マンションの耐震等級とは? 等級の目安やメリットを解説
日本で生活するうえで、無視できない災害「地震」。大震災のニュース映像などで建物が倒壊する姿が印象に残り、普段から突然の災害を不安に感じている人も多くいるでしょう。
そのように考えると、自分が暮らす家の耐震性能がどれぐらいあるのかは、当然知っておきたいところです。
今回は、住宅の耐震性能を示す「耐震等級」という指標について解説していきます。
マンションの耐震等級とは
耐震等級とは、建物がどの程度耐震性を備えているかを示す指標です。この等級は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく「住宅性能表示制度」によって定められており、消費者が住宅の性能を判断するために利用されます。
住宅性能表示制度では、国土交通省の登録を受けた第三者評価機関が、建物の性能を審査し、その結果を「住宅性能評価書」にまとめます。消費者はこの書類を見れば、専門知識がなくても住宅の性能の度合いがわかるのです。
住宅性能評価書は「構造の安定に関すること」「火災時の安全に関すること」などからなる全10分野34項目で住宅の評価をしますが、そのなかの「構造の安定に関すること」に耐震等級が含まれます。
ちなみに新築の建物の場合、住宅性能評価書の評価項目は中古の場合よりも2つ少ない32項目となります。
耐震等級の3つのランク
耐震等級は住宅の耐震性能に応じて3つのランクに分類されており、1〜3の数字が大きくなるにつれて性能が向上します。
それぞれどのような基準となっているかみていきましょう。
耐震等級1
耐震等級1は「きわめてまれに発生する大地震による力に対して倒壊、崩壊しない程度」の性能を表します。これは、建築基準法が定める最低限の基準です。同法が改正された1981年以降、この基準に満たない住宅は建設できなくなりました。そのため、改正後に立てられた住宅はすべて少なくとも耐震等級1を満たしています。
建築基準法の改正に合わせて1981年以降の耐震基準を「新耐震基準」、それ以前は「旧耐震基準」に分類されます。
一方で、住宅性能表示制度は新耐震基準に移行した後に作られた制度であるため、制度改正前の旧耐震基準時代に建設された建物には、耐震等級における最低ランクの耐震等級1に満たない物件も少なくありません。
耐震等級2
耐震等級1は必要最低限の耐震性能でしたが、耐震等級2はそれ以上の地震に対する強さを誇ります。
耐震性は「地震力」を基準として決められます。地震力とは、地震によって建物に作用する力です。地震の揺れには、下から突き上げる縦方向の揺れと、横方向に負荷がかかる揺れの2種類があります。縦の揺れよりも横の揺れの方が力が強いとされているため、耐震性能で基準となるのは横方向にかかる力です。
耐震等級2は耐震等級1の1.25倍の地震力に耐えられるレベルとされており、学校や病院などの公共施設と同等の耐震性能を備えています。
「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」の定めに基づく「長期優良住宅」に認定されるためには、耐震等級2以上の耐震性能を持つことが条件となっています。
耐震等級3
耐震等級における最高位の評価が耐震等級3です。耐震等級1の1.5倍の耐震性能を持つ物件が、耐震等級3に認定されます。これは消防署や警察署など、有事の際に救助活動の要となる施設と同等の耐震性能であり、耐震等級3に認定されていれば非常に高性能な耐震強度を持つ証明となるでしょう。
耐震等級3と混同されやすい表現に「耐震等級3相当」があります。これは「耐震等級の正式な認定を受けてはいないが、耐震等級3と同等の性能を持つ」といった意味合いです。しかし、耐震等級3相当を謳っていても、実際に専門機関による評価を受けた場合に耐震等級3を獲得できるかどうかはわかりません。
そのため、最高の耐震性能を持った物件を探す際には「耐震等級3相当」ではなく、「耐震等級3」を選ぶ必要があるでしょう。
マンションの耐震等級を決める要素
等級の認定を受ける時の評価ポイントは、耐力壁が建物にどれぐらい使われているかや、床・基礎・接合部の強度などが主に見られます。
耐力壁とは、地震や風といった横方向からの力に耐える性能を持つ壁です。住宅の耐震性能は、耐力壁が多く使われているほど高くなるとされています。また、耐力壁の配置も地震力に対する性能を大きく左右する要素です。
耐震等級と耐震基準との違い
耐震等級と同じく、地震に対する建物の性能を示す基準に「耐震基準」があります。
両者の違いは、どこまでを地震から保護する対象として捉えるかです。耐震基準は、地震が起きた時に人命を守れるかどうかを耐震性を判断する基準として考えますが、耐震等級は人命だけでなく、建物そのものに損壊が発生しないかまでも判断基準に含みます。
耐震・制震・免震との違い
建物の耐震性を高める構造についても押さえておきましょう。指標には「耐震構造」「制震構造」「免震構造」の3つがあります。
「耐震構造」は地震の揺れに耐えられるように、建物を強化させる構造です。建物自体を頑丈に作ったり補強材を入れたりして、地震の揺れに耐えられる住宅にします。
