修繕積立金不足をどう乗り切る!? 2倍の値上げに成功したマンションの取り組みに学ぶ
修繕積立金不足への対策は値上げだけじゃない!? 多くのマンションで応用可能な取り組みとは
理事会と住民との迅速な合意形成により、管理組合設立から第4期目という早さで修繕積立金の引き上げを果たしたイニシア千住町。前回はイニシアの理事会役員である應田治彦さんに、値上げした当時の状況についてインタビューを実施しました。今回は、築年数に応じた修繕積立金不足への対応策など、ほかのマンションでも実施できる取り組みにはどのようなものがあるかお伺いします。
新築マンションは値上げ前に住民との信頼関係を醸成
まずは、新築から間もないマンションにおける値上げについて聞きました。應田さんは前提として「新築マンションのほとんどは、修繕積立金が不足する長期修繕計画で販売されている」と指摘します。これは、新築マンションのモデルルームによく足を運び、購入検討者向けの支払い計画書を見た経験による考えだそうです。
「マンション購入検討者は、月々のランニングコストがいくらかを見て、買うかどうかを判断しがちです。そのため、コストの内訳(ローン、税金、管理費、修繕積立金)がどのようになっているかを意識する人が多くないように感じます。こうした消費者の傾向を踏まえてデベロッパーの立場から販売戦略を考えた場合、収益にならない修繕積立金を低く抑えて、その分販売代金を引き上げたほうが有利なのは明白です。だから販売時は、破綻前提の修繕積立金が設定されるわけです」
そのため應田さんは、新築マンションへの入居後、できるだけ早期に長期修繕計画の見直しを行うべきだと語ります。しかし見直しによって、修繕積立金の引き上げが必要だとわかったとしても、その後直ちに値上げへと踏み切るのは現実的ではないとも付け加えました。
「管理組合を立ち上げてから少なくとも第1〜2期目の間は、理事会が値上げの提案をしても、住民から猛反発されるだけでしょう。なぜなら、理事会と住民との信頼関係が醸成されてないからです。まずは値上げ以外の施策に努め、信頼を獲得することが大切です」
應田さんが実際に行ったのが管理費会計の支出の見直しです。例えば第1期には、共用部分における火災保険の費用や電気代の削減に着手。続く第2期には、マンション内にあった有人のミニショップを廃止して人件費をなくすなど、徹底したコストカットに励みました。
「修繕積立金と管理費は使い道がまったく異なるうえ、積立金の相場のほうがだいたい金額の桁が1つ多いので、管理費を削減して積立金に充てても大きな効果は見込めません。しかし、ここで肝心なのは『修繕積立金を引き上げようとする前に、できる限りのコスト削減はした』という実績づくりです。そして『あれだけ頑張っても値上げが必要というのなら、仕方ないよね』と信頼してもらえたら、値上げの取り組みも協力を得やすくなります」
このような信頼・実績づくりに取り組む期間を考慮すると、新築間もないマンションであれば5期目前後での値上げが現実的で理想のタイミングなのだそうです。
遅くとも10期目よりも前に値上げすべき
それでは、すでに管理組合の設立から第5期目を過ぎているマンションは何を意識すべきなのでしょうか。
「遅くとも第10期目よりも少し前までに、修繕積立金の値上げを達成するよう努めることですね。それまでに実施できなかった場合、徐々に初回の大規模修繕が行われる第12期目が見えてきます。すると住民から『値上げの議論は、最初の大規模修繕に実際にかかった費用を見てから始めればいいのでは』という提案がでてきます。こうした声はなかなか説得力を持つ意見です。そのため、値上げがさらに後ろ倒しになってしまう可能性が高くなってしまいます」
実際に第12期目以降に値上げするとなると、現状から3倍以上の大幅な増額が必要になるケースも。こうした場合、住民との合意形成が非常に困難となってしまいます。また、仮に値上げを達成できたとしても、住民が支払い続けられるかどうか確かではありません。とりわけ懸念されるのが滞納者の増加です。
「経験から述べると、築5年目くらいまではほとんど見られない修繕積立金の滞納も、10年目以上になると徐々に件数が増えていくように感じます。こうした理由も含めて第10期目よりも前に値上げすることが重要なのです」
