区分所有法の改正はいつ? 改正の理由や背景を解説!
マンションの老朽化が進む昨今、建て替えを円滑化すべく区分所有法の改正が検討されています。
2024年1月の通常国会では見送られた改正案ですが、同年中の臨時国会などで再提出される可能性も。改正の内容や背景について詳しく解説します。
区分所有法の改正時期は?
「区分所有法」とは、建物の所有関係や敷地等の協同管理について定めた法律です。分譲マンションにおいては、所有できる住戸部分と単独所有できない共用部分の区分けなどが、同法によって定められています。
1962年に制定されてから改正が重ねられてきましたが、昨今では将来的な建物の老朽化を考慮し、建て替え要件の緩和などが検討されています。2024年1月には区分所有法改正要綱案が決定。通常国会での提出は見送られたものの、同年中の臨時国会などで再提出も見込まれています。
区分所有法の改正案
【改正案1】建物管理の円滑化
集会や財産管理、共用部分の変更などを円滑に進めるための改正案が検討されています。
・集会の決議一般の円滑化
所在等の不明な区分所有者は反対者として扱われ、決議の母数から外す。集会に参加せず、賛否も明らかにしない区分所有者も反対者として扱われ、出席者の多数決による決議を可能にする。
・区分所有建物の管理に特化した財産管理制度
所在等不明区分所有者の専有部分や、管理不全状態にある共用部分に特化した、新たな財産管理制度を設ける。
・共用部分の変更決議の円滑化
共用部分の工事等を迅速に行えるよう、変更に関わる決議の多数決要件(4分の3)を引き下げる。
そのほか、共用部分の損害賠償請求権や、区分所有建物の管理に関する所有者の責務について検討されています。
【改正案2】区分所有建物の再生の円滑化
将来的な老朽化などに備え、建て替えのハードルを下げるような改正案も提示されています。
・建て替え決議の多数決要件の緩和
現行制度の建て替え決議は、5分の4の賛成が必要。要件の厳しさから、迅速な建て替えが行えないケースもある。耐震性不足など一定の要件を満たした場合に多数決割合を引き下げるといった改正案も検討されている。
・建て替え決議がされた場合の賃借権等の消滅
建て替え工事が決議がされた場合、専有部分の賃借権等を消滅させる。
・一括売却や建物の取壊し
建て替えと同様の多数決要件で、一括売却や取壊し等を可能とする。
・一棟リノベーション工事
既存躯体を維持しつつ、専有部分を含む建物全体を更新する「一棟リノベーション工事」について、現状は区分所有者全員の同意が必要。建て替えと同等の多数決による一棟リノベーション工事を可能とする。
【改正案3】被災区分所有建物の再生の円滑化
災害によって被害を受けた区分所有建物について、建て替え等を円滑に進めるため、次のような改正も検討されています。
・建て替え・建物敷地売却決議等の多数決要件の緩和
被災した区分所有建物の建て替え決議等の多数決要件も、通常の建て替え要件と同じ5分の4となっている。より迅速に被災建物の再建を進めるため、3分の2の要件へと緩和する。
・大規模一部滅失時の決議可能期間の延長
被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法では、売却決議等の決議可能期間が1年以内とされているが、この特例措置は適用さず、決議可能期間を延長する。
区分所有法の改正理由
【理由1】集合住宅の老朽化
区分所有法改正の背景に、住宅の老朽化があります。
国土交通省「マンションを取り巻く現状について」によると、マンションストック総数は年々増加傾向にあり、2021年末時点では約685.9万戸に上ります。令和2年国勢調査による1世帯当たり平均人員2.21をかけると、約1516万人となり、国民の1割超が居住している推計です。
また、築40年を超える高経年マンションは115.6万戸と、マンションストック総数の約17%を占めます。10年後には2.2倍の249.1万戸、20年後には3.7倍の425.4万戸に急増する見込みです。
建て替えが必要なマンションが増える一方で、51戸以上の集合住宅では決議の賛成率が低い傾向にあり、合意形成が難しくなると考えられています。
周辺への危害等の防止や建物の資産価値を維持するためには、老朽化を抑制し、適性な維持管理ができる仕組みが重要です。
【理由2】住民の高齢化
マンションの高経年化だけでなく、区分所有している住民の高齢化も、改正に影響しています。
「マンションを取り巻く現状について」の「マンション居住者の高齢化の状況」を見ると、築年数の多い建物ほど、60歳以上のみ世帯の割合が高い傾向でした。
また、「管理組合の役員の年代別構成比」では、完成年次が古いマンションほど60歳代以上の役員が占める割合が高くなっています。
住民の高齢化が顕著なマンションにおいては、管理組合の役員の担い手不足や、総会の運営管理の円滑化が課題といえる状況です。
【理由3】空き家の増加
空き家や所在不明の区分所有者の増加も、区分所有法改正の背景と考えられます。
「平成30年度住宅・土地統計調査」によると、1991年以降に完成したマンションで、10%以上の空き家がある建物は全体の34%程度もありました。
また、「平成30年度マンション総合調査」の所在不明・連絡先不通の戸数割合を見ると、2000〜2009年の19.1%に対し、2010年以降は22.4%と増加。相続や投資のためマンションを取得するケースも増えているためとも考えられます。
区分所有法の改正後の影響
マンションの高経年化だけでなく、区分所有している住民の高齢化も、改正に影響しています。
「マンションを取り巻く現状について」の「マンション居住者の高齢化の状況」を見ると、築年数の多い建物ほど、60歳以上のみ世帯の割合が高くなっていました。
また、「管理組合の役員の年代別構成比」では、完成年次が古いマンションほど60歳代以上の役員が占める割合が高くなっています。
住民の高齢化が顕著なマンションにおいては、管理組合の役員の担い手不足や、総会の運営管理の円滑化が課題といえる状況です。
今後も改正の動向に注目しておきたい
老朽化に伴い、今後建て替えが必要なマンションは増えてくると見られています。一方で、決議要件の厳しさや維持管理が滞る懸念があり、区分所有法の改正が求められています。
改正案が確実に課題解決につながる保証はありませんが、現在の改正案が採択されれば、より建て替えの合意形成や工事の進行が円滑化すると期待できます。
なお、改正案は2024年の臨時国会で提出されると見られていますが、具体的な改正時期は定まっていません。