連載:マンション管理最前線

NPO法人マンション管理者協会が語る、「管理会社による第三者管理方式」への懸念

2023.12.01
NPO法人マンション管理者協会が語る、「管理会社による第三者管理方式」への懸念

近年、マンション管理組合の運営を区分所有者ではない専門家(第三者)へ任せる「第三者管理方式」が注目を集めているのは、ご存知でしょうか。背景には理事の成り手不足や高齢化傾向などがあると言われています。

第三者管理方式を受託するのはマンション管理会社である場合が多く、手間のかかる管理業務のほとんどを、日頃から付き合いのある管理会社へアウトソーシングできる点に、魅力を感じていている管理組合も多いことでしょう。一般社団法人マンション管理業協会の調査では、2022年における第三者管理方式の受託件数は159社と、2022年に比べて約3割も増加しています。

一方で管理会社による第三者管理方式には、マンション管理組合の自立性が損なわれたり、管理組合にとっての利益相反行為が行われたりする恐れも取り沙汰されています。今回は具体的にどのような懸念があるのか、NPO法人マンション管理者協会会長の増永久仁郎さんにお伺いしました。

バブル期のリゾートマンションのようなスラム化を懸念

NPO法人マンション管理者協会はマンション管理士を中核に組織され、弁護士や1級建築士などさまざまな分野の法のプロフェッショナルも参加する、マンション管理組合の支援団体です。管理組合向けのセミナーや勉強会の開催をはじめ、メール・電話・対面による無料相談、管理組合がマンションの設備業者と直接連絡をとれるWEBサイト「業者バンク」の運営など、活動は多岐にわたっています。

増永久仁郎さんは2001年実施の第1回マンション管理士試験に合格後、2004年に同協会を設立。現在に至るまで会長職を務めています。増永さんはかつて、1990年代初頭のバブル崩壊後における、リゾートマンションの売れ残り問題に対応したことがありました。

今回お話しを聞いた増永久仁郎さん

「管理会社による第三者管理方式の導入事例が増えつつあるなか、私はバブル経済期に乱立した多くのリゾートマンションのように、管理体制の崩壊やスラム化が生じるマンションが増えるのではないかと危惧しているのです」

保養地での滞在に使われるリゾートマンションは、区分所有者がマンションの外部に居住している場合がほとんど。管理組合は結成されますが、理事長にはマンションデベロッパーなどの専門事業者などが就任し、区分所有者は合意形成を図る際に理事長へ委任状を送るケースが大半なのだといいます。増永さんは「当時は第三者管理方式という言葉はなかったものの、リゾートマンションで実質的に同じような方式が行われていた」と話します。

実際に居住するかしないかに関わらず、住まいを主体的に改善していこうとする区分所有者が意思決定権を持たないと、大幅な費用のかかる計画修繕工事(大規模修繕工事)や設備のメンテナンスなどが、定期的に行われなくなってしまう恐れがあります。やがてマンションの劣化は着実に進み、物件を手放す人が増加。最低限の管理費なども徴収できず、最終的には管理会社にも見放されることにもなりかねません。

「かつてのリゾートマンションと同じような状況が現在、同じくマンションの外部に居住している区分所有者が多い投資型ワンルームマンションなどでも起こりつつあります。問題の根幹にあるのは、マンションの受益者たる区分所有者が、自身でマンションを管理するという責任を手放してしまう行為。管理会社による第三者管理方式では、最悪の場合リゾートマンションと同じような問題が起きてしまう可能性があることを認識すべきでしょう」

管理会社による「利益相反行為」の恐れも

増永さんは、第三者管理方式を受託した管理会社による「利益相反行為」の可能性についても言及します。

「管理会社による第三者管理方式であれば、どの事業者に計画修繕工事(大規模修繕工事)の設計・工事を委託するかは、管理会社が任意で決めることも可能です。つまり管理会社が発注者であり、工事の元請けとして受注者にもなり得るわけです。すると管理会社は、特定の施工会社や設計事務所へ仕事を発注する見返りに、これらの企業から工事費のうち数十%のバックマージンを受け取ることもできてしまいます」