10期目よりも前に値上げし損ねて15期目、20年期目以上になっていくと、入居当初の住民が徐々に高齢化してくる場合もあって、均等割徴収に一気に移行するための大幅な値上げはほぼ不可能になってしまいます。
「この段階まで来たら、大規模修繕でマンションを持続的に運営するのはあきらめたほうがいいかもしれません。繰り返しになりますが、だからこそ早期の値上げが必要になってくるのです」
修繕周期の延伸で支出面からの改善も可能
できるだけ早い段階で、修繕積立金を引き上げる重要性を述べた應田さん。しかし、住民からの反発が根強いなど、どうしても値上げに踏み切れないマンションもあるかと思います。こうした場合、何か打つ手はないのでしょうか。
「値上げという収入面からの改善策がとれないのなら、大規模修繕の実施時期を延ばすという支出面からの対応も考えられます」
多くのマンションにおいて、大規模修繕は12年の周期で実施するよう長期修繕計画で予定されています。しかし、この12年という期間は法律などで規定されている絶対的な数字ではありません。そのため、当初12年周期に設定しているマンションでも、それ以上に延伸できる可能性があるのです。
「大規模修繕の周期見直しは、決して珍しい取り組みではありません。タワーマンションだと18年へ、板状マンションは15年へ変更する事例が比較的多いように感じます」
こうした修繕周期の延伸を行うためには、どのような検討手法があるのでしょうか。それを知るためには、そもそもなぜ12年という修繕周期が定着しているかを把握しておく必要があります。
現在立地する多くのマンションの外壁はタイル仕上げとなっています。建築基準法において、築10年以上が経過したタイル仕上げのマンションに対しては、3年以内に外壁の全面打診検査を行わなければなりません。
全面打診とはテストハンマーや打診棒で外壁を叩き、タイルやモルタルの浮きの状況を調べる調査。検査にあたっては、作業足場の組み立てと解体を行う事例が多いです。
「どうせ全面打診で足場を組むのであれば、同時期に大規模修繕も行って足場を活用した方が経済的だとするのが、12年周期が定着している理由です。しかし全面打診には、必ずしも足場が必要なわけではありません。マンションの上部から作業員がロープなどでぶら下がって調査する手法などもあるのです。こうした足場を組まない全面打診の手法をとれば、修繕周期の柔軟な設定が可能となります」
とはいえ修繕周期を伸ばすには、マンションが著しく劣化していないか、全面打診以外にもある程度建物を調査診断する必要があります。
「調査にはマンションの規模に応じて数十万~数百万かかる場合もあるかと思いますが、仮に1回10億円程度かかる大規模修繕の周期を1年伸ばせるとわかったなら、数千万円分得したことになります。一方で、調査の結果によって直ちに修繕が必要だとわかったのなら、差し迫った状況が確認できたわけなので、それもまた良い結果と言えます」
つまり、事業者に調査を依頼するのに大きなデメリットがないわけです。前述した修繕積立金の値上げと合わせて、應田さんは次のように述べました。
「修繕積立金の値上げを検討するには長期修繕計画の見直しが不可欠だし、修繕周期の延伸を図るには建物の点検が必要。どちらも事業者の手を借りなければなりません。そのため、まずは『積極的にお金を払ってプロを雇う』という良い文化を創ることが大切といえるでしょう」
理事会や管理組合が一丸となって取り組むべき、修繕積立金の問題。應田さんの言う「良い文化」を根付かせるためにも、まずは理事会・管理組合での信頼関係の構築や、修繕積立金に対する問題意識の共有から始めてみてはいかがでしょうか。
この連載について
【連載】となりの管理組合
大規模修繕は、準備から完了までに2〜3年ほどの時間を要する一大イベント。なかでも管理組合から選出される修繕委員会は、このイベントにおいて必要不可欠な存在です。とはいえ、最初は誰もが初心者。「選出されたはいいけど、どうすれば?」と、疑問がたくさん浮かんでくることでしょう。本連載では、そんな疑問を解決すべく、実際に大規模修繕を経験したマンションに足を運び、編集部が修繕委員会の方に突撃!リアルな声をお届けします!
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