「修繕積立金」のトラブルを解決したい!
マンションでよくある困った問題をテーマに、その解決方法を紹介していくこの連載。今回は「修繕積立金」のトラブルに目を向けたいと思います。
大規模修繕をはじめ、マンションの工事費用に充てられている「修繕積立金」。住宅ローンの返済や管理費とともに毎月かかってくるお金ですが、値上がりする可能性もあります。
そんな修繕積立金の値上がりや滞納してしまった場合に起きるトラブルと、その対処法を紹介します。
そもそも修繕積立金とは?
マンションでは、15年〜20年ごとに大規模修繕が行われます。外壁や配管など建物全体の劣化を直すため、多額の工事費が必要です。そこで、「修繕積立金」として区分所有者から毎月少しずつ資金を集め、来たる修繕に備えています。
積立金の集め方には、毎月一定額を集める「均等積立方式」と、マンションの劣化に合わせて次第に毎月の金額が増えていく「段階増額積立方式」があります。購入時や工事の実施前後に一時金としてまとまったお金が集められるケースもあります。マンションによって採用している方式が異なるので、よく確認しておきましょう。
修繕積立金にかかわるトラブル
修繕積立金に関して懸念される事項にはどんなものがあるでしょうか。
【トラブル1】修繕積立金を滞納してしまう
国土交通省の「平成30年度マンション総合調査結果」によると、3ヵ月以上の管理費・修繕積立金の滞納が発生しているマンションは24.8%と報告されています。
滞納者への措置として最も多いのは「文書等による催促」で70.9%。「少額訴訟」「支払請求等の訴訟」が合わせて12.5%と、訴訟に発展するケースもあるようです。裁判所を通して強制的に売却を請求する「競売」も2.2%のマンションで実施されています。
一般的に、いきなり訴訟とはなりません。まず管理会社等から電話や手紙、面会などで督促が行われます。督促に応じない場合には、訴訟や競売が検討されます。
いずれにせよ、修繕積立金はマンションの資産価値や住みよい環境を維持するための大切な資金です。滞納しないよう、区分所有者全員が責任を持って積み立てていきましょう。
【トラブル2】前の所有者の滞納が引き継がれてしまう
前の区分所有者が管理費や修繕積立金を滞納していると、次の購入者に支払い義務が引き継がれます。
区分所有法第8条には「前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」とあり、「債権」には、管理費や修繕積立金も含まれているのです。
なお、売却時には滞納の事実を説明する必要があり、事実を隠蔽して契約した場合には、契約不適合として損害賠償などの法的措置がとられる可能性があります。
もし前所有者が滞納していたと知らずに物件を購入してしまったのなら、契約不適合ではないか確認しましょう。
また、前所有者に代わって支払った金額は、返還請求が可能です。
【トラブル3】修繕積立金が値上げされる
基本的に毎月一定額が集められる修繕積立金ですが、値上げされるケースは少なくありません。
「平成30年度マンション総合調査結果」によると、過去に修繕積立金の増額をしたことがあるマンションは全体の81.7%にのぼります。
詳しくは次で説明しますが、そもそもの設定金額が相場より安かったり、工事内容が予定よりも増えたりすると増額になります。
修繕積立金が値上がりする理由
ここで、修繕積立金が増額する理由を見ていきましょう。主に次のような項目が挙げられます。
【理由1】初めの設定金額が安かった
修繕積立金額の目安は、国土交通省が平成23年に発表した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に記されています。
つまり、ガイドラインの制定以前に建てられたマンションでは、現在の相場と比べて修繕積立金額が低く設定されていた可能性があるのです。
また、先に述べたように修繕積立金の集め方には「均等積立方式」と「段階増額積立方式」があります。そもそも段階増額積立方式が採用されているのであれば、マンションの築年数が上がるにつれ修繕積立金額も上がっていく仕組みになっています。
【理由2】実施する工事が予定より多い
