マンションの耐震性は何を基準に判断すればいいか?
地震大国とも呼ばれる日本。2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震を機に、マンションの耐震性が気になるようになった方も多いでしょう。では、耐震性について何をもとに判断すれば良いのでしょうか?
この記事では耐震性の基準やよく耳にするキーワードを解説しますので、お住まいのマンションがどの程度地震に強いのか、確認する際の参考にしてみてください。
耐震性とは揺れに対する強さの度合い
そもそも耐震性とは、地震の揺れに対してどれくらい耐えられるかの度合いを指す言葉。建物の耐震性が高いほど、強い地震が発生しても倒れたり壊れたりしにくいとされています。
建物の耐震性については主に「耐震基準」と「耐震等級」という2つの指標で判断できます。耐震等級は後ほど詳しく紹介するとして、ここではまず「耐震基準」について説明していきます。
耐震基準は1981年以前と以後で異なる
建物は法律で定められた耐震基準を満たさない限り、建築の許可が出ません。ただ、耐震基準は1981年を境に新しくなったため、それより古い時期の建物に関しては耐震性が不十分な可能性があります。
つまり、耐震性の判断をするうえで、築年数も一つの指標となるということです。
旧耐震基準は1950年の建築基準法施行時より導入されました。これは中地震程度の揺れに崩壊しない強さを基準としています。中地震とは、震度5弱~5強程度の地震と定義されることが一般的です。
一方で1978年の宮城県沖地震の深刻な被害を受け、1981年6月1日より導入されたのが新耐震基準です。こちらは、旧耐震基準では想定されていなかった大地震にも耐えうる基準を新たに設定。旧耐震基準が震度5弱〜5強の地震を想定しているのに対し、新耐震基準では震度6強~7程度の揺れでも倒壊しないような基準を新たに設定しています。
マンションの耐震性をチェックする際は、「建築確認(施工予定の建物が建築基準法などを満たしているか確認する作業)」をいつ頃受けたのか、管理会社に確認してみましょう。
例えば、完成年が1982年とされていた場合であっても、建築確認申請は改正前の旧耐震基準の頃に行われている可能性があります。
新耐震基準が設定された1981年6月1日以降に建築確認を受けていれば、その建物は大地震も想定した建築構造であることがわかります。
耐震性にまつわるキーワードもチェック!
「耐震性をチェックしたいけど、専門用語が多くて難しそう」という方も多いのではないでしょうか。そこで、ここからは耐震性に関連する話題でよく耳にするキーワードについて解説していきます。
【キーワード1】耐震等級=倒壊のしにくさを示すランク
耐震等級は揺れに対する強さ、倒壊のしにくさを示すランクとして使用されます。これは2001年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」によって設定されました。
等級は1〜3まであり、新耐震基準の強度を最低限満たしていれば耐震等級1。そして、耐震等級2は耐震等級1の1.25倍、耐震等級3は1.5倍の強度を満たすという意味になります。2017年の国土交通省の調査によると、耐震等級3の建物は熊本地震でもほとんど被害がなかったようです。
耐震性の高いマンションを選ぶうえで耐震等級のチェックは重要といえるのですが、ただ、耐震等級の表示は任意となっています。表記が明確ではない、あるいは確認できないケースもあるため、その場合は管理会社などに問い合わせてみると良いかもしれません。
【キーワード2】長期優良住宅=長い期間の使用にも耐えられる住宅
長期優良住宅とは、安全面や環境面に配慮し、長期間住み続けるための措置を施した住宅のことです。長期優良住宅に認定されると住宅ローンの金利が低くなったり、税負担が軽減したりといった優遇措置を受けられます。認定には以下の9つの条件を満たすことが必要です。
1.劣化対策
2.耐震性
3.維持管理・更新の容易性
4.可変性
5.バリアフリー性
6.省エネルギー性
7.居住環境
8.住戸面積
9.維持保全計画
このうち耐震性では耐震等級2相当以上が求められているため、長期優良住宅に認定されているマンションは比較的耐震性に優れているといえます。
地震の揺れに対応する構造は3つある
地震に備えるための建物の構造には、いくつかの種類があることをご存じでしょうか?
