
外壁のひび割れ、その原因は? 放置すると鉄筋が錆びる事態にも

公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅相談統計年報2024」によると、「共同住宅の不具合事象」のうち「ひび割れ」についての相談は新築で21.2%(1位)、既存物件で12.4%(2位)でした。どうやらマンションの不具合では、外壁や基礎などのひび割れが多くの割合を占めているようです。
ひび割れは何が原因で発生し、建物にどのような悪影響を及ぼすのか? マンションの資産価値を維持するためにも、全貌を把握しておきましょう。
外壁のひび割れには複数の原因がある
コンクリートの膨張・収縮がひび割れの原因に!

コンクリートは水を吸うと膨張し、水分が揮発すると収縮します。さらに、外気温が氷点下以下になると水分が凍結し、膨張してしまうケースもあるようです。そのほか、太陽光で暖められた時など、温度変化が発生したときも、コンクリートは膨張・収縮します。
マンションではコンクリートが鉄筋や鉄骨によって固定されています。こうした建材によって、膨張・収縮しようとする動きが遮られ、ひび割れが発生する可能性があります。
化学反応による経年劣化

コンクリートの主原料であるセメントと水は、混ぜ合わせると化学反応を起こして固まります。このときに生成される物質の1つが水酸化カルシウムです。水酸化カルシウムは強いアルカリ性を示す物質で、内部を通る鉄筋を腐食から守ります。
しかし長い年月をかけると、この水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素と結合し、アルカリ性が弱まり、鉄筋の腐食へとつながる恐れがあります。鉄筋は腐食すると膨張するため、ひび割れの原因になる場合があります。
雨水の浸水がひび割れを招く
屋上のシート防水や、窓のサッシまわりのすき間を埋めるシーリングが劣化すると、雨漏りが発生する場合があります。雨水が建物の内部に浸透すると、鉄筋や鉄骨などが腐食・膨張し、コンクリートにひびが入る恐れがあります。
なお、コンクリートに入ったひびから雨水が浸入することで、鉄筋や鉄骨が腐食する原因になることもあります。
設計や施工によって入るひびもある
ひび割れはコンクリートの流し込みや型枠の脱着作業など、施工時の不備が原因となって発生する場合があります。設計によっては、建物の構造的に負荷が集中する部分にひび割れが起きる場合もあるようです。
そのほか、セメントの水分量が多すぎて蒸発した際に体積が減る、化学反応によって水分が消費されて容積が減る、施工作業中の熱で膨張したコンクリートが冷えて収縮するなど……。また、なんらかコンクリートの性質が原因となって、施工後にひびが入る場合もあります。
時間経過による乾燥と収縮
コンクリートに含まれる水分は、時間の経過によって徐々に揮発していきます。乾燥が進むにつれてコンクリートの体積が減り、ひび割れの原因になる可能性があります。
外壁がひび割れると何が起きる?
【その1】ひび割れで資産価値が下がる

マンションの外壁にひび割れがあると、景観が悪くなるだけでなく、建物の老朽化を疑われる恐れがあります。
ひび割れが招く「負のイメージ」によって入居者や入居希望者が減れば、マンションの資産価値にも影響するので、早めに修繕するべきです。
【その2】コンクリートが爆発する!?
コンクリートに雨水などが浸透すると、内部の鉄筋が錆びて膨張します。さらに錆が広がると、コンクリートがひび割れるだけでは済まず、周囲のコンクリートを剥落させる危険性も。
鉄筋の錆が原因でコンクリートが剥離する現象は、「爆裂」と呼ばれています。ひび割れを通って浸透した雨水が、錆を広げる場合もあるので、早めの対処が重要です。
【その3】耐震性が低下する恐れも……
ひび割れにはさまざまな原因がありますが、内部の鉄筋などが無事であれば、ただちに建物の構造に影響を及ぼすとは限りません。ただし、鉄筋や鉄骨が錆びるなど、強度を損なうような破損が見られた場合、耐震性が低下している恐れがあります。
首都直下地震や南海トラフ地震など、大規模な地震が今後30年以内に起きる可能性は70%といわれています。災害発生時に住民の安全を守るためには、ひび割れを見つけた際に、耐震性への影響を確認しておく必要があるでしょう。
補修が必要なひび割れとその探し方

