連載:マンション管理最前線

「修繕周期長期化」で積立金不足は解消される?

2021.05.14
「修繕周期長期化」で積立金不足は解消される?

建物診断や修繕業者の選定なども含め、管理組合にとって一大行事となる大規模修繕。12年に一度の周期での実施が、一般的とされていました。しかし、近年では周期の長期化に取り組む管理組合も増えてきているといいます。

では、修繕周期を長期化すると、区分所有者にどのようなメリットがあるのでしょうか?

周期長期化が広まった背景も踏まえて、マンション管理コンサルタントとしてご活躍されている、さくら事務所役員の土屋輝之さんに話を聞きました。

修繕周期は18年で大丈夫? 長周期化が広まり始めた背景

ここ数年、18年周期での修繕に切り替える管理組合や、それに対応する施工会社が登場してきています。

逆に言うと、なぜこれまで12年周期が当たり前となっていたのか。土屋さんによると「技術」の面では、2010年頃からすでに実現可能だったといいます。

「実は修繕周期の長期化を実現するための技術は、以前から存在していました。シリコンやフッ素といった丈夫な建設資材は、2010年代前半にはすでにあったのです。それらの資材を使用すれば、当時でも修繕周期を延ばすことは十分に可能でした」

丈夫な建築資材は既に存在していた

12年に一度という周期は、国土交通省のガイドラインに記載してある、あくまでも「目安」。法律ではないため、必ずしも守る必要はありません。

しかし、技術的に実現可能となった2010年代においても、修繕周期の長期化が広まることはありませんでした。

「修繕業者や管理会社が周期の長期化に踏み切らなかったのは、お金の面が大きく関係しています。それまで12年に1回のペースで行っていたのに、18年に1回となると、単純に修繕工事を実施する回数が減る。収益を得る機会が少なくなるわけですから、売上が減少する可能性がありますよね。だから、長周期化に対応する業者はなかなか現れなかったわけです」

しかし、修繕積立金の不足などで、大規模修繕を12年周期で実施できないマンションが増加。修繕周期長期化のニーズは高まってきました。

「こうした需要の増加を受け、2014年頃から私たちさくら事務所は長周期化の提案をしてもらえないか、管理会社などに働きかけるようになりました。でも、当時は対応してくれる管理会社は皆無。大規模修繕の回数が減ることで、収益悪化を懸念する会社が多かったためです」

周期の延長を望む管理組合が増えるなか、2017年、大手不動産会社が最長18年周期の修繕工事を可能とする分譲マンションの販売を開始しました。この出来事が、長周期を後押しする転機となったのです。

「業界大手の企業さんが長周期化に乗り出したおかげで、後に続く企業も出てきました。その結果、18年周期で長期修繕計画を作成する管理組合も増えていったのです。私どものような小さな事務所がいくら動いても変わらなかったのですが、影響力の大きさを見せつけられましたね(笑)」

長周期化によって得られるメリットとは?

業界内でいち早く修繕周期の長期化に注目していたさくら事務所ですが、管理組合側のニーズの高まりだけでなく、12年周期という修繕の回数に疑問を持ったことも注目した理由の一つでした。

「賃貸マンションでも、定期的に大規模修繕は行います。ただ、分譲マンションとは異なり、12年に1回のペースで大規模修繕を行っているところはほとんどありません。学校や区役所、警察署など、いわゆる公共建築物と呼ばれる建物も同様です。足場を組んで修繕を行うのはせいぜい建物を建てて20年目ぐらいから。にもかかわらず、同じコンクリートでできている分譲マンションの12年周期は、明らかに過剰に思えました。とはいえ、公共建築物のように20年にまで延ばすと雨漏りのリスクなどは高まります。そうしたリスクも考慮して計算していくと既存の1.5倍程度、つまり18年周期が妥当という結論に至ったわけです」

実際に長周期化が広まりつつある現在。管理組合の立場で考えると、長周期化にはコスト面はもちろん、生活面でのメリットもあるといいます。

「大規模修繕時には、多くの場合、建物の周りに足場を組みます。そして工事期間中は作業員の方が窓の外やベランダのすぐ近くにある足場でずっと作業をしている。普段の生活で、なかなかそんな状況はないですよね。こうした環境が半年程度は続くわけですから、ストレスも当然かかってくる。でも、大規模修繕を行う機会が減れば、こうした負担は軽減できそうですよね」

工事期間の足場作業がストレスの原因になることがある

工事期間中は洗濯物が干せなかったり、ベランダに出られなかったりと、何かと気を遣うもの。しかし、長周期化で大規模修繕の頻度が減れば、自ずとストレスを感じる機会も少なくなるかもしれません。

「コスト面で言うと、長周期化を見据えた修繕を行う場合、1回の工事に掛かる費用は既存の12年周期よりも高くなります。けれども、60年先を見据えると、12年周期であれば5回工事を行いますが、18年周期であれば3回で済みますよね。つまり長い目で見ると、結果的に修繕にかかる費用の総額を減らせるわけです」

費用はどれぐらいコスト減になるのか?

長周期化でコストはどれくらい下げられる?

では、修繕周期の長期化で、具体的にどのぐらいのコストを削減できるのか。土屋さんは12年周期と比べて14〜15%は費用を抑えられると話します。

「12年と18年、それぞれの周期で大規模修繕を行ったケースを比較した研究があります。その研究では、18年周期の場合、1回の修繕工事にかかるコストは15%増額すると仮定。60年後には12年周期の場合と比較し、『14%〜15%』の修繕費用を抑えられるという試算結果が導き出されました」

金額については一概に言えないものの、100世帯が居住するマンションを例に話を続けます。

「この規模であれば、60年間でかかる修繕費用は1戸あたり1500万円から1800万円程度。この金額の14〜15%の値下げですので、220~250万円ぐらいは負担金額を抑えられるわけです」

長周期化のメリット以上に、なかには60年間でこんなにも修繕費用がかかることに、驚く方もいるかもしれません。

「1800万円となると、地方では一戸建てを一軒建てられますよね。マンションに嫌な感覚をもって欲しくはないですが、事実として物件購入後も維持をするために結構な金額が必要になるものです。だからこそ、修繕積立金を計画的に蓄えていかなくてはいけません」

(プロフィール)
さくら事務所執行役員・土屋輝之さん

不動産仲介営業から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く 長年にわたって経験後、(株)さくら事務所参画。

不動産関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで 支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。
マンション管理サービス部門責任者。

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この連載について

【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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