修繕費と資本的支出の違いとは? 仕訳するときの基準も紹介!
マンションの管理組合では、外壁塗装などの劣化部分の修復だけでなく、バリアフリー化などの機能を向上させるための工事費用も管理します。これらの費用について、会計の際に「修繕費」なのかそれとも「資本的支出」なのか、どちらに仕訳すれば良いのか迷う方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は管理組合の理事会役員として会計を担当している方向けに、修繕費と資本的支出の違いや仕訳するときの目安について紹介していきます。
修繕費は劣化や故障の回復に使われる費用
はじめに修繕費と資本的支出について、それぞれの定義を確認していきましょう。
修繕費とは、外壁の劣化や設備の故障など、マンションの共用部分で不具合が生じた場合の回復工事にかかる費用です。例えば、壊れたガラスの取り替えや雨漏りの修理にかかる費用などは、修繕費に該当します。
修繕費に該当する工事は、大きく2種類に分かれます。1つは「一般修繕」といい、共有部の壁や床の補修など、必要に応じてその都度行われる小規模な修繕。そしてもう1つは「大規模修繕」で、外壁塗装の塗り替えや屋上の防水工事など、大がかりな作業をともなう修繕です。これらに分類される工事は、修繕費として計上されます。
将来発生する支出は「修繕引当金」に区分することもある
「修繕引当金」という言葉に含まれる「引当金」を簡単に説明すると、将来発生する可能性のある費用に備えて、準備しておく資金のことを指します。そして修繕引当金は多くの場合、定期的に実施している修繕工事が何らかの理由で行われなかった場合に、その修繕に備えて準備していた資金。修繕引当金=修繕積立金と呼ぶこともあります。
この修繕引当金ですが、以下の4つの条件を満たす場合に限り、負債もしくは資産として計上することが可能です。
①将来の修繕に費用な費用である
②修繕の発生が当期以前の事象に起因する
③今後、その資金を使った修繕が発生する可能性が高い
④その修繕の金額を合理的に見積ることができる
とはいえ、計上するタイミングは修繕が行われた期に「修繕費」として処理するケースが多いのが現状。そのため管理組合にとっての修繕引当金はあくまでも修繕積立金だと捉え、実際に修繕が発生した際に修繕費として区分しましょう。
資本的支出は機能をグレードアップさせるための費用
前文で紹介した通り、修繕を目的とした工事の費用が修繕費と呼ばれるのに対し、機能をアップさせることを目的とした工事の費用は資本的支出と呼ばれます。
建設当初の水準にまで直すことを修繕といいますが、一方でより暮らしやすさを追求するためにバリアフリー化を進めるなど、機能を向上させる工事のことは「改修」と呼ばれます。この改修を目的として行われる工事の費用が、資本的支出に該当するといえます。例えば、非常階段を新たに取り付けたり、エントランスのドアを手動から自動ドアにしたり、また、出入口のオートロック化など、防犯機能を向上させるような工事の費用も資本的支出となります。
なお多くの場合、修繕費も資本的支出も、住民が毎月支払う「修繕積立金」でまかなわれます。
修繕費と資本的支出の違いは経費計上のタイミング
修繕費と資本的支出の大きな違いは、経費として計上できるタイミングにあります。
修繕費であれば、その年にまとめてかかった費用を一括で計上できます。法人税は、収益から費用を差し引いた部分に対して課税さるため、費用として一括で計上できる部分が多いほど課税対象額が少なくなり、税金が減るというわけです。
一方で資本的支出は、数年に分けて経費として処理していくことになります。仮に、新たに設置した非常用の階段が10年分の耐用年数があるとします。この場合、実際に工事をした年から10年間に分けて、かかった費用を経費として扱っていきます。資本的支出とすべき項目を修繕費として一括計上してしまうと、税務署から否認されるため注意が必要です。
なお管理組合では、収益事業を行っている場合、確定申告を行う必要があります。収益事業とは、例えば駐車場をマンションの住人ではなく外部の人に貸し出している場合などです。この駐車場に関して、劣化の修復を行ったのか、それとも機能を向上させるための工事を行ったのかによって、その年に経費として計上できる金額が変わってくることは頭に入れておきましょう。
仕訳の基準は「原状回復」か「価値向上」か
では、修繕費か資本的支出かどうかをどうやって仕訳すれば良いのか。一般的な基準についても見ていきましょう。
おさらいですが、
・原状回復・維持のための費用=修繕費
・資産の価値をさらに高めたり耐用年数を増加させたりする費用=資本的支出
でした。
そのうえで費用が20万円未満、または3年以内の周期で頻繁に修繕の必要があるなどのケースは、工事の内容がどんなものであろうと基本的に修繕費に該当します。
また、上記基準に当てはまらない場合であっても、費用が60万円未満もしくは前期末取得価格の10%以下であれば修繕費として計上できます。前期未取得価格とは、修繕を行った固定資産を購入したときの価格に、前年度までの資本的支出を足した価格です。
具体的には下記のような項目が「修繕費」となります。
・壁の塗り替え
・床などの部分的な張り替え
・クロスの張り替え
一方で、用途変更のために模様替えを行った場合などは「資本的支出」と判断されるケースがあります。ちなみに災害にともなう費用は、70%相当額が資本的支出、30%相当額が修繕費となります。
修繕費か、資本的支出かをよりわかりやすく判断するために以下でフローチャートも作成してみました。
不動産投資においても要チェック
物件の資産価値を保つために修繕工事は避けては通れません。修繕費か資本的支出かの判断は不動産投資を行ううえでも確認しておきたいポイントです。
現状回復・維持のための費用が「修繕費」で、資産価値を高めたり耐用年数を増やすのが「資本的支出」であることはこれまで述べてきた通りです。
外壁塗装は基本的に修繕費となりますが、特殊な加工や上質な材料を用いた場合には資本的支出となります。先に述べた壁や床の張り替えも修繕費となるケースが一般的です。キッチンや給湯器についても同様で、これまでなかった機能をつけると資本的支出と判断できます。
入居者を募るためにマンションを改修する際には、その工事が修繕費と資本的支出のどちらになるかしっかりと把握しておきましょう。
修繕費か資本的支出か迷う例
修繕費か資本的支出のいずれかで迷う場合の具体例を見てみましょう。
●蛍光灯をLEDに取り換えた場合
LEDに取り替えたからといって、照明の役割を越えた機能を獲得したとは判断できません。そのため、修繕費として処理します。
●用途変更の内装工事
事務所用から店舗用など、用途を変更するために行われる改造や改装は、原状回復以上の価値向上をともなうものとして、資本的支出とみなされます。
●防水工事
雨漏りの修理や通常の修理周期にのっとって実施される防水工事は、総合的に機能を向上させる目的ではない以上、修繕費となります。
当初の水準に戻すか機能を向上させるかで異なる
今回の内容を改めて整理すると、修繕費は建物の劣化や設備の故障などを当初の水準に戻すための費用でした。一方で資本的支出とは、バリアフリー化やオートロック化など、建物の機能を向上させるための費用。両方の違いを踏まえたうえで、適切な会計を心がけましょう。