長期修繕計画の見直しはなぜ必要?そのタイミングは? 注意点も紹介
計画を立ててスムーズな修繕を! 長期修繕計画について解説
マンションで発生する劣化に対応し、建物の状態を新築の頃の水準にまで回復させるためには、定期的な大規模修繕の実施が不可欠です。
高額な費用がかかり、数ヵ月から時には年単位の期間を要する大規模修繕に適切に対応していくためには、事前に計画を立てて取り組む必要があるでしょう。
今回はマンションで先々実施する修繕についての計画である、長期修繕計画について解説していきます。
マンションの長期修繕計画とは?
長期修繕計画とは、建物の部位や設備ごとの修繕を「どの時期に」「どの程度費用をかけて」実施していくかの計画を意味します。計画を立てておけば、先々に実施する大規模修繕へのスムーズな対応につながるでしょう。
建物が竣工したタイミングで長期修繕計画が用意されているケースもありますが、必ずしも予め計画が立てられているマンションばかりではありません。計画を立てていないマンションは、できるだけ早く管理組合で計画作りを進めましょう。目安としては、分譲開始から3年以内には計画を作成し、管理組合で合意形成をしておきたいところです。
長期修繕計画は、国土交通省が発表している「長期修繕計画作成ガイドライン」をベースとして作成することが推奨されています。ただし、マンションによって総戸数や立地など建物を取り巻く条件が異なるので、自分達が住むマンションに適した計画にしなければならないという点は押さえておきましょう。
計画は概ね30年先の未来を見据えて検討しますが、年月を追うごとにはじめに立てた計画にズレが生じる可能性は高くなります。そのため、計画を立てた後も5年に1回程度は見直しを実施して、現状に見合った内容に調整していくべきです。5年ごとの見直しの実施は、長期修繕計画作成ガイドラインでも推奨されています。
マンション長期修繕計画の必要性
長期修繕計画を立てると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
計画を立てる必要性について解説します。
将来の工事内容や修繕費を把握できる
マンションで長い年月にわたり安全に暮らすためには、建物の劣化に対する定期的な修繕が欠かせません。
適切なタイミングで必要な修繕を実施するためには、十分な資金が必要です。いざという時に、修繕積立金不足で工事ができなくなる事態を避けるためには、事前に必要な費用の目安を把握しておくことが必要です。
修繕に必要なおおよその費用額を前もって把握できるのは、長期修繕計画を立てるメリットだといえるでしょう。
事前に住民の理解を得られる
管理組合にとっての1大イベントといえる大規模修繕は、実施期間中、マンションの環境に大きな影響を与えます。
足場の設置や工事の騒音、施工業者のトラックの出入りなどは、住民がストレスを感じる原因になりかねません。そのような状況が数カ月から時には年単位で続くので、工事期間中は住民からのクレーム発生につながってしまう可能性があります。
長期修繕計画があれば、そのようなトラブルの回避にも効果的です。立案した計画が管理組合で共有してあれば「何年の何月頃から大規模修繕工事の必要がある」と事前に把握でき、適時アナウンスもできるため、住民は心の準備ができ、納得感を得やすくなります。これにより、工事に対するクレーム発生の減少にもつながるでしょう。
修繕積立金の設定額の根拠を明示できる
長期修繕計画は、住民間で問題が起こりやすいお金のトラブルの発生防止にも効果を発揮します。
マンションの劣化は年月が経過するごとに激しくなっていくものです。劣化が進行していくと、毎月集める修繕積立金を途中で値上げしなければならない場合もあるでしょう。この時、値上がりに対して住民から理解を得られなければ、トラブルに発展してしまう可能性があります。
このようなケースでも、前もって長期修繕計画を共有して金額の根拠や値上げが必要となる可能性を示しておくと、お金のトラブルを未然に防ぐ助けになるでしょう。
長期修繕計画に含まれる内容
ここからは長期修繕計画を立てる際に、内容に含んでおくべき3つの項目を紹介します。
計画立案をする際は、この3つを必ず含めるように注意してください。
1.建物・設備の修繕に関する項目
建物や設備に対して、どのような修繕を実施するかを計画書に記しましょう。
