民泊にはどんな規制がある? 法律だけじゃなく自治体ごとのルールも
「空いている物件を活用するために民泊を始めたい」と思いつつも、法や条例などによる規制をネックに感じる方は多いかもしれません。
そんな方に向けてこの記事では、民泊新法(住宅宿泊事業法)や自治体における規制などについて紹介していきます。
なぜ民泊新法による規制が必要になったのか?
従来、日本で民泊営業を行うには旅館業法の許可が必要でした。
とはいえ旅館などと同程度の構造基準を満たす必要があるなど、手続きのハードルが高く、「Airbnb(エアビーアンドビー)」の普及によって無許可で営業する民泊が増加。居住用マンションの一室など、近隣住民も生活する場所での無許可民泊によって、夜中の騒音やゴミの分別といったトラブルも多く見られるようになりました。
こういった背景から、特に住居の一室を提供する民泊について、旅館業法に代わる新たな規制やルールが必要になったのです。そこで新たに制定されのが、民泊新法。観光業の活性化をうながす目的もあり、旅館業法と比べて簡単な手続きで民泊を始められるようになりました。
民泊新法制定前は無許可営業で逮捕・書類送検されるケースも
民泊新法が制定される前は無許可営業で書類送検さたり、逮捕されたりするケースもあったようです。
例えば2015年11月、京都にある賃貸マンションにおいて無許可で観光客約350人を有料で宿泊させたとして、旅館業法違反の疑いで関係者3人が書類送検されるニュースがありました。それを受けてか、京都市は2015年12月1日付で民泊対策プロジェクトチームを設置。急増する民泊の実態調査を通じた現状把握と、民泊の事業者に対する法令遵守の促進に注力し始めました。
また大阪では、2016年4月に旅館業法の許可を得ずに旅行者を泊めたとして、女性と夫婦の計3人が旅館業法違反の疑いで書類送検。東京でも2016年7月に旅館業法の許可を取得せずに民泊を行ったとして、東京都港区の2社と、両社の役員ら男女6人が書類送検されるニュースもありました。
このように違法民泊が増加するなか、従来の旅館業法に代わる新たな規制が必要として前述した民泊新法が誕生したのです。
各自治体ごとに民泊の規制緩和も進んだ
違法民泊が増加するなかで、民泊新法が制定される以前にも、各自治体ごとに法整備は進められてきました。
例えば福岡市では、2016年11月に旅館業法施行条例を改正。旅館施設と住居との混在禁止やフロントの設置義務について、一定の要件を満たした場合はこれを適用しないなどの規制緩和を実施し、民泊の許認可が得やすくなりました。
そのほかにも国家戦略特区に指定されている北九州市では、2017年1月から特区民泊にもとづく民泊営業を許可。つまり旅館業法の許認可を得る以外の方法で、合法的に民泊サービスを提供できるようになりました。特区民泊の規制については後ほど詳しく解説しますが、民泊新法が制定される以前から、各自治体独自に民泊の規制緩和を進めていたといえます。
民泊に関わる法律ごとの規制を紹介
では改めて民泊に関する法規制には、どのようなものがあるのか。ここでは民泊新法はもちろん、従来からある「旅館業法」や一部地域でのみ適用される「特区民泊」に関する規制なども紹介していきます。
【法規制1】「民泊新法(住宅宿泊事業法)」は手続きのハードルは最も低いが180日規制がある
旅館業法の規定が厳しく、無許可の民泊が増えたため、2018年に施行された民泊新法。民泊新法においては、都道府県知事などに届出さえすれば民泊の運営が可能となります。しかし後述する旅館業法とは違って、年間営業日数180日以内という規制が新たに設けられました。そのほか施設の規模にかかわらず、不在時に住宅宿泊管理業者へ管理業務を委託する、などの義務もあります。
なお従来の旅館業法に違反した場合、6ヵ月以下の懲役もしくは3万円以下の罰金が上限でした。しかし民泊新法に違反すると、6ヵ月以下の懲役もしくは最大100万円の罰金へと、上限が大幅に引き上げられています。
ちなみに最も重い罰則が科されるのは、「民泊新法にもとづく届出に虚偽があった場合」と「都道府県知事による業務停止・事業廃止の命令を無視した場合」です。
【法規制2】「旅館業法」は営業日数の規制はないが手続きのハードルは最も高い
「民泊新法」や「特区民泊」と比べると手続きの手間がかかるため、営業許可のハードルが最も高いといわれる旅館業法。旅館業法では旅館業を「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4つに分類し、民泊を合法的に運用するためにはそのなかの「簡易宿所」の許認可を得る必要があります。
営業許可のハードルが高いとはいえ、政府は旅館業の許認可を得ていない違法民泊を少しでも減らすために、2016年4月から「簡易宿所」の許認可基準を緩和。宿泊者が10人未満の場合は、宿泊者数に応じた面積基準(3.3㎡×宿泊者数以上)を満たせば問題ないように、政令を改正しています。
