連載:これで解決!マンション暮らしのトラブル

「災害時」のトラブルを解決したい!

2021.12.10
「災害時」のトラブルを解決したい!

マンションでよくある困った問題をテーマに、その解決方法を紹介していくこの連載。今回は「災害時」のトラブルに目を向けたいと思います。

地震による倒壊や損傷を防ぐため、マンションの耐震基準は「建築基準法」により定められています。しかし、建物そのものに損害がなくても、電気や水道などのライフラインが止まってしまうといったトラブルは少なくありません。

では、災害時に想定されるトラブルにはどのようなものがあるでしょうか。もしもの時に備えてできる対策についても解説します。

地震、火事、大雨……どんな災害リスクがある?

災害リスクについて知っておこう

日本は地震活動が活発な環太平洋変動帯に位置しています。世界で起きたマグニチュード6.0以上の地震のうち、18.5%が日本で起きているのです。

地震が起きると家具などの転倒によって負傷する恐れがあるだけでなく、ガス管や電気配線の破損、可燃物とストーブの接触などで火事になる恐れもあります。

地震や火事のほかにも、台風や大雨による災害も少なくありません。2020年7月に起きた熊本豪雨や2021年7月に熱海市で起きた伊豆山土砂災害など、記録的な大雨の影響で川の氾濫や土砂災害が起きてしまった例も記憶に新しいでしょう。

とはいえ、上記のような災害が発生しても、住宅や家具の損傷、それに伴う事故やケガが発生しないこともあります。特にマンションの場合は、一室が火事になっても延焼しない可能性もありますし、大雨による被害も、川や山林の近くでなければ直接的な被害は避けられるかもしれません。2階以上なら大雨による浸水被害も避けられます。

住宅には「建築基準法」で耐震基準が定められていますし、1978年の宮城県沖地震を受けて1981年6月1日以降には従来よりも基準が強化されました。旧耐震基準においては「中地震で崩壊しない程度」とされていたものが、「中地震(震度5強程度)ではほとんど損傷しない程度」「大地震(震度6強~7程度)で倒壊・崩壊しない程度」と改められたのです。新耐震基準で建設されたマンションであれば、建物の倒壊といった大きな被害には繋がりにくいといえるでしょう。

ただし、大きな被害ではなくても、日常生活に支障をきたすトラブルが生じる可能性は大いにあります。非常時に身を守るため、身近に起きる可能性が高いトラブルを把握しておく必要があります。

災害発生時に起こるトラブル

建物や家具の損傷とそれに伴う身体の負傷のほかに、災害時にはどんなトラブルが起きるでしょうか。身近に起きる可能性の高いトラブルを4つ紹介します。

【トラブル1】エレベーターが止まってしまう

地震の時には安全のためにエレベーターが緊急停止することが考えられる

エレベーターには、大きな揺れを感知すると自動的に運転を停止する「地震時管制運転装置」という安全装置の設置が、2009年以降義務づけられました。利用者の閉じ込めを防止するため、センサーが揺れを感知すると自動的に最寄階に停止します。

安全装置が作動し停止した場合、軽微な揺れであれば一定時間経過後に自動で復帰しますが、基本的にはエレベーターに損傷がなかったとしても、技術者の点検を受けるまで復帰しません。

仮に地震発生後にエレベーターが動いたとしても、停電や故障などで緊急停止する可能性や、内部が損傷している恐れもあります。安全確認ができるまで、利用は控えたほうが良いでしょう。

なお、2009年以前に設置されたエレベーターでは安全装置が付いていない可能性もあります。揺れを感じたら自分でも「すべての行き先階ボタン」を押し、停止した階で降りましょう。万が一閉じ込められてしまった場合は、呼び出しボタンで管理会社に連絡し、落ち着いて救助を待ちます。

帰宅や外出時にエレベーターが止まってしまっていたら、階段を利用する必要もあるでしょうから、普段階段を利用しない方は非常階段の位置を把握しておきましょう。

【トラブル2】ガス・電気が止まる

災害規模が大きければガスや電気が止まることも考えられる

ガスメーター(マイコンメーター)は震度5以上の揺れを感知すると、自動でガスを止めるシステムになっています。また、台風や大雨でも、メーターが異常を感知してガスを止める場合があります。

特に都市ガスの場合、プロパンガスのように家庭ごとの個別供給ではなく、供給所から配管を通してガスが送られます。配管や供給所に損傷があると、地域一帯のガスが止まってしまうトラブルになりかねません。

また、電柱や電線に損傷が加わると電気も止まってしまいます。復旧には、発電所に近いエリアから順番に電気を流し、停電原因のあるエリアを絞り込む作業が必要です。自宅エリアに停電原因が無ければすぐに復旧する場合もありますが、状況によっては1日以上停電したままの可能性もあります。

ガスが止まると料理や入浴が、電気が止まると照明や空調、セキュリティシステムにも支障が出るため、日常生活に大きく影響する問題です。

【トラブル3】給排水ができない

老朽化した水道管の破裂や、給水施設や浄水場の損傷は、給排水ができない原因となります。大雨で貯水池に土砂が流れ込んだり、停電で送水ポンプが機能しなかったりした場合にも断水する可能性が高いです。給排水に支障が出ると、飲料の確保や料理、洗濯、入浴に支障が出てしまいます。

