大規模修繕に欠かせない建物診断。修繕費を抑えられるってホント?
大規模修繕は12年周期が目安! 理由や最適な時期を知る方法も解説
十数年に1度のタイミングで訪れる大規模修繕。1回目を終えたけど、2回目以降はどの時期に実施すれば良いのか迷う方も多いのではないでしょうか。
一般的には12年周期が目安と言われていますが、その根拠はあるのでしょうか。大規模修繕の周期が12年である理由を中心に解説していきます。
大規模修繕の目安が12年周期である6つの理由
【理由1】国土交通省が12年という周期を提案している
大規模修繕の周期が12年と言われるようになったのは、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」のなかで「外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期が12年程度」「大規模修繕(周期12年程度)」などの記載があるためです。
一方でこのガイドラインが定められたのは、2008年と今から10年以上も前。この間、外壁塗装に用いる塗料の性能や施工技術は向上しており、現在は必ずしも12年周期で実施する必要はないともいわれています。
国土交通省では建物の安全性を重視するために12年周期の目安を提示していますが、鉄筋コンクリート構造のマンションであれば大規模修繕を16~17年周期で行っているケースもあるようです。そのため12年はあくまでも目安と捉え、自分が住んでいるマンションの状態を把握して、周期を決めることがまずは前提となります。
【理由2】長期修繕計画がそもそも12年周期を前提としている
12年周期というのは、管理組合側での共通認識というよりも修繕業界内での常識として定着している部分もあります。
大規模修繕を主導で行う管理会社や施工会社にとっても、12年という周期で固定されていれば、工事の計画も立てやすいといえるでしょう。
新築時に販売会社から購入者に提示される「長期修繕計画」も、将来見込まれる修繕工事の内容や時期などは12年周期を前提として作成されています。管理組合や管理会社は、その長期修繕計画をもとに大規模修繕に向けた準備を進めるため、そもそも12年周期を疑うことがない現状もあるでしょう。
【理由3】耐久性の高い工事を提案できる業者が少ない
これまで一般的とされていた12年周期を延長するためには、1回の大規模修繕で高耐久の部材・工法による修繕が必要となります。しかしこういった高耐久性工事の提案を行える施工会社が、少ない現状もあるようです。
また仮に提案されたとしても耐久性は高くなる分、費用も高額になるため、大規模修繕を依頼する管理組合側は通常の工事を望むケースもあるといいます。
【理由4】外壁の修繕にあわせてほかの工事も実施するため
現在、マンションで主流のタイル張りは高級感を演出できる反面、施工技術によっては劣化が早く進み、剥がれや落下なども起きやすいと言われています。こうしたタイルの劣化は、外観を損ない、資産価値の維持に悪影響を及ぼす可能性がある上に、近くを歩く人や置いてある車にぶつかってしまうなど、安全面でも懸念されています。
タイルの剥がれは一部分であったとしても「どうせ足場をかけて修繕作業を行うのであればベランダや屋上の防水工事も同時に行いましょう」と管理会社や施工会社から提案されるケースもあります。比較的劣化が早いといわれる外壁の修繕とあわせて、そのほかの工事も一緒に行ったほうが経済的であるなどの理由から、周期を延長する機会がないようです。
【理由5】築10年以上のマンションは「全面打診調査」が必要なため
2008年4月1日の建築基準法改正により、築10年を経過した外壁がタイル貼のマンションは、外壁の「全面打診調査」が必要になりました。方法としては「タイルを叩いて下地との浮きがないかを確認する調査」と「赤外線調査」の2つです。
外壁タイルは専用の接着剤で貼り付けてあり、時間の経過とともに接着力が弱まると、タイルと下地の間に隙間(浮き)が生じる可能性があります。浮きを長期間放置しておくと剥がれ落ちる可能性が高くなり、前述した通り歩行者の頭に直撃して事故に発展するなどの恐れもあるのです。
そのため全面打診調査の時期と合わせて、大規模修繕を実施するケースが多いのも理由の1つです。
【理由6】部材の耐用年数が過ぎるため
防水や塗装工事で用いられる部材などは半永久的に効果が続くわけでなく、耐用年数といって、寿命が定められています。
例えば近年の主流であるシリコン系塗料の耐用年数は、一般的に12〜15年ほど。耐用年数が過ぎると劣化も目立ってくるため、この時期に合わせて12年~15年周期で大規模修繕を行うマンションが多いといえます。
12年から18年へ。修繕周期は長期化している
平成29年に行われた「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、1回目の修繕を築後11〜15年に行ったマンションが64.9%、16~20年が23.3%を占めています。おおむね、12年より少し長い周期で行われているとわかります。
大手管理会社でも、修繕周期を16〜18年程度に設定する取り組みがされています。
大規模修繕には足場の仮設が不可欠ですが、足場仮設は工事費の約15%~20%と高額です。大規模修繕の頻度を減らし、足場を必要としないメンテナンスで対応することが、総工事費の削減に繋がります。
また、周期を長期化すると、修繕積立金額を用意する時間も確保できます。
そもそも長期修繕計画の様式は、平成20年に策定されました。最近建てられたマンションには適用されない部分がある点に留意し、周期は柔軟に見直しましょう。
どこを直すかによって周期も異なる!
