マンションの書面決議とは? 新型コロナウィルス禍では総会の代わりになる?
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、総会の開催をどうするか、悩んでいるマンションも多いかもしれません。そこで、多くの住民が集まらずに議案を決議する方法の一つ「書面決議」も検討したいところ。今回は法律上の書面決議の扱いや、実施する際の注意点について解説します。
そもそも書面決議ってなに?
マンションの「書面決議」とは、総会を行わずに区分所有者の合意形成を図る方法です。区分所有法では、以下のように定められています。
第1項「この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。ただし、電磁的方法による決議に係る区分所有者の承諾については、法務省令で定めるところによらなければならない」
第2項「この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があつたときは、書面又は電磁的方法による決議があったものとみなす」
つまり「書面による決議」は「総会による決議」と同等の効力があるということ。ただし簡単に実施できるものではなく、書面決議を実施するには区分所有者全員の承諾が必要となります。
議決権行使書との違いは?
書面決議と混同しやすいものに「議決権行使書」があります。両者の違いをまとめると、次の通り。
書面決議:総会を開催しない。総会決議の代わりとして書面で決議をとる。
議決権行使書:総会を開催する。欠席する組合員が書面によって議決権を行使できる。
大きな違いは総会を開催するかしないかという点です。議決権行使書は、総会に参加できない方が議案ごとに「賛成・反対」を明記して提出する書類のこと。そのため総会自体は開催する必要があります。欠席者は議決権行使書を提出することで、総会に出席して議決権を行使したのと同じように扱われるわけです。
新型コロナウィルス禍で総会を開催せず、書面決議を行うことは可能?
マンションでは区分所有法にもとづき、年1回の総会開催が義務付けられています。しかし法務省は以下のように見解を示しており、もしコロナの影響で総会延期となった場合、直ちに法律違反には当たらないと判断されています。
「今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、前年の集会の開催から1年以内に区分所有法上の集会の開催をすることができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後、本年中に集会を招集し、集会において必要な報告をすれば足りるものと考えられます」
しかし総会を延期してもなかなかコロナが収束せず、人数を絞って開催するのも難しいという場合もありますよね。そこで有効な手段の一つとして考えられるのが書面決議です。
新型コロナウイルス禍での書面決議の可否については、公益財団法人マンション管理センターからも以下のような見解が出されています。
「通常総会において決議すべき事項について、区分所有法第 45 条第1項又は同条第2項の要件を満たす場合には、通常総会を開催しなくても、これらのいずれかの方法により決議することができるものと考えられます」
つまりコロナの影響で総会が予定通り開催できない場合、書面決議も一つの方法として有効であるということ。ただ、区分所有者全員から書面決議の承諾を取るのが難しい場合、議決権行使書や委任状を活用して総会を開催するという方法もあります。
書面決議前、区分所有者から承諾を取る方法とは?
書面決議を行うには区分所有者全員の承諾が必要。事前に、書面決議の承諾を求める「書面」を配布しなければなりません。
ただ承諾はまとめて取ることはできず、決議が必要な議案ごとに必要となります。例えば3つの議案がある場合、それぞれに対して書面決議を「承諾する/しない」と意思表明をしてもらうわけです。各議案ごとに「賛成か反対か」だけではなく「承諾するしない」を決める必要があるため、若干面倒に感じるかもしれません。
以降では、承諾を取るときの書面例も紹介しておきます。
承諾を取るときの書面例
令和〇年〇月〇日
〇〇区分所有者各位
〇〇管理組合 理事長〇〇
書面決議承諾のお願い
平素は当組合の業務にご協力いただき誠にありがとうございます。
さて当管理組合では、例年この時期に通常総会を開催しておりますが、このたび新型コロナウイルス感染拡大に伴う非常事態宣言が出され、開催が難しい状況となっております。
そこで組合員各位の健康と安全を考え、区分所有法第45条第1項の規定に基づき、書面決議を行いたいと思います。
なお書面決議を行うためには、議案ごとに組合員全員の承諾が必要です。お手元の議案書をお読みいただき、承諾するか否かをそれぞれご判断ください。お一人でもご承諾いただけない議案については書面決議を行えませんので、何卒ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
各議案について、書面決議を行うことを
第1号議案 令和2年度事業報告・収支決算 (承諾する・承諾しない)
第2号議案 令和3年度事業計画・予算案 (承諾する・承諾しない)
第3号議案 令和3年度理事および監事承認 (承諾する・承諾しない)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〇号室 氏名
各議案について「承諾する・承諾しない」のいずれかに丸をつけて、〇月〇日までに管理事務室ポストへ投函のほどよろしくお願いいたします。なお期限までに意思表明がない場合、承諾したものとみなします。
書面決議を行うときの3つの注意点
【注意点1】原則として「総会開催」の代わりにはならない
書面決議は総会での「決議」の代わりにはなります。しかし、総会「開催」の代わりにはならないとされています。そのため区分所有法で必須とされている「年1回以上の総会開催」を満たすことはできず、あくまでも緊急措置。場合によっては、議決権行使書を活用して総会を開催する方法などを検討すると良いでしょう。
【注意点2】全員から承諾を得るのが難しい
先述のとおり、区分所有者のうち一人でも承諾を得られなければ、書面による決議はできません。とくに規模の大きいマンションだと、全員から承諾を得るのは非常にハードルが高いかもしれません。
承諾を得るためにも、マンションの現状を説明しておき、理解してもらうことが大切。理事会を主体とした継続的な情報発信が、承諾をスムーズに集める鍵と言えるでしょう。
【注意点3】意見交換が難しく、一方通行になることも……
総会であればほかの参加者の意見を聞いたり、不明点を質問したりして、議案への理解を深めることができます。しかし書面決議となると、判断材料は総会議案書のみ。質問や補足説明も難しく、一方通行での意思決定になりがちです。
やはり望ましいのは、総会を開催し、話し合いによって意思決定されること。書面決議はあくまでも緊急手段として、総会延期やオンライン総会などを含めて検討すると良いでしょう。
書面決議はあくまでも緊急時の対応
書面決議とは、本来ならば総会で決議すべき事項を、書面によって決議できる手段です。総会を延期してもなかなか新型コロナ感染症が収束しない場合などに、有効な手段の一つと言えるでしょう。
ただ、書面決議の実施には区分所有者全員の合意が必要。また総会を開催しないことで、お互いに意見を交わす場がなくなるというデメリットもあります。感染リスクについて慎重に判断しつつ、オンラインでの総会実施や、議決権行使書の活用などもあわせて検討しましょう。