また、断水していなかったとしても、排水管が損傷している恐れはあります。震災時には、マンションの上階の人がトイレを流すと、下の階で水漏れが発生するというトラブルも起きました。下水処理場などが被害を受けている場合には、下水道の利用を自粛する必要もあるでしょう。実際、震災時に下水道の利用を最小限にとどめるよう市民に協力を依頼した自治体もありました。

避難所などに避難せず自宅にいる場合であっても、飲み水の備蓄に加え、簡易トイレの備えがあると安心です。

【トラブル4】食料が不足する

給排水やガスが止まることで料理ができないといった問題は、食べるものが無くなるトラブルにも繋がります。家庭や地域の状況次第ではすぐに買い物にいけないケースもあるでしょう。

カセットコンロがあるとガスや電気を使わなくても調理ができます。ただし、断水で洗い物ができない可能性もあるため、調理の必要がない食糧を準備しておけると良いですね。

災害時に備えてできること

では、災害時のトラブルに備えて普段からどのような対策ができるでしょうか。

【対策1】家庭内危険箇所のチェック

タンスや棚といった背の高い家具は、地震発生時に転倒の危険があります。食器棚や本棚は、中の物が飛び出してくる恐れもあるでしょう。

停電になると、ちょっとした段差がケガのもとになります。事前に家庭内の危険箇所をチェックするとともに、落下・転倒・移動の可能性がある物は固定しておいたり、滑り止めマットを敷いたりいった対策をとりましょう。

特に、就寝場所や出入り口付近には家具等が倒れ込んでくることのないよう、安全を確保しておく必要があります。

【対策2】防災グッズ・食料の準備

非常時に備えて防災グッズを準備しよう

避難する必要があるほどの大きな被害を受けずとも、自宅で待機する必要にせまられる状況もあるでしょう。その際に断水や停電が起きる可能性もあります。非常時に必要なものをあらかじめ備えておくと、もしもの際に安全・安心を得られます。

もちろん、避難も想定して防災グッズをリュックサックに詰めた「非常用持ち出しバッグ」も用意しておけるとなお安心です。

災害時に準備しておくとよい物については、内閣府からも発表されています。下記を参考に準備してみてください。

【食料・飲料・生活必需品などの備蓄の例(人数分用意しましょう)】
・飲料水 3日分(1人1日3リットルが目安)
・非常食 3日分の食料として、ご飯(アルファ米など)、ビスケット、板チョコ、乾パンなど
トイレットペーパー、ティッシュペーパー・マッチ、ろうそく・カセットコンロ など
※ 大規模災害発生時には、「1週間分」の備蓄が望ましいとされています。
※ 飲料水とは別に、トイレを流したりするための生活用水も必要です。日頃から、水道水を入れたポリタンクを用意する、お風呂の水をいつも張っておく、などの備えをしておきましょう。

【非常用持ち出しバッグの内容の例(人数分用意しましょう)】
・飲料水、食料品(カップめん、缶詰、ビスケット、チョコレートなど)
・貴重品(預金通帳、印鑑、現金、健康保険証など)
・救急用品(ばんそうこう、包帯、消毒液、常備薬など)
・ヘルメット、防災ずきん、マスク、軍手
・懐中電灯、携帯ラジオ、予備電池、携帯電話の充電器
・衣類、下着、毛布、タオル
・洗面用具、使い捨てカイロ、ウェットティッシュ、携帯トイレ
※乳児のいるご家庭は、ミルク・紙おむつ・ほ乳びんなども用意しておきましょう。

【対策3】避難訓練への参加

マンションや自治体によっては避難訓練を実施しているところもあります。特に、戸数の多いマンションや住宅密集地では、それだけ多くの人が生活・移動するため、混乱が起きる可能性も高くなるでしょう。

避難訓練に参加することで地域の災害リスクも把握できますし、実際に避難するような災害が起きなかったとしても、万が一の対応が分かっていれば落ち着いて行動できます。

自主防災組織があるマンションでは、共同備蓄を有していたり、エレベーター停止時に要介護者を移動させる訓練をしていたりするところもあります。自分の身を守ることはもちろん、同じマンションや地域に住む人同士で助け合うためにも、避難訓練に参加してみてはいかがでしょうか。

マンションや自治体ごとに防災マニュアルを用意しているところもあるので、まずはお住まいの地域の防災情報を確認してみましょう。

以上、今回は災害時をテーマに、トラブルとその対策を紹介してきました。

マンションの倒壊や焼失といった大規模な損害が無かったとしても、ライフラインが止まったり食糧が尽きてしまったりといった、生活に影響するトラブルが生じる恐れは充分にあります。

マンションや自治体の防災マニュアルを確認するとともに、家庭で話し合い、もしもの時に備える意識が大切です。

イラスト:カワグチマサミ

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この連載について

【連載】これで解決!マンション暮らしのトラブル

複数の世帯が生活を送る分譲マンションでは、共用スペースの使い方やペットの飼育、ゴミ捨て場における利用マナーなど、思いがけないトラブルに遭遇する可能性があります。そこで、本連載『これで解決! マンション暮らしのトラブル』では、マンションでよく起こる困った問題の解決方法をテーマごとにご紹介。トラブル発生の防止や、万が一起こってしまった際の対応マニュアルとしてもご活用ください!

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