管理会社がバックマージンを得るために利益相反行為に走る可能性も

仮に施工会社から工事費の10〜20%を、加えて設計事務所からも同水準のバックマージンを受け取ったとすると、少なくとも工事費の20〜40%程度の費用が、管理会社等の利益相反行為によって失われてしまう計算となります。

「本来であれば管理委託契約書に『管理会社の利益相反行為の禁止条項』を入れておくのが理想ですが、国土交通省が公表している標準管理委託契約書にはそのような記載がないのが現状です。欧米諸国では管理会社の利益相反行為の禁止が法制化されているのですが、日本ではそのような定めがありません。国内での安易な第三者管理方式の導入は、多くの禍根を残すことになりかねないと考えています」

管理会社とは異なる専門家に支援を依頼するのも手

このように増永さんは、管理会社へ全面的に管理組合運営を任せると、さまざまなリスクをともなうと強調します。とはいえ、冒頭でも述べたように理事の成り手不足のほか、マンション管理に関する知識不足などから、管理組合の運営が大きな負担となっているマンションが多いのも事実。上手くマンション管理の専門家の力を借りつつ、利益相反行為などをされないよう、対策を講じる手立てはないのでしょうか。

「例えば管理会社とは利害関係のない、独立した立場にあるマンション管理士などのサポートを受ける方法があるでしょう」

増永さんは、独立系のマンション管理士へ理事長を代行してもらうのが、一つの選択肢だといいます。

「主に管理組合運営、マンション管理業務、計画修繕工事(大規模修繕工事)、損害保険の契約をはじめとしたリスクマネジメントなど、理事長が担う業務を委託するわけですが、あくまでも理事会の承認を得て、実施する体制とするべきです。この体制であれば管理組合、管理会社、マンション管理士の三者が協力し合いつつも、お互いに利益相反行為が行われていないか牽制し合える関係性が築けるのではないでしょうか」

あるいは理事長としてではなく、アドバイザーとして支援してもらう手も。理事会の負担を減らしつつも、できるだけ管理会社に依存しない自主的な管理組合の運営体制をつくるべく、マンション管理士に適切なアドバイスを行ってもらうのです。

独立系のマンション管理士へ依頼するという手段もある

「例えば近年のマンション管理における重要なテーマに、ITツールの活用による業務の低コスト化・省力化があります。例えばソフトウェアを使った出納処理やリモート理事会、メールを活用したクレーム対応、ホームページの立ち上げによるコミュニケーションアップなどが考えられるでしょう。マンション管理士をはじめとしたプロの助言を得つつIT化に取り組んでいけば、理事の成り手が少なくても、管理組合の業務を上手く回していける体制ができるはずです。第三者管理方式の導入などで安易に管理会社に依存するのではなく、まずは管理組合の自主・自立や主体性を重視して、管理組合員自らができる取り組みから始めてみてはいかがでしょうか」

今後ますます増加するかもしれない、管理会社による第三者管理方式の導入事例。「理事にならなくていい」など、区分所有者にとってわかりやすいメリットが多いことから、皆さんのお住まいのマンションでも導入が検討される場合があるかもしれません。

しかし基本的に、マンションは区分所有者全員で管理していくもの。そのことを忘れることなく、管理会社に対するチェック体制に問題はないかなどの多様な視点から、導入を判断していくことが強く望まれます。

(プロフィール)
NPO法人マンション管理者協会 会長 増永久仁郎さん

1946年兵庫県生まれ。神戸商船大学(現神戸大学)卒、外航船士官として世界各国寄港、オイルショック後退職。平成6年新築マンションの初代理事長、翌年に阪神淡路大震災で震度5弱の被災やバブル崩壊後の売れ残り問題に対応。平成10年大阪市内の中古マンションを事務所用に購入、翌年理事長に就任し、乏しい修繕積立金の中で大規模修繕工事を責任施工方式で実施。平成13年第1回マンション管理士試験合格、平成16年現 NPO設立。

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