なお、外壁塗装をはじめとした1回目の大規模修繕だけでなく、修繕箇所によって周期は異なります。目安の時期に修繕を行っていない場合は、大規模修繕の際にまとめて工事を行う必要もあるでしょう。
なお、以下はあくまでも目安ですが、各修繕箇所ごとの周期の目安をまとめてみました。
目安となる周期は延長される可能性も
では今後、これまで当たり前とされてきた12年という周期が延びることはあるのでしょうか。
修繕積立金の不足に悩んでいる管理組合も多いと聞きます。そのため、修繕費用の負担増に対応できないマンションが今後さらに増えてくるようであれば、長期修繕計画作成ガイドラインに記載のある12年周期が見直される可能性もあるでしょう。
過去を振り返ると、2000年以前の長期修繕計画の多くは10年周期で立てられていたといいます。しかしその後、マンションの価格はもちろん管理費や修繕積立金もできるだけ安く設定しなければ売りにくい状態へと一変。10年周期という計画通りに大規模修繕を実施していれば、一時金の徴収や借金に頼らざるを得ないマンションが増えたことで、国土交通省は12年という周期を目安としたガイドラインを発表した背景もあります。
また今は耐久性の高い修繕について、積極的に提案できる管理会社や施工会社が現状は少なくとも、今後ニーズが高まってくればそれが業界のスタンダードになる可能性はあります。時代の経過とともに新たな工法や技術の開発が進めば、大規模修繕がさらに延長される未来はそう遠くないと言えそうです。
最適な修繕時期は建物診断でわかる!
12年周期で大規模修繕の計画を立てるといっても、建物の傷み方は均一ではありません。環境によって劣化の進度も変わってくるため、必ずしも計画通りに修繕を行わなくても良いケースがあります。今すぐに工事する必要のない部分であれば、その分費用が浮き、次の修繕に回すことも可能です。
建物の劣化の度合いを確かめる方法として「建物診断」があります。建物診断では、現在の建物の状況を「経年劣化診断」「耐震診断」「収益性診断」の主に3つの項目に沿って調査します。修繕の優先度が分かるため、修繕費の削減や長期修繕計画の精度向上につながります。
詳しくは下記の記事でも解説しているので、参考にしてみてください。
回数を重ねるごとに改修する点は増える
大規模修繕の周期を12年とすると、1回目の修繕は築後12年、2回目は築後24年のタイミングがひとつの目安となります。
「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、1回目の修繕を築後11〜15年に行ったマンションが64.9%と最も多く、2回目の大規模修繕は築26~33年前後、3回目以上は築37~45年前後に実施されているのが実態です。
1回目は建物の外部を修繕するだけで済んだとしても、2回目には建物内部の細かな部品交換が必要になります。3回目ともなれば、建物の主要な部材を交換する必要があるでしょう。
さらに、時代の変化に合わせて耐震補強工事や省エネ化工事が必要になることも。築年数が増えればそれだけ修繕しなければならない部分が増えますので、回を追うごとに費用も増していきます。20〜30年といった長期的な視野で計画し、修繕費を確保しましょう。
12年周期はあくまでも目安として捉える
大規模修繕では12年周期が定着していますが、ただこの数字はあくまでも目安。定期的に建物の状態を見ながら、自分たちのマンションに合った適正な周期を考えていきましょう。
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