大規模修繕

大規模修繕工事の費用の目安は? 費用削減方法や不足金の集め方も紹介

2020.08.19
大規模修繕工事の費用の目安は? 費用削減方法や不足金の集め方も紹介

マンションでは建物の劣化を防ぎ、資産価値を維持するために10~15年程度に1回大規模修繕工事が行われます。

ただ、比較的大規模な工事となるために、悩みの種となるのが費用面。「いくら工事費がかかるの?」「修繕積立金が不足したときは?」など気になりますよね。

今回は、大規模修繕で発生する費用の目安を、国土交通省の調査をもとにご紹介。費用を安く抑える方法や、修繕積立金が不足したときの対処法も解説していきます。

大規模修繕費用の相場は「1戸あたり75~125万円」

マンションの大規模修繕においては、悪質な設計コンサルタントによって施工会社に割高な代金で契約させられるなどのトラブルが、たびたび問題となることもありました。

そこで、2018年5月に国土交通省が大規模修繕における適正価格の参考となるように、初めて「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の結果を公表。実態調査にもとづいた具体的な費用の目安が示され、管理組合側もより適切な金額での交渉がしやすくなったといえます。

まずはこの調査のデータから、費用の目安を見ていきましょう。

1回目の修繕工事は1戸あたり約99万円

前提として平均値にはなりますが、国土交通省の調査によると、大規模修繕における「1戸あたりの工事費用」は以下の通りでした。

・75~100万円→30.6%
・100~125万円→24.7%
・50~75万円→13.8%

最も多かったのは、「1戸あたり75~100万円」という価格帯です。

大規模修繕の回数ごとの中央値を見ていくと、1回目98.7万円/戸、2回目95.6万円/戸、3回目77.3万円/戸という結果に。回数を重ねるごとに、少しずつ費用が減っていることがわかります。

建物調査で正確な修繕費用を算出する!

とはいえ国土交通省の調査はあくまでも目安ですので、大規模修繕の概算費用を算出するために事前調査を行う必要があります。

要するに「ここの外壁が痛んでいる」「ここのタイルを貼り替えたい」など、修繕箇所を把握するための調査です。

そして、調査結果をもとに「設計書」を作成。作成した設計書を修繕業者に提出し、正確な費用を算出してもらいます。

なお建物の調査は専門のコンサルティング会社や修繕を実施する施工会社などに依頼するのが、一般的です。

建物調査の評価方法とは?

建物調査の評価方法は、修繕箇所ごとに5段階で評価されるケースが多いようです。

例えば、以下のようにA〜Eまでの評価を出してもらいます。

A:状態良好(5年以上は修繕の必要なし)
B:状態良好であるが、5年以内での修繕の必要あり
C:経年通りに劣化しており、3年以内には修繕の必要あり
D:やや劣化しており、1~2年以内に修繕する必要あり
E:劣化しており、今すぐ修繕する必要あり

各修繕箇所に、こうしたA〜Eのいずれかの診断結果が出れば、どの箇所をすぐに修繕すべきか把握しやすいといえます。

修繕積立金の目安額も計算できる!

大規模修繕の費用は一括で支払うことは難しいため、基本的には毎月住民から納めてもらう「修繕積立金」を少しずつ積み立てていきます。

多くの場合、新築時に作成する「長期修繕計画」をもとに修繕費用を概算。そこから逆算して、各戸が納める修繕積立金の額を算出していきます。

なお、自分たちが納めている修繕積立金の額が適切かどうかは、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で確認できることはご存じでしょうか。

金額の目安については、以下のように建物の階数や延べ床面積(各階の床面積の合計)によって異なります。

◼️専有面積1㎡当たりの修繕積立金の月額
・218円(延べ床面積5000㎡未満)
・202円(延べ床面積5000㎡〜1万㎡未満)
・178円(延べ床面積1万㎡以上)
・206円(20階建て以上)

1㎡当たりの目安だけではイメージしづらいと思うので、具体例を挙げて計算してみましょう。例えば地上10階建てで、専有面積が80㎡、建物全体の延べ床面積が5000㎡のマンションに暮らしている場合の計算式は以下の通り。

202円×80㎡=1万6160円/月

つまり、この例では1戸当たりの修繕積立金の金額は、1万6160円/月が目安といえます。

工事費用の内訳とそれぞれの相場も紹介!

