「通信環境」のトラブルを解決したい!
マンションでよくある困った問題をテーマに、その解決方法を紹介していくこの連載。今回は「通信環境」のトラブルに目を向けたいと思います。
スマートフォンでの連絡やSNSのチェックだけでなく、テレワークやオンラインゲームでもインターネット環境が必須なこの時代。通信環境が悪いとQOL(生活の質)にもかかわるでしょう。
マンションでは、建物の構造や契約している回線によってインターネットに繋がりにくいケースがあります。
そこで今回は、マンションで生じる通信環境のトラブルとその対処法について紹介します。
通信回線のざっくりとした仕組み
そもそもインターネットへの接続はどのように行われているのでしょうか。ここでは、通信回線の仕組みを簡単に説明します。
インターネットを利用するには、スマホやパソコンといった端末を、データの伝達を行う「回線」へ接続する必要があります。回線には、物理的なケーブルである光ファイバーを利用してデータを伝達する「光回線」と、基地局の電波を無線で受信する「モバイル回線」があり、有線で接続する光回線のほうが通信速度が速く、安定する傾向にあります。
回線を提供しているのはNTTやKDDIといった「回線業者」、インターネットと回線の接続を担っているのは@niftyやOCNなどの「プロバイダー」です。
例えば、自宅でスマホを使うケースを想定してみてください。携帯キャリアの回線を利用する場合とルーターを経由してWi-Fiを利用する場合があるのではないでしょうか。
携帯キャリアの回線はモバイル回線のため、スマホは無線でインターネットに接続できます。
一方、Wi-Fiルーターを利用する場合、一般的に回線は自宅のルーターまで有線で繋がっており、ルーターからスマホまでは無線の電波(Wi-Fi)で接続します。つまり、ルーターとは自宅まで引き込まれた回線を、自宅内では無線で利用できるようにするための装置なのです。
電波が悪くなる3つの理由
では、マンションで通信環境が悪化してしまう原因にはどのようなものがあるでしょうか。主な理由を解説します。
【理由1】建物が鉄筋コンクリート造
電波は基本的に、障害物があると繋がりにくくなります。木や紙といった素材は比較的電波を通しやすいですが、コンクリートや鉄は電波を通しにくい性質があり、鉄筋コンクリート建物内では通信速度が遅くなるのです。
また、家のなかにWi-Fiルーターを設置していても、ルーターと壁や階を隔てている場合には、電波が繋がりにくくなる場合があります。
モバイル回線であっても部屋のなかのWi-Fiであっても、なるべく遮蔽物がない環境で利用するのが理想的です。
【理由2】近くに高層ビルやマンションがある
理由1と同様、建物は電波を遮断する原因になります。それだけでなく、高層ビルやマンションがあると、それだけ多くの人が電波を利用しているとも考えられます。同時にアクセスしている人が多くなると、データの送受信に遅延が発生し、「回線が混雑する」状況になるのです。
【理由3】複数戸で光回線を共有している
自宅にWi-Fiルーターがあり、モバイル回線を利用しない場合であっても、回線が混雑する可能性があります。それは、複数戸で回線のケーブルを共有している場合です。
先ほど「通信回線のざっくりとした仕組み」で、一般的に回線は自宅のルーターまで有線で繋がっていると解説しましたが、配線方式によっては通信速度が変わる可能性があります。
集合住宅における配線方式は、各部屋に光ファイバーが繋がっている「光配線方式」、各階など共用部分まで光ファイバーを引き込んで各部屋まではLANケーブルで接続する「LAN配線方式」、同じく共用部までは光ファイバーで各部屋へは電話回線用ケーブルで繋ぐ「VDSL方式」があります。後者になるにつれ、回線速度が遅くなる傾向です。
「LAN配線方式」や「VDSL方式」のように、1本の光ファイバーケーブルを共有しているケースでは、一度に多くの人がインターネットに接続しようとすると通信速度が遅くなる可能性があります。
工事不要! 通信環境を改善する3つの方法
