「原状回復」のトラブルを解決したい!
マンションでよくある困った問題をテーマに、その解決方法を紹介していくこの連載。今回は主に賃貸に関わる「原状回復」のトラブルに目を向けてみたいと思います。
借主の退去時に起こりやすい「敷金が全額戻ってこなかった」「壁紙の張り替えのために高額な費用を請求された」といった、原状回復に関するトラブル。貸主や管理会社との交渉が上手くいかず、裁判に発展したケースもあるそうです。
「原状回復の費用に納得がいかない」「高額な修繕費を請求されて困っている」
今回は原状回復のトラブル例から対処法まで解説していきます。
退去時の原状回復で起きる(生じる)3つのトラブル
【トラブル1】敷金が戻ってこない……
借主の退去時に発生することが多い、敷金トラブル。
そもそも敷金とは、原状回復の費用などに当てるため、あらかじめ預けておく準備金です。退去時には、原状回復の費用や未払賃料が差し引かれて返還されることになっています。
「敷金はほとんど戻されるもの」と考えている方もなかにはいるかもしれません。しかし、「思ったよりも少額だった」「まったく返還されなかった」となるケースも多々あります。
借主は原状回復費の見積もりを請求することができます。内訳を確認し、敷金の残額の把握が大切です。
【トラブル2】入居時からあった損傷の修繕費が請求された!
入居時からあった傷か、入居した後の傷かが問題となり、トラブルに発展するケースも多くあります。
借主が退去する際に気づいても、入居前にあった傷であることを証明できなければ、入居中の損傷だと判断されることも。その結果、借主の過失として修繕費を請求されてしまいます。
借主は入居時からの傷であることを証明できるよう、カメラなどで撮影し、証拠を残しておくことが大切になります
【トラブル3】高額なクリーニング費用や内装費用を請求された!
汚れていない襖(ふすま)や障子、内装をすべて新しくする費用が請求され、トラブルになる場合もあります。
例えば、些細な傷が数カ所あるだけにもかかわらず、フローリングの全面張替え費用として80万円の請求があったケースもあるようです。しかし国土交通省が発表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、普段の生活で自然とついた傷は「通常の消耗」とされ、借主に修繕の義務はありません。
トラブルはどうやって回避する?
では、前述したトラブルに、借主側はどう対応をすれば良いのか。
【対処法1】入居時の部屋の状況を写真に残しておく
過度に修繕費用を請求されないため、入居時の物件の状況は写真に残しておきましょう。貸主から、入居時の傷や汚れの状態を記録しておく現況確認書が渡される場合もあります。その場合は、コピーを取るなどして手元に保管しておくと良いでしょう。
借主・貸主の両者が立ち会っての事前確認が、トラブル回避には有効です。とはいえ、入居時に貸主が立ち会わない場合もありますので、やはり写真のような客観的な証拠が必要となるでしょう。
【対処法2】契約書の内容を事前に確認しておく
原状回復ガイドラインでは、「借主が通常の清掃を行ったのちに退去した場合の室内清掃費用(ルームクリーニング費用)は貸主の負担」であるとされています。
前述した通り、原状回復とは住居の経年劣化を考慮しているため、入居時のようにキレイな状態まで修復する義務はないからです。
一方でガイドラインには「通常の原状回復義務を超えた負担を特約として規定することができる。」ともされています。
つまり、契約書に「ハウスクリーニングは借主負担とする。尚、当該費用は一律30,000円とする。」という特約を記載することは可能。この場合、汚損の程度にかかわらず、借主が清掃費用を負担することになります。
特約があるかどうか、追加費用の記載があるかどうかなど、契約書はよく確認しておきましょう。
【対処法3】「原状回復」の対象になる・ならないを知る
原状回復ガイドラインによると、借主の費用負担の対象となるのは、故意・過失による傷や汚れ。つまり、経年劣化や通常の消耗などの修繕費は含まれません。
借主に原状回復の義務があるのは、
・飲みものをこぼしたシミ
・ペットのひっかき傷
・クギやネジを打ち込んだことによる穴
などがあります。
一方で経年劣化や通常の消耗に含まれるのは、
・畳やフローリングの日焼け、色あせ
・家具を置いたことによる床のへこみ
・ポスターを貼った画鋲の穴
など。
こちらは貸主の費用負担となります。
ただし、通常の住まい方をしていても手入れや管理が悪く
・水回りのカビや水垢
・ガスコンロの油汚れ
・換気扇のすす汚れ
などが発生した場合、借主に原状回復義務があるとされています。
【対処法4】国民生活センターや消費生活センターに相談する
原状回復の費用に納得が行かない場合、貸主や管理会社に相談をしましょう。
納得できる説明がない場合は見積書をもらい、経年劣化や通常消耗の範囲を超える範囲や、不当に高額な請求でないか確認してみてください。
それでも、当事者間で原状回復に関するトラブルが解決できないようであれば、国民生活センターやお住まいの地域の消費生活センターに相談するのも手となります。
国民生活センターの紛争解決委員会では、ADR(裁判外紛争決済手続)も行ってくれます。ADRとは、消費者紛争のなかでも全国的に重要とされる事案に対して、和解の仲介・仲裁を行うものです。
裁判の費用負担が気になる場合や、専門家に仲介してもらいたいときは、一度検討してみてはいかがでしょうか。
以上、今回は原状回復をテーマに、トラブルと、借主側からの解決方法を紹介してきました。
借主は入居時にやることとしては、まずすでにあった損傷などを写真に収めておくこと。そして退去後は、原状回復費の見積もりを請求し、不当な費用が追加されていないか確認しておきましょう。
費用に納得がいかない場合は、貸主や管理会社に連絡。それでも解決しない場合は、国民生活センターやお住まいの地域の消費生活センターに相談することをお勧めします。
この連載について
【連載】これで解決!マンション暮らしのトラブル
複数の世帯が生活を送る分譲マンションでは、共用スペースの使い方やペットの飼育、ゴミ捨て場における利用マナーなど、思いがけないトラブルに遭遇する可能性があります。そこで、本連載『これで解決! マンション暮らしのトラブル』では、マンションでよく起こる困った問題の解決方法をテーマごとにご紹介。トラブル発生の防止や、万が一起こってしまった際の対応マニュアルとしてもご活用ください!