主な構造は「耐震」「制震」「免震」の3つ。このうち制震と免震は特に高層マンションなどで使われることが多いようです。それぞれについて詳しく説明していきます。
地震エネルギーをそのまま受け止める「耐震」構造
耐震構造は日本で最もポピュラーな建物の構造です。建物自体を頑丈に作ったり補強材を入れたりすることで、地震の揺れに耐えられるよう建築します。
耐震構造は後に紹介する2つの構造より比較的コストを抑えられる分、地震のエネルギーをそのまま受け止める構造でもあるため、大地震の際は大きく揺れることが想定されます。
揺れを吸収する「制震」構造
制震構造は建物の内部に制震装置を配置し、地震のエネルギーを吸収して揺れを小さくする構造です。制震装置には主に「ダンパー」と呼ばれるバネやゴムなどを用いて衝撃や振動が伝わるのを弱めたり、静止させたりする装置を使用します。揺れの際にダンパーが伸縮することで、地震のエネルギーを熱エネルギーなどに変換し、揺れを減少させます。
この制震装置を配置することによって、地震の揺れを約20~30%減らすことが可能といわれています。
建物に伝わる揺れを軽減する「免震」構造
免震構造はゴムやダンパーなど揺れを吸収する装置の上に、建物を建てる構造のことです。地面と建物の間にある免振装置が揺れを吸収し、建物自体に伝わる揺れを軽減するため、耐震構造や制震構造よりも地震の被害を抑えることが可能といわれています。
ただし、その分コストは比較的高めです。
耐震性のチェックポイントを紹介
これまで説明したキーワードや建物の構造のほかにも、耐震性を判断するポイントがいくつかあります。それぞれについて、以降で確認していきましょう。
【ポイント1】耐力壁の数は足りているか
「耐力壁」とは、建物を揺れなどの外部エネルギーから守る役割を持った壁のことです。鉄筋コンクリート造のマンションでは「耐震壁」と呼ぶ場合もあります。
先ほど説明した耐震等級では、ランクに応じて必要な耐力壁の数が決まっています。例えば、耐震等級2と認定されるには耐震等級1の1.55倍、耐震等級3は1.86倍の数の耐力壁が1階部分に必要とされています。耐震等級が上がるほど地震に強いとされていますから、耐力壁が多いほど耐震性が高いともいえます。
【ポイント2】耐力壁や耐震金物はバランス良く配置されているか
耐震性を考えるうえでは、耐力壁の数だけでなく配置のバランスも重要であるといわれています。
阪神淡路大震災の被害状況をもとに国土交通省がまとめた「マンション耐震化マニュアル」においても、耐力壁がバランスよく配置されていない建物は揺れに弱く、局所的に崩壊する危険性があるとされています。
また、ホールダウン金物といった耐力壁と床をつなぎ止める耐震金物の配置も大切です。耐震金物が適切に配置されていないと、柱が地震の揺れに耐えきれずに抜けてしまい、倒壊するリスクがあります。
マンションの耐震性をチェックする際は配置が均等になっているかどうかも、管理会社やマンション管理士などに確認してみましょう。
【ポイント3】床の強度は十分か
壁と同じく、床の強度も耐震性を決める要素の一つです。壁は床に固定されているため、床の強度が低ければ壁が揺れに対して踏ん張ることができません。
また、2階より上にある床は地震の揺れを均等に耐力壁に伝える役割も担っています。壁と床の強度のバランスが取れていることが、マンション全体の耐震性を保つことにつながるでしょう。
【ポイント4】マンションの形状は正方形に近いか
建物の構造だけでなく、建物の形状も耐震性に影響します。一般的に、マンションの形は正方形に近いほど揺れに強く、その形から離れるほど弱くなるようです。
国土交通省の「マンション耐震化マニュアル」においても、上から建物を見たときの刑以上がL字型やコの字型、細長い形状のマンションほど地震による被害が大きくなりやすいと記載されています。
1階部分に壁がなく駐車場などになっており柱だけで支えている建物形状を「ピロティ」といいますが、この形状も耐震性は比較的低くなってしまいます。大規模な地震の際には、ピロティ形式のマンションの倒壊が目立ったとの報告もあるようです。
【ポイント5】地盤が固いかどうか
地盤が柔らかいと揺れを増幅させてしまう可能性があります。海辺や埋没地では地盤が液状化しやすく、建物の傾斜や沈下が起きるかもしれません。
砂質土の地盤は良い地盤ともいわれますが液状化が起きやすいため、耐震性に不安が残る場合は避けたほうがよいでしょう。
耐震基準適合証明書で耐震性をチェック
建物診断を行ったうえで、耐震基準を満たしていると「耐震基準適合証明書」が発行されます。診断は図面による簡易的な診断から、実地調査による診断へと進んでいきます。
耐震性を測るだけでなく、登録免許税や不動産取得税の減額、住宅ローン控除といった特例を受けられるメリットがあります。
なお、建築時の建築確認申請時に提出する「構造計算書」によって耐震性を確認することもできますが、耐震基準適合書証明書を使用するケースのほうが多いようです。
耐震診断は一部の建物では義務化されている
上記のような耐震基準をを測るためには、建物診断や耐震診断を行うとよいでしょう。しかし、耐震診断は義務ではありません。
旧耐震基準で建築された中古マンションでは、改正後の基準を満たせない可能性もあります。大規模な耐震補強工事を行う必要が生じると、費用も時間もかかってしまうでしょう。仮に診断で不適格という結果が出ても、補強工事も義務ではありません。
幹線道路沿いのマンションでは避難・救助活動に支障をきたさないよう耐震診断が義務づけられていますが、こちらも補強工事自体は努力義務となっています。
耐震性の基準は国によって定められている
ここまでの話をまとめると、耐震性とは地震などの揺れに対する強度のこと。耐震性は構造や耐力壁の配置、強度などによって左右されますが、新耐震基準が設定された「1981年6月以降」に建築確認が取られた建物であれば最低限の安全性は保証されているといえます。
安心して暮らすためにも、お住まいのマンションの耐震性についてしっかりと理解しておきましょう。
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