マンションの防火管理者とは? 主な役割や要件、選任状況を解説
たくさんの人が同じ建物で暮らすマンションは、自分が気をつけていても、ほかの住民の過失で火災などの被害に遭う可能性があります。
火災が起きれば、戸建て以上に被害が甚大になる可能性があるマンションでは、一定の条件を超える建物の場合、防火業務の責任者「防火管理者」の選任が義務づけられています。
この記事では防火管理者の役割や条件、効果的な選任方法について解説していきます。
防火管理者は消防計画の責任者
防火管理者は、建物における防火管理業務の責任者です。建物内で火災などによる被害を発生させないための業務を担当します。
消防法では、建物の用途や収容人員の数が条件に合致する建物に対して、防災管理者の選任を義務として定めています。マンションの場合、収容人員が50人を超える場合は防火管理者が必要です。
建物の所有者や管理者である「管理権原者」は、防火管理者を選任しない場合、6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金を課せられる可能性があるので、必ず専任しましょう。
なお、収容人数は戸数にかかわらず、マンションに住んでいる人数を差します。
マンション防火管理者の要件
防火管理者が必要だからといって、誰を管理者に選んでもよいとはなりません。防火管理者に選任する人物は一定の要件を満たす必要があります。
1つ目の要件は、管理的、もしくは監督的立場の人物であることです。防火管理業務が適切になされるためには、管理力が求められるといえるでしょう。
また、2つ目の要件として、業務を遂行するための防災管理についての知識と技能を有する人物でなければなりません。ここでいう技能と知識は、「防火管理講習」の課程を修了すれば習得可能です。講習への申込みは各消防署所で行えます。
防火管理者は「甲種」と「乙種」の2種に区分けされる点も覚えておきましょう。この2つの違いは管理の対象となる建物の面積です。
防火管理者が必要な収容人員50人以上のマンションで、延べ面積が500㎡以上であれば、甲種の防火管理者を選任しなければなりません。500㎡未満であれば、甲種と乙種どちらの選任も可能です。
新しく甲種の防火管理者になるためには、「甲種防火管理新規講習」を受講しなければなりません。
マンション防火管理者の仕事
ここで防火管理者が具体的にどのような仕事をするかをみていきましょう。
まずは消防計画の作成です。災害が発生した際の消火活動にあたる人、避難の誘導をする人、消防署に通報する人など、具体的な役割を事前に決めておきます。
ほかにも、避難経路の維持や消防設備の点検など、災害時にスムーズな対応ができるための管理業務全般も防火管理者の役割です。
また、防火管理者の選任が必要な建物では、消防訓練の実施も義務となっています。通常のマンションであれば年に1回の防災訓練、建物内に飲食店が出店しているマンションでは、消火・避難訓練を年間2回以上しなければなりません。
この時の消防訓練の実施と消防署への届け出も、防災管理者の担当業務です。
マンション防火管理者の選任状況
ここまで義務として解説してきた防災管理者の選任ですが、現実として未選任のマンションは少なくありません。
消防庁が公表した、令和4年度の「全国の防火管理実施状況」によると、「共同住宅等」の防火管理者の選任率は80.1%という結果になりました。
さらに消防計画を作成している建物の割合は74.4%となっており、約4棟に1棟が計画を立てていないといえる状況です。
このような結果となる理由は、防火管理者は資格の取得が必須だという点と、住民の高齢化の進行による成り手不足が考えられます。
マンション防火管理者の適任者が見つからないときの対処法
選任の義務を果たせていないマンションが多く出てしまうほど、防火管理者の選任ハードルは高いもの。しかし、選任しないままほったらかしにするのも問題です。
ここからは、適任者が見つからない場合の対処方法をみていきましょう。
【対処法1】選任に関する制度を制定する
1つ目は、防火管理者の選任を制度として整備する方法です。
例えば、理事長や会計などと同じく、防火管理者も理事会役員の役職として決めておけば、理事会のメンバーが交代しても、毎回新しい防火管理者が選出されるため、不在になりません。
また、多くのマンションで理事会のメンバーを決めるのに採用されているのと同じように、防火管理者も輪番制で交代させていく方法も考えられます。
防火管理者は管理業務に時間を取られてしまうので、選任された人が不平不満を感じる場合も多くあるでしょう。そのような不公平感を解消するために、防火管理者に対して報酬を支払う管理組合もあるようです。
選任のための制度を制定する場合は、選ばれた人から後になってクレームを出されないように、前もって管理組合全体で防火管理者がどのような役割を持ち、どんな活動をするのかを共有しておきましょう。
【対処法2】外部委託する
費用がかかってしまいますが、防火管理者を外部に委託するという方法もあります。
管理会社のなかには、そのようなサービスを展開している企業もあるので、どうしても管理組合内で適任者がいない状況にあるならば、検討するのも1つの手です。
経験豊富なプロに任せられるため、現実的且つ効果的な計画が立てられる点もメリットとなります。
防火管理者の選任でマンションの安全性を高めよう
マンションの防火管理者は、万が一の災害発生に備えて、選任しておきたい役割です。
資格が必要となるなど要件が厳しいため、選任で苦労するマンションも多いでしょう。そのような場合は、選任制度の制定や外部委託などの方法を管理組合で検討し、義務を果たせるマンションを目指してください。