大規模修繕

「長期修繕計画作成ガイドライン」はどう使う?改訂内容も紹介!

2024.08.02
「長期修繕計画作成ガイドライン」はどう使う?改訂内容も紹介!

長期修繕計画とは、マンションで将来必要になるであろう修繕工事の時期や内容、費用などをまとめた計画書です。快適な居住空間を確保し、資産価値を高めるうえで、適切な修繕工事を行うために利用されます。

国土交通省では長期修繕計画の作成に向けた、ガイドラインを公開しています。今回はガイドラインをどのように使うべきかも含めて確認していきましょう。

長期修繕計画作成ガイドラインとは?

修繕計画に必要となる情報を収録

国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」は、2008年に初版が、2021年に改訂版が発行されました。

このガイドラインは、管理組合を対象に修繕計画に必要となる情報を収録したもの。「屋根防水」や「外壁塗装」といった具体的な修繕工事名が列挙されており、書類の標準様式や記載例も紹介されています。

なお、主に区分所有者が自ら居住する住居専用の単棟型のマンションでの利用を想定していますが、必要な内容を追加すれば「団地型のマンションにも適用できる」とされています。

修繕内容の見直しで計画の精度がUP!

長期修繕計画では、工事請負契約書にある請負代金内訳書や数量計算書、設計書、修繕履歴などをもとに、修繕の時期や内容、費用を計画します。

ただし、マンションの環境や使い方によっては、設備の劣化状態と計画で必要としていた工事に齟齬が生じる場合があります。さらに、修繕積立金の運用利率、借入金の金利、工事費用などは変動するため、修繕費用が不足する恐れもあるでしょう。

ガイドラインでは長期修繕計画の精度を高めるために、5年に1回程度の計画の見直しを推奨しています。長期修繕計画の精度をチェックする際には、更新周期が注目ポイントとなりそうです。

2021年の改訂における変更内容とは?

【変更内容1】修繕計画の期間が見直された

計画期間が「25年以上」から「30年以上」に修正された

長期修繕計画作成ガイドラインは2021年に改訂が行われ、既存のマンションにおける長期修繕の計画期間が、当初の「25年以上」から「30年以上」に修正されました。

新築マンションでは「大規模修繕工事2回を含む30年以上」が推奨されていたため、これに揃えた形となります。既存のマンションでは、期間に5年間の猶予ができたので、積立金の運用に余裕ができそうです。

【変更内容2】計画の参考になる補足情報を追加!

2021年度版のガイドラインでは、修繕周期を「○○年〜○○年」というように表記して、目安の期間に幅を持たせています。

さらに、国土交通省「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿った点検を行う重要性をうたうなど、定期点検や省エネ性能向上工事の有効性が追記されました。計画の作成、および妥当性を確認する際には、さらに使いやすい内容となっています。

改訂で省エネやエレベーター点検についての追記も

省エネ改修で光熱費を節約!

2021年版のガイドラインでは、築年数の古いマンションが「省エネ性能が低い水準にとどまっている」としたうえで、「省エネ性能を向上させる改修工事を実施することは、脱炭素社会の実現のみならず、各区分所有者の光熱費負担を低下させる観点からも有意義」と追記されています。

具体的な修繕内容としては、壁や屋上の外断熱工事、窓の断熱工事があげられています。長期修繕計画を確認する際には、省エネを考慮した改修の有無にも気を配りましょう。

エレベーターの点検は国交省の指針どおりに

所有者は保守点検契約にもとづいてエレベーター点検を業者に依頼する必要がある

その他、2021年版のガイドラインでは、エレベーターの保守契約による点検は、国土交通省「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿って行う重要性が追記されています。

同指針では、所有者や保守点検業者、製造業者の責任について書かれています。例えば、エレベーターの保守点検については、所有者が保守点検契約にもとづいて、業者に依頼する必要があるそうです。

なお、ガイドラインには「保守点検業者の選定に当たって留意すべき事項のチェックリスト」と「保守点検契約に盛り込むべき事項のチェックリスト」が添付されているので、業者に保守を依頼する際に参考にしてみてはいかがでしょうか。

修繕積立金のガイドラインも改正された

必要な修繕積立金が1.25倍〜1.6倍に!?

長期修繕計画作成ガイドラインとは別にもう一つ、マンション保守の参考にしたいのが「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」です。

同ガイドラインは2011年に策定された後、2021年に改訂が、2023年に追補版が発行されています。

このうち2021年の改訂では、修繕に必要となる積立金額の目安が変更されました。目安金額は「地上階数」と「建築延床面積」ごとに記載されていますが、このうち目安金額の「平均値」については、どの条件でも1.25倍〜1.6倍程度値上がりしています。

目安となる積立金額が値上げされた背景には、建築費や人件費の高騰などが考えられそうです。

中古マンションでも修繕積立金が計算可能に

マンションの修繕積立金に関するガイドラインでは、2021年の改定によって、修繕積立金の算出方法が以下のように変更されています。

【2011年度版】
修繕積立金額の目安[円/月]=専有床面積当たりの修繕積立金額の目安[円/㎡・月]×購入予定のマンションの専有床面積[㎡]

【2021年度版】
計画期間全体における修繕積立金の平均額[円/㎡・月]=(修繕積立金の残高[円]+計画期間全体で集める修繕積立金[円])÷マンションの総専有床面積[㎡]×長期修繕計画の計画期間[ヵ月]

以前の計算式は新築マンションを想定していましたが、2021年度版では既存マンションも含めて修繕積立金の目安を計算するようになっています。修繕積立金の残高が計算に取り入れられ、長期修繕計画の見直しにも利用しやすくなりました。

計画はあくまで予測値!現実に即した修繕を

先ほどガイドラインに記載された積立金の目安金額について紹介しましたが、注釈に「事例にばらつきが大きい」と記述されていました。

ガイドラインは長期修繕計画の作成時に役立ちますが、あくまで参考としての利用に留めておいて、実際のマンションにあった計画を立てましょう。

長期修繕計画は、あくまで作成時点に想定される工事の内容などを記載したものです。「計画の立案=工事時期や費用の確定」ではないので、5年ごとの見直しを含め、現実に即した形で修繕を行う必要があるでしょう。

ガイドラインは一番ベーシックな資料

ガイドラインには大規模修繕工事の周期など、長期修繕計画の参考になる情報が記載されています。修繕積立金額の目安も紹介されているので、参考値として計画に取り入れられそうです。

ただ、修繕を行うべきタイミングは、物件によって異なります。計画の立案時から年数が経つうちに、当初予定していた期間や費用が現実にそぐわなくなるケースもあるので、定期的な内容の見直しも重要です。ガイドラインの内容が更新される場合もあるので、常に最新の情報をチェックすると良いでしょう。

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