5年に1度の工事が必要? 鉄部塗装について解説
大規模修繕を控えた皆さんに向け、修繕工事のいろはを説明していくこの連載。今回はマンションのさまざまな箇所にある鉄部の塗装工事について。マンションの美観と安全性に大きく関わる内容であるため、しっかり理解しておきましょう。
鉄部は塗装工事をしないと錆びが進行してしまう
マンションには、階段やベランダの手すり、エレベーターの扉、屋上の脱気筒、消火栓ボックスなど、鉄でできた部材が多く使われており、そのような箇所を「鉄部」と呼びます。
鉄は水や酸素に触れると錆びが発生する物質です。そのため、鉄部には塗装が施されており、錆びの発生を防いでいます。塗装に使用される塗料の多くは、錆びに対する保護機能の持続期間が5年程度となっているため、その周期に合わせた鉄部塗装工事の実施が必要です。
鉄部塗装を怠って、錆びがマンションの至るところで進行するようになってしまえば、マンションの美観を損なってしまいます。錆びだらけのマンションは、建物が古く見えたり、どこか暗い印象が感じられたりするかもしれません。
さらに深刻な問題として、錆びが広がって鉄部の強度が弱まると、設備の利用に支障が出る場合も考えられます。階段の手すりや、緊急時に利用する避難ハッチのフタなど、住民の安全に関わる設備は、錆びが進行してしまわないように特に注意しなければなりません。
チョーキング現象が出たら塗装工事実施のサイン
上述の通り、塗料が持つ錆びを防ぐ機能の持続期間はおおよそ5年とされていますが、沿岸部のマンションでは潮風の影響によって効果が2、3年程度しか続かない場合もあり、一概には言えません。塗装工事の実施が適切かどうかを判断するためには、チョーキング現象が起きていないかを調べる方法が有効です。
チョーキング現象とは、経年劣化によって塗料に含まれる顔料が粉状になって塗装されている表面に出てくる現象です。この状態の塗装は、手で触れるとチョークのような粉が付着するため簡単に調べることができます。
チョーキング現象が出始めたばかりの段階であれば、まだ内側の鉄には錆びが広まっていない場合が多いでしょう。しかし、そのまま放置してしまえば、以降は少しずつ塗装が剥がれていき、鉄が無防備になってしまうので、塗装の補強が必要となります。
鉄部塗装工事はケレンが最重要
鉄部塗装工事は、ケレン、下塗り、中塗り、上塗りの順に進めます。
「ケレン」とは、素地調整を意味する言葉で、主に鉄部の錆びや付着物の汚れを落とす作業です。ケレンは作業の方法や規模に応じて1種から4種に分類されます。
錆びや汚れを落としたら、ローラーなどを用いて錆びを防ぐ塗料を塗布していきます。この作業が「下塗り」です。
下塗りで塗った塗料は、錆びへの予防効果が高い一方、紫外線に弱いという弱点を持ちます。そのため、上から錆止め塗料を保護するための塗料を二重で塗って保護しなければなりません。この二重で行う上塗り作業の1回目が「中塗り」、2回目が「上塗り」です。この4工程で鉄部塗装工事は完了します。
鉄部塗装工事では、最初のケレンが全体の出来映えを大きく左右する重要な作業です。ケレンによって下地が綺麗な状態にできていれば、その後に塗布する塗料の密着率が高まり、工事の効果が高まります。
反対に、ケレンがしっかりとされていない状態では、錆止め塗料を塗っても錆びの進行が止まらないということも考えられるでしょう。
施工業者を選ぶ際には、ケレンをしっかりと行ってくれる会社なのか、見積もり依頼時に担当者に確認したり、事前に口コミ評判を調べておいたりするのがオススメです。
鉄部塗装工事は大規模修繕よりも細かい頻度で実施が必要
大規模修繕は一般的に十数年の周期で実施されますが、塗料によっては約5年を過ぎると劣化が深刻化するため、鉄部塗装工事は大規模修繕の周期に合わせて実施していては間に合いません。
仮に大規模修繕の周期を12年で計画している管理組合であれば、1回目の大規模修繕を行う前に、竣工から6年後を目安に1度は鉄部塗装工事を実施しておくのが望ましいと言えるでしょう。
以上、今回は鉄部塗装工事について解説してきました。
錆びは1度発生してしまうと一気に進行していくものです。
本来塗装工事が必要なタイミングで工事を行わずに放置してしまい、鉄に穴が空く程錆びが進行してしまうと、補修の手間が大がかりになり、修繕に必要な金額も高額になってしまいます。そのような状況にならないためにも、定期的に点検を行うことを心掛けておきましょう。
イラスト:平松 慶
この連載について
【連載】ついにやって来た!大規模修繕
約12年に一度の周期で訪れるマンションの大規模修繕。住まう人々が安心して暮らすため、また、建物としての価値を維持するために、とても大切なイベントです。とはいえ、修繕工事などと言われてもピンとこない方がほとんどでしょう。この連載では、そのような方に向けて、修繕工事に向けた準備の進め方の一例を順を追ってレクチャー!みんなが納得できる工事となるように、しっかりと準備を整えましょう!