世界的なパンデミックやインフレ……首都圏のマンション市場はどう変わっている?
マンション選びは都市選び! 街の将来性を見極めるヒントとは
新型コロナウイルスのパンデミックを経てもなお、底堅い価格推移を見せている首都圏の新築マンション市場。一方で東京都23区などエリア別で見た場合や、近畿・中京圏などほかの都市圏においてはどのような市況にあるのでしょうか。また、マンション購入者が意識すべき「都市選び」の基準とは。前編に引き続きマンションのリサーチ企業、株式会社東京カンテイの井出武さんにお話をお伺いしました。
全国的に人気エリアへの一極集中が進む
首都圏では供給戸数の抑制傾向により、新築マンションの価格が右肩上がりに推移しています。近畿圏や中京圏といったほかの大都市圏でも、こうした傾向は変わらないと井出さんは話します。
「いずれの都市圏でも価格上昇を牽引しているのは、中心市街地など極めて限られたエリアだけです。例えば近畿圏では大阪府大阪市北区梅田、中京圏であればリニア開発にも湧いた名古屋駅周辺や名古屋市栄区などですね。九州や北海道といった、ほかの地域でもそれぞれが人気エリアを抱えています」
人気エリアは開発が盛んなうえ、ビジネスの需要が集中している地区ばかり。通勤の利便性が高く、人流が盛んなため物件の値上がり期待が持てるので、投資目的で購入する方も増えてきています。
「最近では人気エリアでも、さらに場所が選別されるようになってきました。例えば東京都世田谷区や新宿区では居住需要に陰りが見えています。入り組んだ道が多いことなどから再開発がしにくく、将来の発展が見通せなくなっているからです。また全国的に共通して、駅徒歩5分以内などの好立地でないとマンションの需要が見込みにくくなっています。コロナ禍によって通勤に時間をかけたくないといった、利便性を追求する傾向が強まったためです」
デベロッパー側でもパンデミックでリスク管理のあり方が変わり、確実に完売できる付加価値の高い物件を販売の軸に据えようとする動きが加速。特定の人気エリアにおけるマンションの平均坪単価をさらに押し上げる要因となっているのです。
都市の中心部以外でも需要に明暗が分かれる
マンションの大供給時代といわれた2000年代初期を経て、供給減とともに高価格帯の物件の割合が増えていきました。そのため平均的な所得者層が購入できる物件は、都市の中心部からはずれた比較的低廉なマンションへと移行してきています。井出さんは、中心市街地以外のエリアでも需要が2極化傾向にあると強調。人気の明暗が分かれる要素を3つ挙げました。
「1つ目の要素は、最寄り駅において鉄道を2路線以上利用できるか否かです。代表例には東京都の立川駅や武蔵小杉駅周辺などがありますが、世間で認知されている以上に居住需要があります。2つ目は県庁所在地で、百貨店が立地しているかどうかです。県庁所在地は公共施設が充実しているうえ、中心的な商業施設があるので賑わいが生まれます。しかし近年は、コロナ禍も相まって閉店する店舗が急増していることから、対象エリアが年々少なくなっていますね」
井出さんは3つ目に、意外な要素として新幹線の停車駅があることも挙げました。
「医者や士業など比較的所得の高い人が、新幹線が停車する駅前のマンションを購入するケースが頻繁にあります。もともとは同じ市内の戸建て住宅などに住んでる方が多いのですが、3大都市圏や空港へのアクセスを考えて移り住むのです。代表的な例には福井県の金沢駅周辺などがありますね」
国内で人口減少と高齢化が進むなか、郊外への土地利用拡大を抑制するコンパクトシティ化の動きが全国的に加速しています。そのような状況下でも3つの条件にあてはまるような街は、コンパクトシティの中心地となり得る潜在性があるのだそうです。
一方で過疎化が進み、公共交通が利用しづらいなど利便性が低く、災害も懸念されるエリアは当然のことながら住まいの需要は見込めません。
「新たな移住者が少ないエリアは、新築マンションがまったくといってほど供給されないので一目瞭然です。マンション選びはつまるところ立地選び、そして都市選び。将来性の乏しい街からは商業・医療施設などあらゆる都市機能が失われ、生活そのものが成り立たなくなってしまうかもしれないのです。立地するマンションの資産価値も目減りしていく一方です」
都市の成長性は若者世代の流入が鍵
マンション購入を検討する際に重要な都市の選択。それでは、街の将来性を見極めるうえでどのような指標に注目すればいいのでしょうか。
「各都市の人口流入の推移が最も参考となるデータでしょう。特に20代〜30代のいわゆるミレニアル世代の動向に注目すべきです」
東京カンテイでは総務省の統計をもとに、全国各市町村における世代ごとの人口の増減率をデータ化。人口の増加が著しい世代ほど増減率の数値が濃い赤色で着色。反対に減少が際立っている世代は数値が青みがかるようにとりまとめられています。
例えば、前述した人気エリアである都心6区(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・渋谷区)は20〜30代の流入が他区より際立っています。都心6区は他の地区より新築マンションの平均坪単価も著しく上昇しているエリア。若年層の流入が都市の将来性、ひいてはマンション価格の需要と無関係ではないことがわかります。
「人生には移住する主なタイミングが2つあります。一つ目が大学入学など学業の都合で行う引っ越し。そして二つ目は就職の際に、職場に近い場所に住まいを移す場合です。いずれも比較的若い年代に関するイベントです」
その後も結婚や出産など引っ越しの可能性があるイベントはいくつかありますが、同じ市内で賃貸から分譲住宅に移転するなど限られた距離であるケースが大多数。人口の動向に与える影響は軽微なのだと井出さんは語ります。
「5〜14歳の若年層についての動向も参考になります。なぜなら、将来にわたって定住しやすいファミリー層の移住傾向がわかるからです」
当然ながら、幼稚園児や小中学生などは自分の意思で移住することはありません。必ず親世代とともに住まいを移します。ファミリー層は、配偶者や子どもに配慮して引っ越しをしない傾向が強く長期的な定住が見込めるのです。
「子育て世代の需要を上手く取り込んでいるのが、子育て支援策を充実させてきた埼玉県です。とりわけ、さいたま市浦和区は文教地区として子育て世代の支持を集めています。浦和区はさいたま市大宮区と人気を2分するエリアですが、5〜9歳の幼齢期にある子どもの増加率は浦和区の方が圧倒的に高いのです」
コロナ禍での医療体制整備や感染症対策など、自治体が地域住民に対して果たす役割が再認識されてきています。少子高齢化を背景に、各自治体の子育て支援策もますます推進されていくことでしょう。マンションの購入を検討するなら、まずは候補地が若者世代やファミリー層から支持されているかどうか、そして自治体が取り組む政策に注目してみてはいかがでしょうか。
【東京カンテイ 上席主任研究員・井出武】
1989年マンションの業界団体に入社。以後不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。
現在、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。
『BSフジLIVEプライムニュース』、『羽鳥慎一モーニングショー』、不動産経済オンライン、文春オンライン、日本経済新聞など多数のwebメディア、新聞、TV等へ出演実績多数。また、22年10月にオープンした『東京カンテイ マンション図書館』の館長も務める。
この連載について
【連載】マンション管理最前線
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