【POINT1】放置NGなひび割れの幅は「0.3mm以上」
一般的に幅が0.3mm、深さ4mm以下のひびは「ヘアクラック」と呼ばれ、建物の構造に大きな影響はないとされています。ヘアクラックは軽微なものなら、塗装などで補修が可能です。ひびの幅を測る際には、0.3mmのシャープペンシルの芯を比較対象にすると良いでしょう。
ただし、0.3mm程度の幅があるひび割れから、内部に雨水などが浸透するという調査データもあります。外壁の場合はたとえ細かいひびであっても、鉄筋の腐食などを招く恐れがあるといえるでしょう。
【POINT2】窓や扉の付近はひび割れが起きやすい

地震で建物が揺れるなどして、窓や扉などの開口部の周辺に力が加わると、「開口クラック」と呼ばれるひびが入ることがあります。
開口クラックは開口部の端から斜めに延びるのが特徴で、雨水などの浸入経路となる場合があります。
【POINT3】「白い汚れ」はひび割れが原因かも

コンクリートに水が浸透すると、コンクリートに含まれる水酸化カルシウムが水に溶けて表面に移動します。空気に触れた水酸化カルシウムは二酸化炭素と化学反応を起こして、コンクリートの表面に炭酸カルシウムの白い塊を生成します。この、コンクリート内部の物質が固体化して現れる現象を「エフロレッセンス(白華現象)」と呼びます。
エフロレッセンス自体は、建物の構造に悪影響を与える現象ではありません。しかし、エフロレッセンスが見られる場合は、壁面のひび割れがコンクリートへの水の浸透を原因として発生している可能性が考えられます。エフロレッセンスを見つけた場合は、コンクリートの劣化を確認したほうが良いでしょう。
外壁のひび割れを補修する3つの主な工法とは
【工法1】水などの浸透を防ぐ「表面保護工法」
マンション外壁におけるひび割れの補修には、いくつかの工法があります。このうち「表面保護工法」は、主に幅が0.2mm以下の微細なひび割れの補修に利用されます。
表面保護工法は、被覆材料をコンクリートの表面に塗布する「表面被覆工法」と、劣化を抑制する材料をコンクリートに含ませる「表面含浸工法」の2種類にわかれます。「表面被覆工法」は遮断効果や耐用年数に優れており、「表面含浸工法」には塗布面の外観を変えないというメリットがあります。
【工法2】ひびを注入剤で埋める「注入工法」
ひび割れの幅が0.2mm〜1mmに及ぶ場合には、「注入工法」と呼ばれる方法が用いられるケースが多いようです。
注入工法ではひび割れのうえに注入用パイプを装着し、エポキシ樹脂などの有機系、またはセメント系などの注入材をひびに注入。雨水などの浸入を防ぎます。
【工法3】幅の広いひびに利用される「充填工法」
幅が0.5mm以上あるような大きなひび割れには、「充填工法」による補修が行われます。ひび割れに沿って、コンクリートをU字型にカット。その部分に補修剤を充填します。
なお、注入工法や充填工法では、ひび割れの内部が乾燥しているのか湿潤しているのかによって、注入する材料が変わります。
ひび割れを見つけたら早めに業者に相談を
外壁のひび割れは経年劣化や雨水の浸水、施工時の不備など、さまざまな原因で起こります。放置するとマンションの景観を悪化させるだけでなく、建物の構造にダメージを与える要因にもなるので、そのまま放置するとデメリットしかありません。
ひび割れを見つけた際には、業者に連絡して補修するなど、早急に対応しましょう。