大規模修繕工事は「長期修繕計画」という工事予定に則って実施されます。しかし、長期修繕計画の見直しを行っていないと、実際に必要な工事とのズレが生じてしまうでしょう。予定より工事工程が増えたり、必要な人員が増えたりすると、当然工事費用は高くなります。
また、劣化部分の修繕だけでなく、入居者や周辺環境に合わせてバリアフリー化や駐車場の整備といったグレードアップを行う場合にも、当然工事費用が高くなるでしょう。
【理由3】人件費の水準が上がっている
社会的な給与水準の引き上げにともない、施工会社の人件費があがっている可能性も考えられます。
修繕積立金の値上げを避けたいのであれば、施工の材料や工法を安価なものにするなどして工事費用を抑える工夫が必要です。
値上げの対処法
修繕積立金の値上げを防ぐ方法はあるのでしょうか。基本的には特定の個人の負担額だけを変更することはできません。値上げへの反対や提案がある場合、理事会で検討してもらったうえで、総会で決議をとる必要があります。理事会で検討してもらえる事項にはどんなものがあるか見ていきましょう。
【対処法1】適切な工事かどうか見直してもらう
大規模修繕工事の計画に、すぐには必要のない工事が含まれているかもしれません。建物診断などで劣化状況を把握し工事の優先順位が分かれば、現段階で必要のない工事を後回しにできます。
また、施工業者によって用いる材料や施工方法が変わってくるでしょう。数社に相見積もりを取って、必要以上の工事費がかかっていないか確認するのも大切です。
長期修繕計画の見直しがこまめに行われていない場合や、施工業者の選定等を管理会社に一任している場合、工事計画の再検討を提案してみても良いかもしれません。
【対処法2】毎月の値上げはせず、一時金を集めてもらう
毎月の出費が増えると、家計管理のうえでも負担が大きくなるものです。そこで、一時金として工事に必要な額をまとめて集めてもらう方法もあります。一時的な出費とはなりますが、毎月の家計管理を見直す必要はなくなります。
ただし、まとまったお金を支払うなら毎月払うほうが良いという人もいるでしょう。特定の個人だけ集め方を変えてもらうのは難しいため、総会での決議次第となる点に注意が必要です。
滞納になってしまった場合は?
修繕積立金を滞納すると、どのような事態に発展するでしょうか。前所有者の滞納を引き継いでしまった場合の対処法についても解説します。
すぐに訴訟とはならないが、可能性はある
住宅ローンは一度でも滞納すると金融機関から連絡が入りますが、管理費や修繕積立金の滞納ではすぐに連絡が来るとは限りません。
「平成30年度マンション総合調査結果」によると、催促通知や訴訟、競売といった措置をとったマンションがある一方、「特に措置を行っていない」マンションも3.6%あります。
しかし、修繕積立金が集まらなければマンションの修繕が行えません。自分たちの住環境を守る意味でも当事者意識をもって速やかに支払うことが大切です。
支払いが難しい場合は管理会社に連絡し、次月分と合わせて支払えるかどうかなど、今後の対応を仰ぎましょう。
前所有者が滞納分は返還請求できる
前所有者に滞納があった場合には支払い義務も引き継ぐ必要があります。しかし、本来の債務者はあくまで前所有者であるため、引き継いだ滞納の支払分を返還するよう前所有者に請求ができます。
ただし、請求は可能ですが支払いに応じてくれるとは限りません。滞納の有無は事前に告知されるため、購入時に確認しておきましょう。もし告知されていないようであれば、契約不適合で損害賠償を請求できる可能性もあります。
以上、今回は修繕積立金にかかわるトラブルとその対処法を紹介しました。
修繕積立金は値上がりする可能性があります。マンションの住環境を維持するために必要な資金ですので、適切な値上げは受け入れるとともに、滞納がないよう責任をもって支払いましょう。
イラスト:カワグチマサミ
この連載について
【連載】これで解決!マンション暮らしのトラブル
複数の世帯が生活を送る分譲マンションでは、共用スペースの使い方やペットの飼育、ゴミ捨て場における利用マナーなど、思いがけないトラブルに遭遇する可能性があります。そこで、本連載『これで解決! マンション暮らしのトラブル』では、マンションでよく起こる困った問題の解決方法をテーマごとにご紹介。トラブル発生の防止や、万が一起こってしまった際の対応マニュアルとしてもご活用ください!