機械式駐車場の解体が進む理由は?平面化工事の種類も解説
機械式駐車場は限られたスペースで収容台数が増やせるため、マンションで多く見られる設備です。しかし近年は機械式駐車場を解体し、平面化するケースが増えています。なぜ機械式駐車場から平面化する傾向にあるのでしょうか。
今回は機械式駐車場の解体が進む理由を探り、平面化工事のメリット・デメリットや平面化する際の注意点について詳しく見ていきましょう。
機械式駐車場の解体が進む理由
新築マンションの分譲がはじまった時点では、入居者は働き盛りの世帯が多いもの。時が経ち、20年もすると入居者も徐々に高齢化し、車を手放す方が増えていきます。駅近物件など公共交通機関へのアクセスが便利なマンションだと、その傾向は顕著になるでしょう。新たに若者世帯が入居したとしても、最近ではカーシェアリングの普及などで車を持たない人も多いようです。
このような背景から機械式駐車場の利用率が徐々に下がり、維持管理費が大きな負担になることが問題となっています。利用率回復が見込めないとなれば、機械式駐車場の解体を検討するマンションが増えてくるのです。
マンションみらい価値研究所の調査によると、分譲時に機械式駐車場を設置していた管理組合は全体の約半数あり、そのうち7.5%はすでに平面化工事を行っています。機械式駐車場の解体は2014年から急増しており、今後も駐車場の利用率は減少、平面化工事はますます増加すると予想されます。
平面化工事の種類
埋め戻し
平面化工事には、埋め戻しという方法があります。文字通り、機械式駐車場の撤去後のピット(くぼみ)に砕石などを入れて埋め戻し、表面をアスファルトなどで仕上げる工法です。
メリットは工事費用が安価であること。当然ながら平面化工事にも費用が発生するため、少しでもコストダウンしたい場合に適しているでしょう。
一方デメリットは、一度埋め戻しをすると機械式駐車場の再設置はできなくなる点です。さらに機械式駐車場があった頃のピットは強度が保たれていたものの、撤去後は支えるものがなくなりピットの強度は下がってしまいます。そこに大量の砕石を入れることで、ピットのコンクリートが耐えられなくなり破損する可能性もあるのです。地盤が弱い土地や、建物内にピットがある場合は不向きな工法と言えるでしょう。
鋼製平面化
2つ目の平面化工事は、鋼製平面化です。機械式駐車場を撤去したピットに鉄骨の支柱や梁を設置し、床板を設置します。
メリットは駐車場の需要が増えた場合、再度機械式駐車場を設置できること。車1台分のスペースにかかる総重量は約1トンと負担が少なく、地盤が弱い場所や建物内などどこでも施工ができます。
デメリットは埋め戻し工事よりも材料費や工数が増えるため、施工費用が割高になりやすい点です。また床板に塗装をしたり、地下の排水施設を点検したりと、平面化以降も定期的なメンテナンスは欠かせません。
コンクリートスラブ
3つ目はコンクリートスラブ。機械式駐車場撤去後にできたピットに、コンクリート製の床を設置する方法です。型枠と型枠を支える支柱を設置し、スラブ配筋をしてからコンクリートを打設します。平面化工事に用いられるのはコンクリートスラブの中でも構造スラブと言い、マンションの床などにも使われる方法です。
非常に強固で短期的なメンテナンスは不要と言われています。コンクリートの歪みや変形が少ないのもメリットです。
ただしコンクリートに強度を持たせるために、数週間は養生期間が必要となり、工期が長くなってしまいます。またコンクリートが劣化することでひび割れが発生し、その度に補修が必要となるのもデメリットでしょう。
機械式駐車場を平面化するときの注意点
1.修繕計画を考慮して平面化を決める
平面化工事を行うことで住民の管理費負担の減少は見込めますが、管理状況が大きく変わるため、修繕計画を考慮しましょう。平面化を検討した段階で業者に説明をしてもらい、平面化工事による修繕費がいくらになるのか概算をしておきます。この修繕費と、機械式駐車場を維持した場合のコストを比較して決定するといいでしょう。
また埋め戻し工事を行った場合、これまであった排水装置を撤去するため、雨水の貯水能力が低くなってしまいます。敷地内の雨水処理方法は自治体ごとに定められており、排水装置を撤去したままにしておくことはできません。浸透桝を設置するなどの対処を行ったあと、自治体に変更届を出す必要があります。
2.自治体の附置義務条例を確認する
駐車場の収容台数は、自治体によって設定されている場合があります。これを附置義務条例というのですが、都心部などで駐車場が不足した問題があったため制定されました。一定規模を超えるマンションやエリアによっては附置義務が課されているため、収容台数が減ると条例違反になる恐れがあります。必ず附置義務条例があるかどうか確認しましょう。
ただし、車の所有率が減少している現状から、附置義務条例が見直されるケースもあるようです。機械式駐車場に変更しても条例違反にならないか、自治体に確認することをおすすめします。
3.マンション住民の合意が必要
機械式駐車場を平面化することは「共用部分の変更」に該当し、総会の特別決議で全区分所有者の3/4以上の賛成をもって可決されなければなりません。平面化工事が行われるまで4年もかかったマンションもあることから、一筋縄ではいかないことも考えられます。
着工までの時間を短縮するには住民のスムーズな合意形成が必要となるため、事前準備を怠らないようにしましょう。例えば理事会の検討経過をまとめ、代替案を選択した場合の試算結果を共有するなど、住民に納得してもらうための情報が必要です。さらにいきなり総会を開くと一部住民の反発を招く可能性があるため、事前にアンケートや説明会を開いて意向を確認するといいでしょう。
メリット・デメリットを考えて平面化工事を検討しよう
マンションの住民は今後高齢化が進み、車を手放す方が増えてくると予想されます。若者世帯が入居したとしても、カーシェアリングの普及などで駐車場を必要としないケースが増えてくるでしょう。このような状況から機械式駐車場から平面駐車場へと転換するマンションが増えており、この傾向は今後も続くと見られています。
平面化工事には「埋め戻し」「鋼製平面化」「コンクリートスラブ」の3種類があり、それぞれメリット・デメリットが存在します。マンションごとに適した工法は異なるため、丁寧な説明を受けた上で検討しましょう。また機械式駐車場を平面化するには、特別決議が必須です。スムーズに合意形成ができないと施工までに数年かかることもあるため、タイムリーに情報共有を行ったり、住民の意向を確認したりしましょう。