さらに、各自治体に対しては玄関帳場の設置などを条例で義務付けている場合、条例を緩和するように要請しました。
旅館業法による許認可を受ければ、民泊新法のように180日間の営業日数の制限などはなくなります。さらに不在時に、管理業者へ委託する義務などもなく、本格的な民泊運営が可能となるでしょう。
【法規制3】一部の地域で利用できる「特区民泊」は最低宿泊日数の規制がある
特区民泊とは国家戦略特別区域という国際的な経済活動の拠点として国が定めた区域でのみ、許認可を受けて運営される民泊のこと。該当する自治体や都道府県知事が認定した施設に限り、旅館業法の適用を受けることなく、営業日数に規制のない民泊運営が可能となります。
特区民泊の制度を利用して民泊を行うためには「一居室の床面積が25㎡以上ある」「外国語を用いた施設の使用方法に関する案内や緊急時の情報提供が必要」などの条件があります。
また、これまで特区民泊の認定を受ける場合、6泊7日以上の宿泊客しか受入れができない現状がありました。しかしこの滞在日数の制限では、訪日外国人客の需要に対応しきれておらず、特区民泊の制度そのものが形骸化するとの懸念があり、後に滞在日数の下限が2泊3日へと緩和されました。滞在日数の規制緩和により、特区民泊はますます利用しやすくなったといえるでしょう。
とはいえこれは逆に言うと、2泊未満の宿泊者は受け入れられないということ。民泊新法と比べると営業日数の制限はないですが、宿泊日数の規制はあるわけですね。
さらに、前述した通り国家戦略特区と定められた一部の区域でしか許認可は受けられません。国家戦略特区であっても、特区民泊を許可している自治体のみでしか認められない民泊でもあります。
参考までに、特区民泊が認められている地域は以下の通りとなります。
・秋田県(仙北市)
・新潟県(新潟市)
・宮城県(仙台市)
・東京都(大田区)
・神奈川県
・千葉県(成田市・千葉市)
・愛知県
・大阪府
・京都府
・兵庫県(養父市)
・広島県
・愛媛県(今治市)
・福岡県(福岡市・北九州市)
・沖縄県
【法規制4】「イベント民泊」はイベント開催限定で利用できる
一時的に宿泊施設の不足が見込まれる年数回程度のイベント開催時限定で、自治体の要請などにより、自宅を提供する公共性の高い民泊をイベント民泊と呼びます。
イベント民泊については旅館業法の許可がなくとも、民泊を提供できます。毎年国内外から多くの観光客が集まるような集客力の高いお祭りやイベントを実施している地方自治体にとっては、宿泊需要の受け皿となるありがたい制度といえるでしょう。
イベント民泊の事例自体はそこまで多くないものの、例えば青森県五所川原市の「立佞武多」や青森県弘前市の「弘前さくらまつり」、沖縄市で開催した「広島カープ優勝パレード」に合わせてイベント民泊を実施しているケースはあります。
なお詳細については厚生労働省が「イベント民泊ガイドライン」のなかで定めているので、気になる方はそちらもぜひ確認してみましょう。
法律だけじゃない!自治体による規制も!?
民泊の規制は、ここまで紹介した法律でのみ定められているわけではありません。各自治体によっては、法律とは別に規制されているケースも。これは民泊の規制緩和によって、民泊に反対する地域住民の生活環境を守るためといった目的があるといいます。
例えば京都市では、住宅専用地域での民泊営業を「3月15日正午まで1月15日正午から」の観光閑散期に当たる60日に制限。また、管理者は何かトラブルがあったときに10分以内に駆けつけられるよう、宿泊施設の半径800m以内に駐在しなければならないという規制も設けました。
このように民泊を運営するにあたっては、国が定めた法律だけではなく、お住まいの地域の条例も確認しておきましょう。
マンション独自に規制している場合も……
マンションの管理規約のなかで、民泊を禁止している場合もあります。
事実、マンション管理センターが登録管理組合を対象に行った「民泊対応状況管理組合アンケート調査」によると、105組合のうちなんと9割もの管理組合で民泊禁止の取り決めを行っていることも明らかに。このように騒音などの迷惑行為や文化の違いなどから発生するトラブル対策のため、民泊を全面禁止としている管理組合は多いのが現状のようです。
民泊を運営するにあたっては、事前に管理規約で禁止されていないかどうかも確認しておきましょう。
法律だけでなく条例や管理規約にも則った民泊運営を!
ここまで紹介したように、マンションで民泊を運営するにあたっては「民泊新法」などの法規制だけでなく、条例や管理規約なども確認する必要があります。これらのルールを守ったうえで、健全な民泊運営を行っていきましょう。