ここまで、一戸当たりの工事費用や修繕積立金の適正価格を紹介してきましたが、次に具体的にどのような費用がかかるのか内訳を見ていきましょう。

なお前提として修繕にかかる工事費は建物の規模や築年数、長期修繕計画の立て方などによって変わるため、あくまでも参考程度に留めておいてください。

【1】事前調査の費用

建物調査

大規模修繕を始める前に、劣化状況を把握するための事前調査が必要です。マンションの規模によって費用は異なりますが、20~100万円ほどが目安といわれています。

【2】仮設工事の費用

足場

足場などの準備費用は意外に金額が大きく、工事費全体の2割程度かかると言われています。総工事費が75~125万円/戸だとすると、1戸あたりだいたい15~20万円が目安といえそうです。

足場工事の相場については、以下の記事もぜひ参考にしてみてください。

【3】下地補修の費用

下地補修

塗装・防水などの施工前に、コンクリートのひび割れや爆裂、タイルの剥がれなどを補修します。

足場を組む前はすべての外壁について調査できないため、補修箇所の予想数量から金額を概算。足場を組んだ後にすべての劣化状況を調査し、工事終了後に差額を精算します。

補修方法にはいくつか種類があり、各費用の目安は以下の通りです。

・Uカットシール工法:1,500~2,500円/㎡
・爆裂補修:1,000~2,500円/箇所
・タイルの補修や張替え:500~900円/箇所

【4】防水工事の費用

防水工事

屋上やバルコニーの床から建物内に雨水が侵入しないように、劣化した防水層を塗装し直す工事です。

屋根・床防水の費用相場は、大規模修繕の総工事費の2割程度。足場工事と同様に、1戸あたり15~20万円が目安といえそうです。

アスファルト防水やシート防水など工法によっても費用は異なりますが、4000~8500円/㎡を想定しておくと良いでしょう。

防水工事について以下でも詳しく解説しています。

【5】シーリング工事の費用

シーリング工事

外壁の目地や窓とのつなぎ目に詰められた、ゴムのような素材を「シーリング」と呼びます。シーリングは経年劣化で縮んだりひび割れたりするため、雨が侵入しないよう定期的なメンテナンスが必要です。

シーリング工事の費用目安は以下の通りです。

・打ち替え工事:300~1200円/m
・増し打ち工事:250~900円/m

シーリング工事については、以下の記事もぜひ参考にしてみてくださいね。

【6】外壁塗装の費用

外壁塗装

外壁塗装にかかる費用も、工事費全体の約2割。1戸あたり15~20万円程度と考えられます。

塗装費用は、建物の大きさや使用する塗料の種類などで変わります。目安として、1000~5000円/㎡を想定しておきましょう。

外壁塗装の費用については、以下の記事でも解説しています。

【7】鉄部塗装の費用

鉄でできた階段・扉・手すりなどの塗装も行います。サビを落とし、錆止め剤や上塗材を塗布するという作業です。

鉄部塗装の費用は、総工事費の5%程度。1戸あたり4~5万円が目安です。施工箇所によっても異なりますが、3000~15000円/箇所ほど想定しておきましょう。

【8】給排水管の補修費用

配水管

給水管と排水管の補修費用を合わせると、総工事費の1割程度。1戸あたり7.5~10万円が目安です。

給排水管の法定耐用年数は15年のため、2回目以降の大規模修繕で補修や交換を計画されることが多いです。劣化診断を行い、内部のクリーニングのみで済ませられるのか、新しい配管への交換が必要かを見極めましょう。

【9】コンサルティング費用

建物診断から設計、施工会社の選定など、工事にかかわる工程の管理などを外部のコンサルタントに依頼するケースもあるでしょう。その場合、コンサルティング費用として、工事費の5%〜10%程度の報酬が上乗せされると考えられます。

もちろん、費用はコンサルタントのキャリア、マンションの規模によっても変わってきます。

【10】諸経費

以上が主な工事費の内訳ですが、そのほかにも現場責任者の人件費や近隣対応の費用など、諸経費がかかることもあります。

諸経費は工事費の10~15%が目安。例えば30戸のマンションで総工事費が3000万円であれば、諸経費は300~450万円くらいの予算を見ておけば良いということになります。

費用が不足したときの5つの対処法

施工会社に依頼した見積もり金額と照らし合わせて、もし修繕積立金が足りない場合はどうしたら良いのでしょうか。その対処法を以降で紹介していきます。

【対処法1】まずは工事内容を見直す

最初に考えられるのが、工事内容の見直しです。急ぐ必要のない工事を延期すれば、今回の大規模修繕の費用は抑えることができるでしょう。

さらに管理会社へ支払っている管理委託費の見直しで浮いたお金を、修繕費用に充てることも考えられます。

【対処法2】自治体などの補助金・助成金を利用する

自治体によっては、分譲マンションの大規模修繕に対して助成金や補助金が設けられています。

助成金が利用できるケースとしては、耐震性向上やバリアフリー化を行った場合が挙げられます。

対象となる助成金があるか、マンション所在地の都道府県・市区町村の制度を調べてみてください。

【対処法3】住民から一時金を徴収する

計画を見直しても費用が不足する場合、居住者から一時金を徴収するのも1つの方法です。

ただ、一時金を徴収する場合、総会での承認が必要となります。各家庭によって経済状況も違うため、マンションの世帯数が多いほど合意形成は難しくなるでしょう。

【対処法4】金融機関から借り入れをする

それでも足りない場合、住宅金融支援機構や銀行、ローン会社、リース会社などから借り入れを行う管理組合も少なくありません。こちらも総会で承認が必要となります。

借り入れには、修繕積立金が1年以上積み立てられており、滞納が割合が10%以内であることや、管理者が当該マンションの区分所有者から選任されていることなどの条件があります。詳しくは、下記の住宅金融支援機構のホームページを確認してみてください。

