連載:マンション管理最前線

マンションの管理費等に滞納があったときの対応は? 管理組合が知っておきたい法的措置の進め方

2023.09.08
マンションの管理費等に滞納があったときの対応は? 管理組合が知っておきたい法的措置の進め方

マンションの管理費・修繕積立金の滞納を続けている区分所有者がいた場合、管理組合としては滞納額分を徴収すべく、対応策を検討する必要があります。場合によっては、滞納者に対する訴訟をはじめとした法的措置が必要な場合もあるでしょう。

法的措置にはどのような選択肢や手続きの流れがあるのか。今回は弁護士・マンション管理士の資格を持ち、マンション管理組合へ紛争対応やコンサルティングのサービスを提供している渡邊涼平さんに取材しました。

管理費等の滞納はマンションの資産価値を低下させる

渡邊涼平さんは2013年に弁護士登録を行い、医療関連をはじめさまざまな民事事件を取り扱ってきました。その後不動産の購入検討をきっかけに、マンション管理士などさまざまな不動産関連の資格を取得。

法分野と不動産分野をかけ合わせた知識を生かして、マンション管理組合に対し、組合員や管理業者とのトラブル対応、未収管理費・修繕積立金の請求や理事会・総会運営の支援・アドバイスなどを行っています。

お話しを聞いた弁護士の渡邊涼平さん

「管理費等の滞納は、単に資金不足で共用部分の管理行為や大規模修繕ができなくなるという経済的な問題に留まりません。例えば2022年度から地方自治体やマンション管理業協会による、マンション管理に関する認定や評価の制度が始まっていますが、徴収すべき金額に対して一定以上の額・期間の滞納があるマンションは管理計画の認定や良好な評価が受けられない場合があるのです」

評価指標の低下は、資産価値の低下にもつながりかねないと渡邊さんは強調します。

訴訟以外に「支払督促」と「先取特権の行使」という方法も

このように、さまざまな問題をはらむ管理費等の滞納ですが、管理組合が取り得る対応策としてまず何があるのでしょうか。

「よく世間一般でイメージされる訴訟のほかに、訴訟をせずとも未収管理費・修繕積立金を回収できるかもしれない制度が2つあります。その一つが『支払督促』。これは簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てをする手続きです」

管理組合が支払督促を行うと、簡易裁判所の書記官から滞納者へ支払督促という書類が送達されます。それに対して債務者から異議申立てがあれば正式な訴訟手続きに移行。一方で2週間以内に意義がなければ、管理組合は「仮執行宣言」の申立てが可能となります。

申立てをすると、仮執行宣言を付した支払督促が滞納者に送達され、それに対して滞納者から再び2週間以内に異議がなければ「強制執行」ができるようになります。

「もう一つは、区分所有法7条にもとづく『先取特権』を行使する方法もあります。これはマンション管理費等の滞納がある場合、滞納者の所有する物件、つまり区分所有権やマンション内に備え付けられた動産を競売にかけられる管理組合の権利です」

区分所有権に対する先取特権は、支払督促よりさらに手間なく行える手続きといえそうですが、行使に当たっては注意点もあるそうです。

「仮に滞納者がマンション購入時に住宅ローンの借り入れを行い、区分所有権に金融機関を抵当権者とする抵当権を設定していたとしましょう。この場合、区分所有権を競売にかけたとしても、その代金は管理組合よりも先に、抵当権者である金融機関が回収できることになります。そして、管理組合側が一円も回収できない場合、競売が取り消されて費用だけかかってしまうケースがあるのです。そのため、先取特権の行使をする前に、抵当権の設定の有無等について十分な調査をする必要があります」

管理会社の協力も得て、滞納者の経済状況などを調査

支払督促などの手続きにあたっては、管理組合内で何らかの働きかけが必要なのでしょうか。渡邊さんは「多くのマンションにおいて、おそらく一番最初に滞納を知るのは管理委託先の管理会社」だと指摘したうえで、次のように述べます。

「管理会社が管理費等の出納を担当しているケースが多いため、区分所有者の滞納については、まずは管理会社から理事会に報告されるという流れが基本となります。また、管理会社との管理業務委託契約のなかには、通常、出納業務の一部として督促業務が入っていますので、裁判所を利用しない督促までは管理会社が行ってくれるでしょう」

ただし管理会社の督促業務は、3~6ヵ月程度の期間限定の契約内容となっている場合が一般的であり、この期間を過ぎても滞納問題が解決されない場合は、管理組合自らが対応に乗り出す必要があるといいます。

「スムーズな対応の検討・手続きのためにも、まずは管理会社に督促業務の一環として、滞納者がどのような理由で管理費等を支払えないのか調べてもらいましょう。実際にお宅に訪問してもらって、滞納者にヒアリングしたり、生活状況を見てもらったりするなどですね」

管理会社に滞納が発生している理由の調査を依頼する

例えば住宅ローンは支払えているのか、職を失いまったく支払いようがないのか、払えないとは言っているものの、ある程度の経済的な余裕はありそうなのかなどが、要チェックのポイントに。調査内容を踏まえ、支払督促の申立てをするのか、あるいは先取特権の行使や、場合によっては訴訟をするのかなど、理事会内で対応を協議するのが基本的な流れとなります。

