連載:マンション管理最前線

マンション管理組合も要チェックの『重要事項調査報告書』とは?

2023.08.18
マンション管理組合も要チェックの『重要事項調査報告書』とは?

マンションの管理体制などの情報を、中古物件の購入検討者へ提供する資料として「管理に係る重要事項調査報告書(以下、重要事項調査報告書)」があります。建物の修繕履歴や大規模修繕計画をはじめ、管理費・修繕積立金の徴収状況、管理に関するルールなどさまざまな項目の記載が可能であり、いわば「マンションの説明書」ともいえる資料です。

この資料が適切に記載されていないと、新たな入居者を見込みづらくなったり、場合によっては入居者とのトラブルに発展したりする可能性が考えられます。そこで今回は、重要事項調査報告書でチェックすべきポイントについて、同資料に詳しいマンション管理士の澤田亮さんにお伺いしました。

国土交通省の指針などを参照して準備する資料

澤田亮さんは「おとうふマンション管理士事務所」の代表として、新潟県を地盤に高経年の自主管理マンションなどのコンサルティング業務を行っています。現在、澤田さんは新たな事業として重要事項調査報告書の作成代行業務を始めており、同報告書に関する知識が豊富です。

お話しを伺ったのはおとうふマンション管理士事務所代表の澤田亮さん

澤田さんにはまず、重要事項調査報告書がそもそもどのような理由で交付される資料なのか、お聞きしました。

「大前提として、マンションの管理組合が重要事項調査報告書を中古物件の購入検討者に必ず提出しなければならない法律はありません。しかし不動産の売買契約において、売買の仲介事業者は宅建業法という法律にもとづき、購入検討者に対し契約に関する重要な事項の説明を行わなければなりません。重要事項説明書の作成のためにはマンションの情報を網羅できる資料が必要であり、そのために重要事項調査報告書が必要となるケースが多いわけです」

このように明確な根拠法がない資料ではあるものの、国は作成にあたって、一定の指針を示しています。それは国土交通省が公表している「マンション標準管理委託契約書」。これは管理組合と管理会社の間で締結する管理委託契約について、標準的な契約指針として作成された契約書の雛形です。標準管理委託契約書のなかには、重要事項調査報告書において記載可能な情報が記載されています。

そのほか、民間の管理事業者で構成される「一般社団法人マンション管理業協会」も、重要事項調査報告書作成に関するガイドラインを公表しています。同ガイドラインで記載項目とされているのは、主に次のとおり。

・マンションの名称、所在地、総戸数、販売対象住戸などの基本情報

・管理計画認定の有無や認定日など

・管理組合役員数などの管理体制

・集会の開催時期や頻度

・共用部分関係として、建築年次や規約をはじめとした定めなど

・管理費や修繕積立金のほか、駐車場使用料など管理組合員が納付すべき費用。また、滞納があるときはその金額

・収支及び予算の状況

・専有部分の使用規制関係

・大規模修繕計画や修繕の実施状況

・石綿(アスベスト)使用調査結果の記録の有無とその内容

・耐震診断の記録の有無とその内容

管理費の値上げなど将来の見通しも記載可能

重要事項調査報告書の発行主体となるのは管理組合ですが、一般的には管理会社が管理委託契約にもとづいて資料を作成します。

作成された資料が中古物件の購入検討者に渡るタイミングはさまざまで、澤田さんが最も多いと考えているのが、次の2つのパターンです。

①買主と売主の売買契約の合意形成がほとんど終わり、契約書を作成する際の参考資料として、売買の仲介会社が管理会社に請求したとき

②中古物件の買主を募集している段階で、購入検討者の求めに応じて仲介会社が管理会社に請求したとき

記載事項に不備があるマンションは仲介業者にとっては考えもの

「重要事項調査報告書の記載事項に不備があるマンションは、契約時の責任の一旦を担う立場の不動産会社からすると売買の仲介をしにくい物件といえるでしょう。そのため中古市場での流通性が低くなり、新たな区分所有者や入居者を見込みづらくなってしまうのです。加えて、仮に売買の成約に至ったとしても、購入者の期待とマンション管理の実態に齟齬が見られ、後からトラブルに発展してしまう可能性もあります」

それでは、重要事項調査報告書を適切に作成するために何をすべきなのでしょうか。澤田さんは「基本的に国土交通省の指針やマンション管理業協会のガイドラインに従って作成すれば問題ない」としながらも、次のように述べます。

「重要事項調査報告書は指針・ガイドライン通りに示された記載項目のほかに、購入検討者に伝えたい事項を、コメントのかたちで自由に記述できます。管理費・修繕積立金の値上げ計画であったり、老朽化が著しく将来的に建物の解体を議論していたりするなど、マンションの存続に関わるような重要な検討事項や総会決議事項は、記載しておいたほうがいいでしょう。これにより、マンションと新たな区分所有者・入居者とのミスマッチを防げます」

管理会社や区分所有者と掲載内容を調整したうえで作成

必要に応じてさまざまな記載事項を設けられる重要事項調査報告書ですが、そのために注意点もあるといいます。

「大多数のマンションは重要事項調査報告書の作成を管理会社へ任せきりにしていると思われ、その内容をよく確認していない場合が多いでしょう。しかし報告書のなかには、管理会社の一存で記載すべきでない内容も含まれている場合があり、管理組合のチェックは欠かせません」

澤田さんが記載事例として挙げたのが、マンションにおける近隣トラブル。例えばマンション内に、隣室への悪質なクレーマー行為を頻繁に行っている住民がいたとしましょう。その事実を重要事項調査報告書に載せることは、購入検討者への利益になるかもしれませんが、同時にマンションの評判に悪影響を与えてしまう可能性もあります。個人情報にも関わる内容であり、澤田さんは「管理会社が管理組合へ相談したうえで記載するかどうか検討すべき」と強調します。

「購入検討者への情報提供は、何も重要事項調査報告書だけでしか行えないわけではありません。例えば管理組合ではなく、専有部分の区分所有者が発行できる『告知書』という資料があり、物件の所有者にしかわからない事項を記載し、買主とのトラブル防止に役立てることができます。専有部分に関わる事項は告知書で開示し、重要事項調査報告書では共用部分に関わる情報提供を行うなどの使い分けが重要でしょう」

このように重要事項調査報告書は、管理会社や販売中の物件を所有する区分所有者との協議・調整を行ったうえで、慎重に作成すべき資料といえます。柔軟に運用することで、中古物件を取得した新たな区分所有者を、問題なく受け入れられるようにしたいですね。

後々のトラブルを避けるためにも重要事項調査報告書はしっかりと作成したい

(プロフィール)
おとうふマンション管理士事務所 代表・澤田 亮

マンション管理士。2022年4月に新潟県マンション管理士会理事就任。主に新潟県内の高経年自主管理マンションや小規模マンション管理会社のコンサルティングを行う事務所を2022年8月に設立。マンション管理士の他、宅建士や管理業務主任者、2級ファイナンシャルプランニング技能士等複数の国家資格取得。

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【連載】マンション管理最前線

「近年に見られる大規模修繕工事のトレンドは?」「今後、マンション価格はどう変動するのか?」「災害リスクとどう向き合べきか?」など、この連載では、マンション管理・修繕を巡る最新事情をお伝えしていきます。

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