないからです。
そのような業者は、依頼主に修繕工事の実施を決断させるために、必要以上に不安を煽るような診断結果の伝え方をしてくるかもしれません。そのため、値段だけでなく、公正な立場に立って診断を行ってくれる業者なのかどうかも、選ぶうえでの重要なポイントです。
建物検査のための専門資格「建物検査士」
建物状況調査は一定の基準を満たした建築士の有資格者のみが行えますが、それ以外のホームインスペクションには資格の保有は義務付けられていません。
しかし、建物検査にも「建物検査士」という専門資格が存在しています。建物検査士は、建物の劣化や不具合に対する知識と検査の経験を有する専門家です。
この資格は、NPO法人の日本住宅性能検査協会が実施する講習会と試験を経ることで取得できる民間資格です。資格を得るためには、「建築士」または「建築施工管理技士」としての実務経験が必須となります。そのため、建物検査士は建築に関する国家資格を有しているうえ、建物検査に関して専門的な知識や経験が豊富な人材であると言えるでしょう。
もちろん、建物検査士の資格を持っていない人は、ホームインスペクションにおける経験や能力に乏しいとは限りません。しかし、業者を選定している段階では、有資格者のスタッフがいるということがわかっていると、安心して依頼するための判断材料とできるのではないでしょうか。
ちなみに、建築士、建築施工管理技士の資格を持たない人でも、建物に係る一定の知識・経験があれば、建物検査士の講習会及び試験を受けることは可能です。その場合、試験に合格すると、「建物検査士補」として認定されます。
修繕前に専門家による検査を受けよう
今回はホームインスペクションについて解説していきました。必要となる修繕工事メニューを正確に把握するために、マンションの長期修繕計画の策定や大規模修繕の前にはホームインスペクションを実施しておくのがオススメです。
依頼する際には、建物検査士などの専門の資格を有する検査員に依頼することで、より正確な検査を受けられる可能性が高まります。業者に見積りをもらう際には、検査員の資格についても確認しておくと良いでしょう。
イラスト:平松 慶
この連載について
【連載】ついにやって来た!大規模修繕
約12年に一度の周期で訪れるマンションの大規模修繕。住まう人々が安心して暮らすため、また、建物としての価値を維持するために、とても大切なイベントです。とはいえ、修繕工事などと言われてもピンとこない方がほとんどでしょう。この連載では、そのような方に向けて、修繕工事に向けた準備の進め方の一例を順を追ってレクチャー!みんなが納得できる工事となるように、しっかりと準備を整えましょう!