例えば、「足場の仮設」「屋上の防水工事」「金具の塗装の補修」「エレベーターのリニューアル」といった形で、実施する修繕内容を書き出します。
大規模修繕は、建物や設備を新築時と同等の水準まで回復させるのが目的です。劣化状況によっては、修繕ではなく取り替えが必要な場合も考慮しながら進めましょう。
2.修繕に必要な資金計画
資金の計画も長期修繕計画の重要要素です。
計画書には、現在の修繕積立金の残高や修繕積立金の月額、予定している修繕の実施に必要な費用の目安金額なども記入しましょう。これらの金額を記しておけば、修繕計画に必要な資金に不足が発生していないかの状況把握が容易になります。
不足が発生している場合であっても、どのくらい足りないかを確認しやすくなるので、対策を取りやすくなるでしょう。
3.修繕時期と周期
修繕を実施する時期も具体的な計画に落とし込みましょう。
マンションの大規模修繕工事は12~15年の周期が実施の目安です。ただし、資材や設備によっては、修繕が必要となる時期が工事の周期と合致しない場合もあります。例えば、鉄部の塗装は5年毎の実施が目安とされているので、大規模修繕を待っていては適切な対応ができません。
そのため、大規模修繕をメインの修繕の機会としつつも、合間で軽微な修繕を実施していくのが理想です。
計画を立てる際は、各資材や設備の耐用年数などを目安に修繕時期を考えましょう。
マンションの長期修繕計画の見直し方法
前述の通り、一度立てた計画は定期的な見直しが必要です。
見直しを進める3つの方法を紹介しますので参考にしてください。
管理組合で見直す
国土交通省が定めるマンション標準管理規約には、長期修繕計画の作成や変更は管理組合の業務と記されています。
管理組合だけで計画の見直しを完結させる場合は、外部の業者に委託する費用を削減できる点が大きなメリットです。また、管理組合はマンションが抱える問題などを把握しやすい立場なので、最新の状況に合わせて修繕計画の調整を進められるのも利点となるでしょう。
一方で、長期修繕計画の見直しという専門性が求められる内容に、管理組合だけで十分な対応が可能かという不安も残ります。国土交通省のガイドラインがあるとはいえ、正しい知識を持たない人だけが集まって進めると、実現性が欠けた計画を立ててしまうリスクは考慮しておきましょう。
管理会社に依頼して見直す
日々の管理業務を委託している管理会社に長期修繕計画の見直しを委託する方法もあります。
管理会社はマンションの管理状況も比較的把握できており、専門知識もあるため、安心して依頼できるでしょう。
費用は、無料で対応して貰える場合もあれば、普段支払っている管理費と別で10~50万円程度必要になる場合もあり、管理会社によってまちまちです。
劣化状況をしっかりと調べない場合は約10~20万円、建物の状態の調査・診断を実施する場合は約35~50万円が費用の目安となります。
この後に解説するコンサルタントよりは安価な傾向ですが、委託費用が安い場合、管理会社によっては簡単な見直しだけで終わらせる業者もあるのが気になるポイントといえます。
コンサルタントに依頼して見直す
日々の管理を委託している管理会社以外にも、マンション管理士などのコンサルタントを活用する方法もあります。
専門家の知見を活かした見直しのアドバイスを受けられる点は、大きなメリットといえるでしょう。実際に、「マンション標準管理規約」では、マンション管理士などのコンサルタントの活用が推奨されています。
コンサルタントの中には、修繕計画の精度を高めるのに効果的な建物診断に対応可能な業者もあります。ただし、精密な建物診断は約60~100万円の費用の発生が目安となるので、しっかりと管理組合内で話し合った上で実施の可否を決めなければなりません。
コンサルタントと定期契約し、継続してサポートを依頼することも可能です。その場合の費用は、月額で3~5万円程度が目安となります。
管理組合だけで不安なら専門家への委託を検討
マンションの修繕をスムーズに進めるためには、長期修繕計画が不可欠です。まだ計画を立てられていない管理組合は、早急に対応を進めていきましょう。
計画の立案や見直しを実施する際は、管理組合自ら進めるほか、管理会社や外部コンサルタントに委託する方法があります。
管理組合だけでは知識不足が懸念される場合は、外部に委託する方法を検討しましょう。