インターネットに接続しづらい事態となった場合には、どのような改善方法があるでしょうか。工事を必要としない入居者による対処法を3つ紹介します。
【対処法1】キャリアに連絡する
モバイル回線の通信速度が悪くなった場合には、利用している携帯キャリアに連絡してみましょう。自宅の電波状況を確認したうえで、電波を改善する機器のレンタルなどを提案してもらえます。
設置できる機器の例としては、基地局から届く電波を増幅する「レピータ」や、圏外エリアに電波を引き込む「フェルトセム」があります。
各キャリアの電波改善サービスはこちらから
【対処法2】ルーターを変える
品質の高い回線を利用していても、ルーターの規格によっては性能を引き出し切れない場合もあります。
ルーターには、Wi-Fiで端末と接続する無線タイプとLANケーブルを直接差し込んで利用する有線タイプがあり、それぞれで通信速度の規格が設けられています。速度は「bps(ビーピーエス)」の単位で示され、数字が大きいほど送受信できるデータの容量が大きくなります。
なお、端末からインターネットへのデータの送信を「上り」、インターネットから端末への受信を「下り」といい、ウェブサイトの閲覧やメッセージの受信、画像や動画のダウンロードを行う「下り」の通信速度のほうが重要です。
快適に端末を利用する通信速度の目安として、ウェブサイトの閲覧は下り1Mbps~10Mbps、オンライン会議では3~10Mbps、動画の視聴には5~20Mbps、動きの多い格闘系のオンラインゲームでは70Mbps以上あるとフリーズやラグがないとされています。
オンラインゲームなどをストレスフリーに楽しみたい方は、通信速度の高い規格のルーターへと変えてみてはいかがでしょうか。
また、端末の場所や距離を検知し電波の強さを調節する「ビームフォーミング」が備わったルーターを利用するのも一つの手です。壁や家具など障害物の影響を受けにくく、家の中でWi-Fiがつながりにくい事態を防げます。
ちなみに、モバイル回線を利用して電波を掴みWi-Fiを利用する「ホームルーター」や「モバイルルーター」もあります。通信速度や安定性は光回線に繋ぐルーターには劣りますが、光回線を引き込まずに使える点はメリットです。
【対処法3】回線業者、プロバイダーを変える
回線を所有している「回線業者」ならびに、インターネットと回線を繋ぐ「プロバイダー」によっても通信速度は変わります。
業者によっては、お使いの携帯電話や電気やガスとのセット契約で割引になる可能性もあるのでお得です。
ただし、回線業者やプロバイダーを変更できるのは、「光配線方式」で部屋まで光回線が引き込まれている場合かつ、マンションで業者が指定されていない場合に限ります。
光ケーブルを複数戸で共有している「LAN配線方式」や「VDSL方式」の場合、部屋まで光回線を引き込むことができれば通信速度は上がりますが、工事が必要なため管理会社に許可をもらう必要がある点に注意しましょう。
以上、今回は通信環境に関するトラブルと、その対処法を紹介しました。
電波が悪くなる原因としては、障害物や複数人でのアクセスなどが挙げられます。自宅での通信環境にストレスがある場合には、なるべく遮蔽物のないところで利用すると快適になるかもしれません。
通信速度の高いルーターに変えたり、回線業者やプロバイダーを変更したりするのも一つの方法です。光回線を自宅まで引き込めない場合には、ホームルーターやモバイルルーターも検討してみてはいかがでしょうか。
イラスト:カワグチマサミ
この連載について
【連載】これで解決!マンション暮らしのトラブル
複数の世帯が生活を送る分譲マンションでは、共用スペースの使い方やペットの飼育、ゴミ捨て場における利用マナーなど、思いがけないトラブルに遭遇する可能性があります。そこで、本連載『これで解決! マンション暮らしのトラブル』では、マンションでよく起こる困った問題の解決方法をテーマごとにご紹介。トラブル発生の防止や、万が一起こってしまった際の対応マニュアルとしてもご活用ください!