「あるいは滞納者へのヒアリングの過程で、『頭金をいくら支払い、その後数ヵ月をかけて月々の管理費等に上乗せして滞納額を返済していく』といった話が取りまとまる可能性もあるでしょう。反対に滞納者が支払いに難色を示しており、支払督促に異議申立てをする見通しであるなどの場合は、いよいよ滞納者を相手取った訴訟の提起も視野に入ります。遅くともこの段階になったら、弁護士へ相談されることをお勧めします。」

訴訟は最短で2ヵ月程度、弁護士費用は十数万円から

訴訟の提起に際して、管理組合内でどのような合意形成が必要なのでしょうか。渡邊さんは「各マンションの管理規約の定めによる」と前置きしながらも、次のように続けます。

「多くのマンションは、管理規約の作成にあたって国土交通省が雛形として公表している『マンション標準管理規約』を参考にしていると思います。標準管理規約には、『理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる』との定めがあります。つまり、訴訟を提起するか否かは基本的に理事会の決議によって決まり、訴訟をする場合は理事長が代表者となる場合が多いのです」

訴訟を起こすと原告、つまり管理組合の言い分が記載された「訴状」が裁判所を経由して滞納者へ送達されます。通常、届いてから3~4週間程度で、1回目の裁判になるといいます。

「1回目の裁判が行われる前までに、被告となった滞納者には『答弁書』という、反論の書面を出すように裁判所から指示があります。答弁書を踏まえて裁判の日を迎えるわけですが、仮に被告である滞納者がこの答弁書を提出せず、裁判に出頭もしなかった場合、管理組合が訴状に書いた内容は、全て被告が認めた扱いになるのです。このケースでは裁判は1回目で終わり、約2週間後には管理組合の言い分が認められる判決がなされることが多いです」

以上の流れを踏まえると、管理費滞納をめぐる訴訟は、最短で2ヵ月から2ヵ月半程度で終わる計算となります。しかし滞納者が答弁書を裁判所へ提出した場合は、その限りではありません。

「滞納者から『管理費は支払っています』『請求金額が違います』といった反論があるパターンもあります。そうなると訴訟において、滞納者は支払った証拠となる領収書など、管理組合は管理費に関する決議を証明する議事録といった証拠書類の提出が必要になるでしょう」

このような事実関係をめぐる争いが続けば、訴訟が複数回続くケースも。ただし渡邊さんは、「管理費等の滞納をめぐる裁判では、お互いの主張の応酬で時間がかかるケースは多くありません。時間がかかるとすれば、滞納者に支払意思と支払能力があれば、支払に関する落としどころを見つけていく和解のために時間を要する場合が大半で、訴訟は長くても6ヵ月程度で終わる場合が多い」と話します。

さて、このような裁判の手続きにあたり、念頭に置きたいのが弁護士費用です。費用の参考となるのが、日本弁護士連合会(日弁連)が過去に定めていた全国一律の基準(旧基準)です。

未収管理費や修繕積立金の請求を弁護士へ依頼する場合『着手金』と『報酬』の2種類の費用が必要となる

「未収管理費・修繕積立金の請求に関する訴訟を弁護士に依頼する場合、一般的に依頼時に生じる『着手金』と、判決が確定したときに生じる『報酬』をそれぞれ弁護士に支払う必要があります。日弁連の旧基準によると、滞納額300万円以下の案件では着手金が請求額の8%、報酬額は判決で認められた額の16%と定められているので参考となるでしょう」

ただし滞納額が数百万円にのぼるケースはそう多くありません。

「日弁連の旧基準を厳密に当てはめると、弁護士が受け取る費用が少額となってしまう場合が大半です。そのため着手金、報酬ともに最低金額として十万円から十数万円程度の水準を定めている弁護士が多く、管理組合は、この程度の金額は裁判にあたっての最低限のコストと考えておくべきでしょう。ただし、管理規約に『違約金としての弁護士費用を滞納者に請求することができる』との定めを置いている場合には、回収のためにかかった弁護士費用も、全額とは限りませんが、滞納者に負担させることができます。そのため、滞納者に支払能力がある場合には、弁護士費用も滞納者から回収できる場合があります」

このように裁判手続きは管理組合が請求したい金額、つまり滞納額に応じた一定の費用が生じます。管理費等の滞納は問題解決に時間をかければかけるほど、請求額が積もり積もっていくもの。同時に、請求額(滞納額)が大きくなればなるほど、滞納者側も支払いが難しくなってしまいます。文字どおり「取り返しのつかない」金額となり、法的手続きで大幅な費用が必要となってしまったり、滞納者も全額の支払いが困難になってしまう前に、まずは速やかに滞納者との話し合いをすることで、早期に折り合いをつけていきたいところです。

(プロフィール)
伊藤・根本・渡邊法律事務所 弁護士・マンション管理士
渡邊涼平さん

弁護士(仙台弁護士会)、マンション管理士(宮城県マンション管理士会)。2018年4月に「コトバ法律事務所」を開設、2023年2月に現事務所に合流。マンション管理組合からの滞納管理費対応や組合員とのトラブル対応の相談・依頼を受けているほか、病院・クリニック・薬局からの相談・依頼に対応している。様々な相談に対応するため、宅地建物取引士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、2級ファイナンシャルプランニング技能士、医療経営士3級の資格試験に合格済み。

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【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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