【対処法5】管理会社に支払う管理コストを削減する

修繕費用の不足を補うための対応として、管理会社に支払う「業務委託費」を削減する方法もあります。

例えば、管理業務の「すべて」ではなく「一部」を委託するなど。管理組合が清掃などを外部の専門業者に依頼、もしくは自らが業務を行うことで業務委託費を抑えられる可能性があるでしょう。

基本的に管理業務のすべてを委託している場合、設備点検や清掃など「管理会社が実際に行うわけではない業務」についても、専門業者への発注は管理会社が代行しています。そのため、専門業者に委託する必要に管理会社への支払い分も上乗せされているわけです。

しかし管理組合が直接、専門業者に依頼すれば間に入る管理会社がいない分、中間マージンは発生しません。その分、業務委託費が抑えられるというわけですね。

大規模修繕の費用を安く抑える3つの方法

次に修繕費用が不足した場合の対応だけでなく、大規模修繕の費用を安く抑える方法についても紹介していきます。

【方法1】複数社から相見積もりを取って比較検討する!

多額の資金が必要となる大規模修繕ですが、費用を抑える方法もあります。

その方法が、単純なことですが複数社に相見積もりを依頼すること。そもそも大規模修繕は管理会社にお任せするケースも多く、施工会社を比較すること自体、あまり実施されないケースがほとんどです。そのため複数の施工会社を比較するだけでも、競争原理が働き、適正価格も見えてくるでしょう。

見積もりを取る業者の数は、5~10社程度が理想。管理会社などが推薦した会社だけでなく、建築業界紙などで公募を行い、幅広い業者を比較検討しましょう。

【方法2】管理組合が直接修繕業者を選ぶ

大規模修繕を行う際には建物調査や設計書の作成、また修繕業者の選定などを専門のコンサルティング会社に依頼するケースもあるでしょう。

しかし施工会社からリベート(修繕費用の一部)を受け取り、その会社が工事を受注できるように不適切な工作を行うコンサルティング会社もなかにはいます。

リベートを捻出するためには、不必要な工事を設定したり、工事費を上乗せしたりすることも。一見するとコンサルタント費用は格安に思えても、結果的に全体の工事費は割高になってしまうこともあるのです。

そのためコンサルティング会社にお任せするよりも、管理組合自らが修繕業者を選んだほうが、結果的に修繕費用を抑えられる可能性があります。

【方法3】施工方法を見直す

大規模修繕を行う場合、作業員の足場を設置します。ただこの足場の設置費用は、工事費全体の2割程度と、決して安くありません。

そのため建物の形状によってできるできないがありますが、「ロープ」や「ゴンドラ」を使った方法など、足場を設置しない「無足場工法」を採用できないか施工会社に相談してみるのも手です。

外壁タイルの修繕は追加費用が発生しやすい!

大規模修繕のなかで特に追加費用が発生しやすいのが、外壁タイルの修繕工事です。

大規模修繕の工事費用は、前述した通り建物調査を実施して設計書を作成し、各修繕業者に見積書の作成を依頼します。そして見積書の金額で契約を交わし、実際に工事が進められていくのが一般的です。

ただ外壁タイルの修繕工事に関しては、建物全面に足場を設置しない限り、正確な工事費用が把握できません。そのため、見積もりの段階ではあくまでも想定の金額しか提示されないのです。

そして工事が開始し、外壁タイルの全体的な調査が行われた結果、当初の想定よりも修繕が必要な箇所があるために追加費用が発生するケースもあるのです。なかには契約時の金額と比べて、数億円以上もの追加費用が発生した事例もあるよう。

外壁タイルの修繕工事を行う場合は、追加費用も想定したうえで「予備費」を確保しておいたほうが良さそうですね。

管理会社の推薦に頼らず、自分たちで施工会社を選ぼう!

大規模修繕の費用は、国土交通省の調査によると1戸あたり75~125万円が目安でした。万が一修繕積立金が不足する場合は、一部工事の延期だけでなく、助成金や借り入れも検討しましょう。

なお、修繕費用を抑えるためには管理会社の推薦に頼るのではなく、複数の施工会社の比較が鍵を握るといえるでしょう。

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