「制震構造」は、建物の内部に制震装置を配置し、揺れを吸収して小さくする構造です。制震装置には主に「ダンパー」と呼ばれるバネやゴムなどを用いて、衝撃や振動の伝達を弱めたり、静止させたりさせます。
建物に伝わる揺れを軽減するのが「免震構造」です。免震構造では、ゴムやダンパーなどの揺れを吸収する装置の上に建物を建てて、揺れを伝達しにくくします。
これらの構造は、建物の耐震性能を高めるうえで効果的ですが、耐震等級とは別の指標となる点には注意が必要です。免震構造だからといって、必ず耐震等級3の評価を受けられるとは限らないので注意しましょう。
マンションの耐震等級の調べ方
マンションの耐震等級を調べたい場合は、住宅性能評価書をみれば確認が可能です。
住宅性能評価書には、新築と中古の2種類があります。新築マンションの場合は、物件の販売元であるデベロッパーに耐震等級を確認したい旨を伝えれば閲覧可能です。
中古物件の場合は、対象となるマンションの管理組合に問い合わせて確認させてもらいましょう。
ただし、いずれの場合も対象となるマンションが住宅性能評価書を取得している必要があります。
マンションの一般的な耐震等級
2013年度の国土交通省の住宅性能表示制度利用状況では、耐震等級評価を受けたマンションの等級の割合は耐震等級1が全体の87.1%、耐震等級2が8.5%、耐震等級3が1.2%となっています。
一方で、一戸建住宅を対象とした調査では、耐震等級1は2.2%、耐震等級2が6.8%、耐震等級3は90.7%となっており、マンションと戸建てで状況に大きな隔たりがあるとわかります。
耐震等級1のマンションが多い理由
なぜマンションの場合、これほどまでに耐震等級1の割合が多くなるのでしょうか。その疑問の答えとなる、2つの理由をみていきましょう。
建築コストがかかる
耐震等級2や3などの高い耐震性能を備えたマンションを建設するためには、等級の低い建物を建てる時よりも手の込んだ作業が発生し、施工にかかる期間が長くなるので、高額な工事費用が必要です。
さらに、等級を取得するためには検査の費用もかかります。
これらのコストが発生するので、デベロッパーは販売価格を高くせざるを得なくなり、結果的に耐震性能の高さが証明できても、売りづらい物件となってしまうのです。
住居の環境が悪くなる
耐震性能を高めるためには、柱や梁を大きくしたり、耐力壁の数を増やしたりといった方法が有効です。しかし、柱や壁のスペースが増えると、その分住戸内の居住者が利用できる空間が狭くなるという弊害が出てきます。
間取りが悪くなると、居住を検討している人からすれば物件としての魅力が低下するため、この場合も結果的に売れにくい物件となってしまうのです。
マンションの耐震等級を高めるメリット
販売価格の高騰や、住戸の使い勝手の低下といったマイナス要素を紹介しましたが、等級が高い物件には、当然それ相応の魅力もあります。
ここからは耐震等級を高める3つのメリットについて解説します。
倒壊リスクが低くなる
前述の通り、耐震等級が上がるほど性能は高くなります。
耐震等級1は「きわめてまれに発生する大地震による力に対して倒壊、崩壊しない程度」と説明しましたが、災害の規模によってはその限りではありません。
国土交通省が実施した調査では、2016年に発生した熊本地震で耐震等級1の住宅7棟が倒壊、12棟が大破したという結果が出ています。倒壊も大破もしなかった耐震等級1の住宅でも、33.6%が何かしらの軽微、もしくは小規模か中規模の被害を受けました。
一方、耐震等級3の住宅は、倒壊・大破した住宅は一軒もなく、87.5%の住宅が無被害で済んでいます。被害があった12.5%についても、被害内用は軽微、もしくは小規模な破損で済んでいます。この調査結果から、耐震等級1と3では明確な違いがあるとわかるでしょう。
フラット35の低金利が適用される
耐震等級2または3の評価を受けた建物は、フラット35Sの適用が可能です。
受けられる金利優遇は等級によって期間に差があり、耐震等級2なら5年間、耐震等級3なら10年間にわたって金利を0.25%下げられます。
地震保険の割引制度を受けられる
地震保険の割引を受けられるのも耐震等級の評価を受けるメリットです。割引される額は、耐震等級のグレードに応じて安くなるため、等級が高いマンションほど、お得に加入できるといえるでしょう。
具体的には、耐震等級2で30%、耐震等級3の住宅であれば50%の割引が受けられます。耐震等級1でも割引は受けられますが、値引きされるのは10%だけ。他の等級との差は大きいといえるでしょう。
気になったらまずは評価を受けてみよう
今回は耐震等級について解説しました。
いつ起きるかわからない災害に備えるためにも、自分の住むマンションがどれぐらい地震に強い性能を持っているかを把握しておくのは大切です。まだ住宅性能評価書を取得していない管理組合で、「マンションの耐震性能がわからない」というのであれば、一度評価を受けてみてはいかがでしょう。
ただし、国土交通省が指定する住宅性能評価機関による検査・申請は、20万円~30万円の費用がかかります。高額な費用となるため、事前に管理組合での話し合いからスタートさせましょう。